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ギャンブル依存症が無くなる?サルの脳を刺激し「ハイリスク・ハイリターンを好む傾向」の抑制に成功


ギャンブルの多くはハイリスク・ハイリターンです。

ギャンブルが好きな人は、多大な報酬が得られたときの快感や「それが得られるかもしれない」という期待から、高いリスクを取り続けます。

時には、その刺激が依存症に発展することさえあり、これをギャンブル依存症と呼びます。

最近、京都大学大学院医学研究科に所属する佐々木 亮氏ら研究チームは、サルの脳に光刺激を与えることで、サルの「ハイリスク・ハイリターンを好む傾向」を「ローリスク・ローリターンを好む傾向」へと変化させることに成功しました。

こうした成果は、人間のギャンブル依存症の治療へと繋がる可能性があります。

研究の詳細は、2024年1月5日付の科学誌『Science』に掲載されました。

目次

  • ハイリスク・ハイリターンを好むサルを変化させることに成功

ハイリスク・ハイリターンを好むサルを変化させることに成功

私たち人間は、様々な活動において、リスクと報酬のバランスを考慮して選択しています。

失敗する確率が高いとしても、大きな報酬のためにチャレンジする「ハイリスク・ハイリターン」を選択することもあれば、報酬が少なくても失敗の確率が低い「ローリスク・ローリターン」を選択する場合もあるでしょう。

様々な場面で、「ハイリスク・ハイリターン」か「ローリスク・ローリターン」を選んでいる
様々な場面で、「ハイリスク・ハイリターン」か「ローリスク・ローリターン」を選んでいる / Credit:Canva

どちらの選択も時には必要かもしれませんが、選択の傾向(好み)は人によって異なります。

その傾向が、どちらかに強く偏っている場合もあるでしょう。

では私たちの脳は、どのようにハイリスク・ハイリターンかローリスク・ローリターンを選択しているのでしょうか。

これまでの研究により、脳の「報酬系」と呼ばれる経路が、この選択のバランスを取っていると示唆されていましたが、詳細な解析は行われていませんでした。

そこで今回、佐々木氏ら研究チームは、サルを用いた実験によって、その点を明らかにしようとしました。

まず実験では、サルにハイリスク・ハイリターンかローリスク・ローリターンを選択する単純な課題を行わせました。

そうするとサルには、ハイリスク・ハイリターンをより好む傾向「リスク嗜好性」があると分かりました。

研究のイメージ。ハイリスク・ハイリターン(HH)とローリスク・ローリターン(LL)の経路を選ぶゲームをするサル。(実際の研究では、目線で色を選ぶ二者択一課題)
研究のイメージ。ハイリスク・ハイリターン(HH)とローリスク・ローリターン(LL)の経路を選ぶゲームをするサル。(実際の研究では、目線で色を選ぶ二者択一課題) / Credit:Trais_リスクと報酬の意思決定バランスを光で調節– 精神神経疾患などの病態解明に期待 –(京都大学 WPI-ASHBi, 2024)

また課題遂行中のサルの脳領域を細かく分けて、それぞれの活動を網羅的に抑制していくと、特に「腹外側6野(6V)」と呼ばれる部位でリスク嗜好が消失すると判明しました。

つまり、この部位がリスク嗜好性を担う主要な部位である可能性が高いのです。

そして6Vへの脳経路に着目して、光遺伝学的手法(光によって活性化されるタンパク分子を特定の細胞に発現させ、その機能を光で操作する手法)を用いて刺激することで、ハイリスク・ハイリターン嗜好が高まる部位と、ローリスク・ローリターン嗜好が高まる部位を特定することに成功しました。

そしてこの方法を用いて、サルの好みをハイリスク・ハイリターンからローリスク・ローリターンへと変化させることができました。

さらに、これらの部位の活性化は、実験日を超えて蓄積すると分かりました。

つまり、光刺激を与え続けることにより、それぞれの嗜好を増強できるのです。

実際に研究チームはこの方法を用いて、サルのリスク嗜好性を持続的に強めたり緩和させたりすることに成功しました。

加えてチームは、6V脳領野の神経活動をコンピューターで解析することにより、サルの意思を解読しています。

人間のギャンブル依存症の治療に役立つかも
人間のギャンブル依存症の治療に役立つかも / Credit:Canva

今回の研究では、サルの脳において、ハイリスク・ハイリターンもしくはローリスク・ローリターンの選択プロセスの一端を明らかにし、嗜好性を変化させることに成功しています。

現在、ギャンブル依存症など、病的なまでにハイリスク・ハイリターンを好む人たちがいます。

今回の成果を活用することで、もしかしたら将来、それら人間のギャンブル依存症を治療することが可能になるかもしれません。

依存症で苦しんでいる本人や家族にとって、この可能性は希望となるでしょう。

ちなみに佐々木氏は、研究に時間をかけるほど成果が求められる中で、今回の成果が得られるまでに丸6年を費やしたことから、「我々はハイリスク・ハイリターンを選択していた?」とコメントしています。

この「研究者たちのハイリスク・ハイリターンな選択」こそが、将来、「多くの人のハイリスク・ハイリターンの選択」を抑制するのかもしれません。

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参考文献

リスクと報酬の意思決定バランスを光で調節 – 精神神経疾患などの病態解明に期待 –
https://ashbi.kyoto-u.ac.jp/ja/news/20240105_research-result_tadashi-isa/

元論文

Balancing risk-return decisions by manipulating the mesofrontal circuits in primates
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adj6645

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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