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どれくらい時間が過ぎたかわからない…「ADHDの時間盲」とは?


私たちは音や光、振動など、環境のあらゆる信号を感じるのと同様に「時間の感覚」を持ち合わせています。

ヒトの脳は内外のさまざまな情報に基づいて、今が何時で、あれからどれくらいの時間が過ぎ、次の予定まで何時間くらいあるかを、ある程度正確に把握することができます。

ところがADHD(注意欠如・多動症)やその傾向が強い人では、こうした時間認識が欠如する「時間盲(time blindness)」が現れることが知られています。

時間盲とは具体的にどのような症状なのか、またADHDの人々が時間盲を起こしてしまうのはなぜなのでしょうか?

目次

  • 大人に見られる「ADHD」の特徴とは
  • ADHDで「時間盲」が起こる2つの原因

大人に見られる「ADHD」の特徴とは

ADHDは大人になっても見られる
ADHDは大人になっても見られる / Credit:canva

ADHDとは、集中力が持続しない「不注意」、落ち着きがない「多動性」、思いつくとすぐに行動してしまう「衝動性」などを特徴とする発達障害です。

その多くは12歳以前の小児期から見られますが、大人になってもADHDと診断されるケースはよくあります。

またADHDの診断基準をすべて満たしているわけではないものの、その傾向がある状態のことを俗に「グレーゾーン」と呼びます。

特に大人になると、多動性や衝動性は目立たなくなりますが、不注意の特性が強くなり、私生活での物忘れ仕事中のうっかりミスや遅刻作業時間の大幅なオーバーなどが多くなります。

実は、こうしたADHDに見られる症状は「時間盲」と密接に関わっているのです。

「時間盲」とは何か?

時間盲とは、頭の中で時間の経過を認識したり、測ったりすることができない状態を指します。

多くの人は時計を意識しなくても、出かける時間まであと何分あるか、着替えや準備にどれくらいかかるか、本を読んだりテレビを見ていて何十分経ったかが感覚的に分かるでしょう。

ところがADHDの人では、こうした時間感覚が抜け落ちてしまって、経過した時間や進行中のタスクにかかっている時間が分からなくなるのです。

具体的な例を挙げてみます。

最も大きな特徴は、時間の感覚を見失うことです。

例えば「お昼はいつ食べました?」とか「最後に旅行に行ったのはいつですか?」といった質問を受けると、それらの出来事がどれくらい前だったかが分からず、上手く答えられません。

また時間経過を体感で測ることも困難です。

9時30分に時計を確認し「30分だけ読書しよう」と本を読み始めて、「そろそろ時間かな」と思って時計を見ると12時を回っているということが頻繁にあります。

時間盲がADHDに見られる不注意や物忘れに繋がっている
時間盲がADHDに見られる不注意や物忘れに繋がっている / Credit:canva

米マサチューセッツ総合病院(MGH)のスティーヴン・ガンズ(Steven Gans)氏によると、ADHDの人は「時間を意図的に無視しているのではなく、感覚的に忘れてしまう」点で共通しているといいます。

言い換えれば、あるタスクを始めると、それに集中したり夢中になりすぎるあまり、「何分くらい経ったか」という時間の意識がすっぽり抜け落ちてしまうのです。

そしてこうした時間盲が、ADHDの主症状として見られる不注意によるミスや物忘れを引き起こしていると考えられます。

では、どうしてADHDでは時間の感覚が失われてしまうのでしょうか?

ADHDで「時間盲」が起こる2つの原因

近年の研究で、ADHDの原因には前頭葉(※)の働きが生まれつき弱いこと、あるいは何らかの機能的な障害が起きることが関わっていると指摘されています。

(※ 注意・思考・感情のコントロールを司ったり、物事を整理・処理・実行する機能を担っている脳領域のこと)

そうした脳の問題が、次の2つの機能障害を起こすことで時間盲を誘発しているのではないかと考えられています。

1つは実行機能の障害です。

実行機能とは、あるタスクを実行するために必要な一連の脳機能を指します。

具体的には「タスクの計画を立てる → タスクを小分けして段取りを考える → その作業をスケジュール通りに進める → 修正点があればチェックし直す → 不必要な感情や欲求は制御する」などです。

しかしADHDの人は実行機能がうまく働かないため、タスクをいくつかの作業プロセスに小分けしたり、計画に沿って物事を進めることが難しくなります。

例えば、友人とお昼の12時に待ち合わせしているシチュエーションを考えてみましょう。

朝8時に起きたとすると、待ち合わせに間に合うように「準備」を始めます。

ところがADHDの人は「準備」というタスクを「朝ごはんを食べる」「シャワーを浴びる」「服を着替える」「タクシーを呼ぶ」といった作業に小分けして、計画することができません。

そのせいで時間の計算を誤り、待ち合わせ時間に遅刻する「時間盲」が起きてしまうのです。

時間盲が起きるのは脳の機能障害に原因がある?
時間盲が起きるのは脳の機能障害に原因がある? / Credit: canva

もう1つはドーパミンの機能障害です。

ドーパミンとは神経伝達物質の一つで、集中力や意欲を高める作用があります。

ところがADHDではドーパミンの出方が非常に不安定になっていることが分かっています。

例えば、周囲から強制されるような宿題や作業をするときはドーパミンが出ないので、集中力を欠き、不注意や多動性の症状が出ます。

その一方で、ゲームや読書、テレビの視聴など自分の趣味や好きな作業をするときは、逆にドーパミンが出過ぎて、声をかけても聞こえなかったり、次の作業に移れなくなります。

これが時間感覚の喪失を引き起こしていると考えられるのです。

「時間盲」と上手く付き合うには?

時間盲は仕事にもプライベートにも多大な悪影響を及ぼし、周囲との人間関係だけでなく自尊心までも深く傷つけてしまいます。

しかしADHDの時間盲が、ここまでに述べたような脳の機能障害にあることを考えると、それを根本から治すことはできません。

それでも時間盲と上手く付き合いながら、身の周りの時間を管理していく方法ならあります。

特に有効なのは「タイマーの活用」です。

ADHDの時間盲の特徴は、タスクに夢中になりすぎるあまり、時間の存在を忘れてしまうことでした。

そこでタイマーを有効に活用することが推奨されます。

例えば、ある作業を10時から10時半までに終わらせる必要があるなら30分タイマーをセットすることで、意識を現実に引き戻し、時間の超過を防ぐことができます。

画像
Credit:canva

それから「日々のルーティン化」も有効でしょう。

1日のやるべきことをリストアップして、それをする時間帯を細かく設定し習慣化するのです。

具体的には、朝7時〜7時30分:朝食、7時30〜8時:シャワー・着替え、8時〜8時30分:通勤… というように。

このルーティンが身に付けば、時間の超過も自然となくなっていき、不注意によるミスや物忘れを大幅に減らすことができるでしょう。

またADHDについては、診断されていなくてもその傾向を持つ人は社会に多く存在します。

そうした人たちは、単に時間が守れない、時間を意図的に無視しているように見えるかもしれません。

しかし、これは本人にもどうにもできない脳の問題である可能性が高いため、今回の事実を知った人は、上手く時間を守れない人たちには「時間盲」が起きている可能性も考慮し、その特性を理解して付き合っていくことが大切です。

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参考文献

Time Blindness in ADHD
https://www.verywellmind.com/causes-and-symptoms-of-time-blindness-in-adhd-5216523

How It Really Feels To Be Time-Blind With ADHD
https://adhdhomestead.net/time-blindness-feels/

元論文

Clinical Implications of the Perception of Time in Attention Deficit Hyperactivity Disorder (ADHD): A Review
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6556068/

Time Processing, Interoception, and Insula Activation: A Mini-Review on Clinical Disorders
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpsyg.2020.01893/full

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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