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【レビュー】ISに監禁された青年の壮絶な経験と家族の奮闘の実話―『ある人質 生還までの398日』


ISに人質として監禁されたデンマーク人写真家ダニエル・リュー。

彼が経験した実話の映画化は壮絶な内容だ。

彼は2013年に誘拐され、その監禁期間は398日間にも及んだ。

映画は徹底的に監禁現場の現実を描く。

同じ部屋に監禁されることになった他のジャーナリストたちとの交流。

中には解放される者もいれば処刑される者もいる。

いつ自分が殺されてもおかしくない極限の状況の中、法外な身代金が家族に要求されている事実だけを知ることになる地獄。

IS内のやり取りはほとんど描かれず被害者である当事者たちが知ることのできた情報のみが描かれる。

そのことが先の見えない恐怖と緊迫感を高めている。

映画が映し出すもう一つの局面は本国デンマークでの家族の奮闘だ。

テロとは交渉しない主義から金銭的協力を一切行わない国家に代わり、家族はダニエルの命を救うため法律の障害を潜り抜けて金策に奔走する。

限界と思えるほどの大金を集め、それでも要求額には到底足りない。

そして愛する家族の命を諦めることに値段をつけらるるはずもない。

関係ない人間を不条理に監禁して命と引き換えに大金を要求する、そのISの恐ろしい行動の全てが端的に戦争による憎悪を由来することは想像できる。

ただ家族がひたすら不条理な金策に走るのもまた端的に人間の愛に由来するのだ。

悪魔のような憎悪を発散するのも、どんな憎悪にも負けない愛を発揮するのも同じ人間だというシンプルな事実。

憎悪は今日も世界中で容易く拡大していっている。

一方で愛もさらに繋がりを見せるということを示唆するこの映画は一つの確かな希望を与えてくれる。

 

『ある人質生還までの398日』

怪我のために体操選手の道を断念したダニエルは、ずっと夢だった写真家に転身。戦争の中の日常を撮影するため、シリアの非戦闘地域を訪れた。だが現地の情勢が変わり、ダニエルはISに誘拐され拷問を受ける。家族は巨額の身代金を用意するために奔走するが、犯人側は容赦なく追い討ちをかけ、過大な要求を突きつけてくる……。

■監督:ニールス・アルデン・オプレヴ、アナス・W・ベアテルセン
■出演:エスベン・スメド、トビー・ケベル、アナス・W・ベアテルセン、ソフィー・トルプ
■原作:プク・ダムスゴー「ISの人質 13カ月の拘束、そして生還」(光文社新書刊)
■配給:ハピネット

(c)TOOLBOX FILM / FILM I VÄST / CINENIC FILM / HUMMELFILM 2019

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