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VRゲームの未来へ「繋げる」作品作り 『恋来い温泉物語VR』が生み出す新しいゲーム体験


恋来い温泉物語VR

2022年10月に、ULTRANOVA entertainmentよりリリースされたVR恋愛アドベンチャーゲーム。

Steam・DLSiteにて配信されており、2023年4月には『恋来い温泉物語 Non-VR Edition』もリリースされた。

公式サイト:https://koi2onsen.com/
DLSite販売ページ:https://www.dlsite.com/soft/work/=/product_id/VJ01000461.html
Steam販売ページ:https://store.steampowered.com/app/1840350/VR/?l=japanese

VR×恋愛アドベンチャーで、今までにないゲームを作る

――本日はよろしくお願いします。

――『恋来い温泉物語VR』はULTRANOVA Entertainment様の第一作目とのことですが、一作目にしてVRゲーム開発に着手した理由についてお伺いしたいです。


フジオカ様(以下、フジオカ)「VRを実際に体験して、『次に来る領域はここだ!』と感じたからです。」

フジオカ「当時は会社として新規事業立ち上げを考えている中で、企画者としてVRを見過ごすことはできませんでした。」

フジオカ「リサーチしたところVR恋愛アドベンチャーというジャンルは競合も少なく、挑戦を通じて今までにないコンテンツを作ることができるという期待感が非常に高かったです。」

フジオカ「私自身恋愛アドベンチャーが大好きだったこともあり、完全に情熱と興味関心が先行して『恋来い温泉物語VR』は開発されました。」

――非常に共感できます。恋愛アドベンチャーというジャンルは、VRの没入感と非常に相性が良いように思えますが、今まで開発されていなかった理由についてはどのように考えておられますか。

フジオカ「VR初期にユーザーが求めているのはアドベンチャーのストーリーを『読む』のではなく、身体を動かしてストーリーを『体験』することです。3D空間において『体験』のボリュームを出すのは難しい部分がありました。」

フジオカ「そのため、当時の恋愛系のVRゲームは20分程度で終わるシチュエーション系作品が主軸だった印象があります。」

フジオカ「開発当時は恋愛ジャンル以外でボリューム感のあるVRゲームが出始めた時期でした。その背景を考えると、需要はありつつも開発に手が回っていない状態だったのだと思います。」

――確かに、VRゲームでは従来のゲームよりも1シーンにかかる工数はかなり多くなりそうですね。

フジオカ「「そうですね。その中でも『没入感を高める工夫をすれば』恋愛アドベンチャーは比較的ボリューム感を出しやすいジャンルでした。」

フジオカ「アドベンチャーゲームは会話を通して物語を進めていくので、マップの探索要素は必要ありません。必要なマップ数がそもそも少ないのです。」

フジオカ「そうした背景があり、VR恋愛アドベンチャーという領域に可能性を感じました。開発メンバー全員が恋愛アドベンチャー好きで、開発のイメージをしやすかったのも背景の一つです。」

――開発メンバーの性質的にも、VRゲームの性質的にも、VR恋愛アドベンチャーを作りやすい状況だったということですね。

共感と想像を促進する、最高級のVR体験を生み出す

――開発にあたり、工夫した点を教えてください。

フジオカ「VRという先進的なデバイスだからこそ、敢えて万人受けするベタな魅力を追求したことです。」

フジオカ「恋愛アドベンチャーである以上、魅力的なキャラクター作りは必須条件です。とはいえ、VRは導入ハードルが高いハードウェアであり、通常のゲームに比べユーザー数も限られています。」

フジオカ「だからこそ、ユーザー全員が魅力を感じられるようなキャラクター作りが特に重要だと考えました。」

――確かに、せっかくVRを買ったのにキャラクターが自分に合わない、というのは非常に勿体ないですね。

フジオカ「なのでヒロインはツンデレな姉内気な妹という、多くのプレイヤーに親しみやすいキャラクターにしました。」

フジオカ「その上でヒロイン数を限定してボリューム感を出しつつ、VRならではの演出と併せてキャラクターを理解しながら恋愛できるようにしました。」

――テンプレを踏襲しつつも、独自の魅力が出るようにシナリオ面・演出面で工夫がなされているということですね。

フジオカ「はい。加えて、本作はフルボイスで収録されています。」

フジオカ「収録時間は40時間以上であり、VRの没入感と相まって音声面でも非常に満足できるクオリティになっていると思います。」

VRならではのスケール感を演出

――キャラクターの魅力を引き出すために演出面も工夫されたとのことですが、VRゲーム独自の演出として工夫された部分をお伺いしたいです。

フジオカ「何よりも、まずはグラフィック面に関して特に力を入れて開発しました。」

フジオカ「本作は温泉旅館を舞台にしており、旅館内で全てのシナリオが展開されています。だからこそ旅館の3Dモデルは細かい部分まで作り込んでいます。」

――温泉旅館は実際のものをモデルに作成された形なのでしょうか?

フジオカ「具体的なモデルがあるわけではありません。というのも、旅館自体が本作のギミックに深く関わっているからです。」

フジオカ「露天風呂には一年中咲いている不思議な桜と梅の木が生えており、ヒロインの好感度に合わせて変化します。シナリオと連動して視覚的に変化していく木々が映えるように1から設計しました。」

――シナリオコンセプトが先にあり、それに合わせて旅館のデザインが行われたのですね。コンセプトが決定された経緯についても伺いたいです。

フジオカ「本作を開発するときに、『大きいものを入れたい』という目的がありました。シナリオの根幹である桜と梅は、その目的を満たす要素として位置付けています。」

――なぜ大きいものを入れる、という目的が生じたのでしょうか。

フジオカ「VRならではの視覚的表現を追求するためです。VRの魅力の一つとして見上げた時のスケール感があると思います。」

フジオカ「人間は地に足をつけているからこそ、綺麗な大きなものを見上げる体験は形容しきれない魅力を持っており、没入感に繋がります。」

フジオカ「シナリオの進行と共に変化する背景が視覚的に、そして感覚的に伝わるよう意識しました。」

――ユーザーがVRを体験してどのように感じるか、という点を意識してグラフィック面を開発したということですね。

現代的な魅力を生みつつ、懐かしさを感じられるゲーム設計

――今までのお話を伺っていると、VRゲームはかなりユーザーの主体的な体験が重要になってくるのかなと感じています。そうした体験を生み出す工夫という観点でお話を伺いたいです。

フジオカ「はい。本作を開発する上で感じたのは、VR特有の没入感を高める鍵は『誰でも想像できる』ことです。」

フジオカ「つまり、体験をどれだけ脳内補完できるか、ということになります。」

フジオカ「本作開発当初は温泉旅館を舞台にするという案以外にも様々な企画案が出されました。中にはSFにして宇宙ステーションで恋愛をする、というものもあったり、かなり自由に構想を練っていた形ですね。」

フジオカ「ただ、宇宙ステーションで恋愛をするといわれても、殆どの人にはピンと来ないですよね。具体的な物語が体験に伴ってくる場合、シチュエーションを想像しきれないと十分に没入できません。」

フジオカ「本作で温泉旅館が舞台になったのは、それがあらゆる世代や地域の人に馴染みやすい舞台だと考えたからです。ドラマやアニメでもしばしば登場するので、外国の人でも親しみのある環境かもしれません。」

――全体的に懐かしさを感じさせつつ、キャラデザや3Dという表現手法により現代的な魅力も伝わる作品になっていると思います。

フジオカ「本作では主人公は人格が抑えられていて、ストーリーラインを語る役割に終始しています。そうした部分でも没入感を妨げることなく、共感しやすい作りにしています。」

――多くの人が共有している文脈や世界観を起点に想像が広がるように、意図的にシンプルな設計になるよう工夫されているのですね。

リリース後の動向とユーザーの反響を振り返る

――本作が発売されてから1年ほどが経過しています。ここからは本作発売後の反響や動向について伺っていきたいです。

ユーザーのVR領域に対する関心の高さ

――反響はいかがだったでしょうか。

フジオカ「かなり好意的に受け入れていただけていると思います。」

フジオカ「Steamでの評価は『非常に好評』を維持していまして、SNS上でも好意的な投稿が多数みられています。」

フジオカ「エゴサしていると、『本作をやってるからそっとしておいて!』というようなネタとして使ってもらえていることも多いですね。」

――昨年は東京ゲームショウ2022にも出展されていましたが、こちらではユーザーの反応はどのようなものだったでしょうか。

フジオカ「こちらも大盛況でした。ブースでゲーム上に登場する五右衛門風呂の張りぼてを設置して、コスプレイヤーさんの撮影スポットとして展示をしました。こちらも非常に好評でしたね。」
 

フジオカ「試遊スペースにて体験版もプレイ可能でしたが、こちらは待ち時間が1時間以上になる期間があったりして、ゲーマーのVRに対する興味関心の高さを感じさせる結果だったと考えています。」

Non-VR版により更に魅力度を増す『恋来い温泉物語』

――また、『恋来い温泉物語VR』は先日Non-VR版がリリースされました。

フジオカ「VRデバイスを持っていないユーザーにも私たちのキャラクターを愛してもらいたい、という気持ちで開発しました。」

フジオカ「もちろん、Non-VR版だからこその強みも存在します。」

フジオカ「何より一番大きいのは『作りこまれた3D背景の中で3Dキャラクターがふんだんに動き回る』ことです。」

フジオカ「立体表現のクオリティが作品の品質に直結するVR環境での開発が行われたからこそ、非VR環境でも突出できるほどのグラフィックが実現できたと自負しています。」

フジオカ「VRのハードスペックに合わせて削った表現もNon-VR版ではふんだんに盛り込まれているので、VR版ともまた違った体験を味わうことができます。」

――VRゲームの開発環境だからこその強みが非VR環境でも活かされるということですね。近年のゲームはどれもグラフィックが大幅に進化していることを考えると、それは非常に大きな強みになりそうです。

フジオカ「元々VRではない一般のゲームに負けないゲーム性を追求した作品ですので、Non-VR版だけでも十分以上に楽しんでもらえる自信があります。」

フジオカ「ゲーム性やキャラクター表現が本作の魅力だからこそ、それを届けたいという想いでNon-VR版は開発されている形です。」

――「VRだから良い」のではなく、「元々良作だったものが、VR環境で更に魅力的になった」ということですね。

VRゲームは今後どのように進化する?

――ここからはVRゲーム開発という観点からお話を伺っていきたいと思います。

制約の中でどのように没入感を生み出すか?

――ずばり、VRゲームの強みとは何だと思いますか?

フジオカ「何よりまずはVRゲーム特有の体験がたくさんあることです。」

フジオカ「『恋来い温泉物語VR』で意識した点として、VRの強みである没入感をどう演出するか、ということがあります。」

フジオカ「ハードウェアや開発側のコストが追い付いていない現状はありつつも、エフェクトやサウンドなど工夫次第で今までにない体験を提供することは可能です。」

フジオカ「例えば本作では露天風呂に入るシーンで湯気の表現にこだわりました。」

フジオカ「没入感の高い体験をしていると、あたかも自分の身体が本当に体験しているかのような感覚が生まれることがあるんです。『ファントムセンス』とVR上では呼ばれている感覚ですね。」

フジオカ「『恋来い温泉物語VR』を実際にプレイしていると、温泉に入っている時のように汗が流れることがあります。」

フジオカ「身体的な没入体験も相まって、ヒロインとの恋愛体験によりいっそうリアリティを持たせる役割を果たしてくれていると思います。」

――確かに、VR以外のゲームではなかなか味わえない体験ですね。

フジオカ「他にもわかりやすい例として、ヒロインとの距離感を感じさせる体験を本作では意図的に増やしています。キスや壁ドンといった行動です。」

フジオカ「非VRのゲームと比べて、ヒロインとの距離感を物理的に体験できるのはVRの特徴です。それを踏まえて、本作ではミニゲームに至るまで、ヒロインとの距離感を感じられるものを揃えています。」

――わかりやすいからこそ見過ごしがちですが、確かに距離感は非常に大事な要素ですね。

ユーザーを巻き込んで、家庭用VRゲームを発展させていく

――お話を聞いていると、VRゲーム開発をする上で、ULTRANOVA entertainment様が非常に丁寧に様々な部分で工夫されていることを痛感します。

フジオカ「VRは発展途上技術であるため、現状では多方面で限界があるように思われています。その中でも全く新しい、満足できる体験を生み出すために工夫している感じですね。」

フジオカ「高性能なVRデバイスも増加傾向にあることを考えると、近いうちにソフトウェアも追従してVRゲームは大きく盛り上がっていくと思います。」

フジオカ「特に最近ではVR体験を提供しているアミューズメント施設が多々見られます。個人的には日本のVRはアミューズメント領域から広まっていくと思うこともあります。」

――そう考える理由をお伺いしたいです。

フジオカ「VRアミューズメントでは体験を共有することが可能だからです。」

フジオカ「家庭用VRで得られる体験は非常に素晴らしいですが、得た体験を共有することが難しいのが最大の欠点です。」

フジオカ「VRを通して得られた体験を他人に伝える唯一の方法は、他人も同じようにVRを使用することです。家庭用VRではそれが難しいですが、アミューズメント施設では複数人が全く同じ体験を味わうことができます。」

フジオカ「それに加えて、VRアミューズメントでは物理的・デバイス的な制約も無く、完全に自由な状態でVR体験が可能である点も特徴的です。」

――となると、家庭用VRゲームは今後どのように発展していくのでしょうか?

フジオカ「ソフトウェア側、ハードウェア側だけでなく、ユーザーも巻き込んで連携しながら独自に発展していくようになると思います。」

フジオカ「『恋来い温泉物語VR』をリリースした際、ユーザーに積極的にレビューを投稿するようお願いしました。それはまさに家庭用VRゲームにおける挑戦を促進させる目的で行ったものです。」

フジオカ「現段階でリリースされるVRゲームは、制約がある中でどれだけ自由度や没入感を生み出せるか、という可能性を示す役割を持っていると思います。」

フジオカ「レビューの中で良かった点や悪かった点が記載されていれば、それを踏まえた工夫をした作品が生まれ、VRゲームの新たな可能性を提示してくれると思います。」

フジオカ「そうした動きが活発化すれば、あるいはハード側の方がユーザーの需要に応えてくれるかもしれません。」

フジオカ「そうすることでVRアミューズメントに負けない独自の体験すら生み出しうると私は考えています。」

――ユーザーが積極的にレビューを行うことで、ハード側もソフト側も今まで気づいていなかったVRゲームの新たな可能性が生み出されるかもしれない、ということですね。

フジオカ「その通りです。『恋来い温泉物語VR』が、VRゲームの開発者側とユーザー側を繋げて、VRゲームの未来を生み出す元祖になればいいという意識は開発時から存在しています。」

誰も挑戦していない領域を切り開く

――最後に、今後ULTRANOVA entertainment様がどのようにゲームを作って行くのか、お話を伺いたいと思います。

フジオカ「最初に話したように、『世に無いものを作る』ことが私たちの一番の目的です。」

フジオカ「本作はVR恋愛アドベンチャーの元祖として開発しました。同じように、VR領域に限定せず誰も挑戦したことが無い領域に挑戦できるよう、視野を広げて様々な領域を見ている最中です。」

フジオカ「なので次回作の構想については現状お伝えできる状態ではありませんが、今後も我々が挑戦できることがあるならなんでもしていきたいと思っています。」

――本日はありがとうございました。

ULTRANOVA entertainment

ゲームブランドとして、恋来い温泉物語VRを制作。
東京ゲームショウ2022に同ゲームのブースを出展。ゲームショウで観たことがない「五右衛門風呂」をイメージしたフォトブースや、体験ブースを展開。
 

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