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現在のVRによる知覚には「不自然さ」が潜んでいる。しかし、より「自然な」知覚に近づける研究も進んでいる。


イギリス・リーズ大学で認知心理学を研究しているMark Mon-Williams教授は、長文投稿メディアMediumにVRによる知覚に潜む「不自然さ」に関する論考を投稿した。本記事では、同教授が指摘するVRにまつわる「不自然さ」をまとめたうえで、その「不自然さ」を克服する研究が進められていることも紹介する。



脳の高負荷状態を引き起こす現在VRヘッドセット


「未知」を最小化する脳の働き


ヒトは、環境の情報を知覚して、その知覚をもとにして行動し、その行動によって環境の情報も変わっていく。このヒトと環境のこうした当たり前の関係は、「ヒトは、知覚と行動を通じて、環境とインタラクション=相互作用している」と言ってよいだろう。


ヒトは、環境とのインタラクションを、様々な経験を積むことによって学び、豊かにしていく。学習済みの馴染みの知覚に対しては、ヒトはすぐにリアクションすることができる。例えば、木に生えている丸くて赤いモノはリンゴであり、それは基本的には食べられるからもぎ取ってもよい、というように知覚と行動が滑らかに連携している。


ところが、未知の知覚に関しては、知覚と行動の連携は円滑にはつながらない。こうした知覚と行動が連携していない状態は、脳では「驚き」として体験される。ヒトは未知の知覚に出会ったとき、その知覚を引き起こしたモノに驚き、その状況か何らかの行動ができるように学習するのである。


「驚き」から始まる学習は、驚きがなくなり、知覚と行動の連携が「当たり前」のものとして確立されるまで続く。簡単に言うと、初見のモノも、何度か見ているうちに慣れてくるのだ。


以上のように、ヒトの脳は驚くべきモノに出会ったとき、もはや驚くに値しないようなモノにするように働くようにできている。Mon-Williams教授は、こうした脳の働きを「ヒトの脳は、驚きを最小化するように設計されている」と表現する。


焦点移動と眼球運動の自然なつながり


ところで、何かを見ることに伴って起こる一連の行動あるいは反応として知られているのが、焦点移動と眼球運動である。


ヒトが何かを見る時、まずはじめに見る対象に焦点を合わせる運動が起こる。焦点が合った後、見る対象をさらによく見るために、眼球が動く。つまり、まず焦点が定まった後に、眼球が焦点に向かって動く、ということがモノを見ることで実行されているのだ。


こうした焦点移動と眼球運動は密接に連携しており、この連携は専門的には「神経的クロスリンク」と呼ばれている。


ところで、もし焦点移動と眼球運動の連携に亀裂が生じたら、脳は異常を検知するだろう。その以上は「驚き」として体験され、その「驚き」を最小化すべく、脳は働き出すだろう。


焦点移動と眼球運動がミスマッチな現在のVR


実のところ、現在のVRヘッドセットによる視覚体験では、焦点移動と眼球運動の連携に亀裂が生じている


VRヘッドセットを着用したユーザは、奥行きのある3次元的VR空間を体験することができる。そのVR空間には、遠くにあるモノもあれば、近くにあるモノがあるように見える。しかし、現実にユーザの目の前にあるのは、VRヘッドセットに実装された平面的ディスプレイである。VR空間で体験される遠近感は、錯覚に過ぎないのだ。


このVR空間内での偽りの遠近感を体験している時、次のようなことが起きている。VR空間内ので遠くのモノに焦点を合わせようとしても、実際には眼球の前にあるディスプレイにしか焦点が合っておらず、それゆえ、眼球は焦点が合っていないモノを見るように動くのである。こうしたVR空間における焦点移動と眼球運動の不一致は、脳にとっては未知の体験である。


焦点移動と眼球運動の不一致によって生じた「驚き」を最小化すべく、脳はこの不一致を解消すべく働き出す。その結果、VR空間内では脳は高負荷状態となっている。


VR体験時に生じる脳の高負荷状態は、目の疲れ、あるいは軽い頭痛として体験される。こうしたVRが引き落とす脳の高負荷状態は、短期間ならば、あまり問題はないだろう。しかし、長期間にわたって脳が高負荷状態にさらされた場合、どのような影響が出るかまだ分かっていない。


さらには、脳がまだ未発達な子供が、VR体験によって生じる脳の高負荷状態に長期間さらされた場合、脳の発達にどのような影響があるかも分かっていない。分からない以上、悪影響が出ることもありえるだろう。


以上のようなVR体験によって生じる脳の高負荷状態は、画質を向上させる=画素数を増やしても解消されるものではない。画素数を増やしても、現実にヒトの目が見ているのは、VRヘッドセット内の平面的ディスプレイであることに変わりはないからである。


より「自然な」視覚を目指すVRの研究事例


焦点移動と眼球運動によって生じる脳へのストレスは、今後のVRの発展のために解決しなければならない問題である。この問題への取り組みは、すでに始まっており、本メディアでもその研究を報じている。


フォーカルサーフェイスディスプレイ



Oculus社の研究部門Oculus Researchが発表した「フォーカルサーフェイスディスプレイ」は、VRヘッドセットを装着した状態でも現実にヒトが体験しているような焦点移動を実現するディスプレイである。


現実の焦点移動では、焦点の合っている周辺ははっきり見えて、焦点が合っている箇所から離れるにしたがって、ぼやけて見えている。既存のVRヘッドセットでは、この焦点移動が再現できていなかった。


「フォーカルサーフェイスディスプレイ」は、こうした自然な焦点移動を再現することを目指しているのだ。


画像光学的マッピング



アメリカ・イリノイ大学のLiang Gao氏は、焦点移動と眼球運動の不一致を解消する技術「画像光学的マッピング」を発表した。


この技術も、焦点が合っている箇所ははっきり見え、焦点から離れるにしたがってぼんやり見えるというヒトの視覚を再現しようとしたものである。


現在のVRヘッドセットは、Mon-Williams教授が指摘する通り、焦点移動と眼球運動の不一致に起因する脳へのストレスが避けられない。そのため、安易に子供に長時間の利用させるのは、避けるべきである。だがしかし、この脳へのストレスを解消する研究も進んでおり、VRヘッドセットもテレビやスマホのように普通に使うには「安全な」メディア・デバイスになると見て、間違いないのではなかろうか。


ソース:Medium

https://medium.com/@UniversityofLeeds/is-virtual-reality-bad-for-our-health-the-risks-and-opportunities-of-a-technology-revolution-31520e50820a


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