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100億匹のズワイガニがベーリング海から消失した原因を解明!


シベリアとアラスカの間に挟まれたベーリング海は、大量のズワイガニが漁獲できる場所として知られます。

ところが2021年に、推定で100億匹以上のズワイガニがベーリング海から忽然と姿を消したのです。

この出来事は同地の漁業に大打撃を与えた一方で、なぜズワイガニの「神隠し」が起きたのかは謎となっていました。

しかし今回、アメリカ海洋大気庁(NOAA)のアラスカ漁業科学センターの研究で、その原因は記録上最大級の海洋熱波だったことが判明したのです。

異例の熱波に直面したカニたちはどのように消失していったのでしょうか?

研究の詳細は、2023年10月19日付で科学雑誌『Science』に掲載されています。

目次

  • ベーリング海は「ズワイガニの楽園」
  • ズワイガニの神隠しが起きた「2つの原因」が判明!

ベーリング海は「ズワイガニの楽園」

ベーリング海
Credit: ja.wikipedia

ズワイガニ(学名:Chionoecetes opilio)は、水深200メートル以下の柔らかい海底に生息する大型の甲殻類です。

水温0〜3℃の冷たい海域を好み、特に太平洋最北部に位置するベーリング海はズワイガニにとって楽園となっていました。

冬の厚い海氷が溶けると、極寒の雪解け水がベーリング海に沈殿して、2℃以下の冷たい海域を安定して作り出すのです。

ズワイガニの繁殖するこの冷涼なエリアは専門的に「コールドプール(cold pool)」と呼ばれています。

また水温だけでなく、塩分濃度もズワイガニにとって最適なのです。

海における浮力は一般に、塩分濃度が上がるほど高くなります(例えば、普通の海水の塩分濃度が約3%なのに対し、体が浮くことで有名な死海は約30%に達する)。

一方で、コールドプールは海氷が溶け込むことで塩分濃度が下がり、自然と浮力も低くなります。

そうすると体の小さなズワイガニの赤ちゃんたちは浮くことなく、安定して海底に留まることができるのです。

こうして捕食者に見つからずに、うまく身を隠しながら成長できるようになります。

ズワイガニの胚
Credit: NOAA Fisheries – Preliminary Survey Results for 2022 Eastern Bering Sea Crab Survey(2022)

100億匹のズワイガニが「神隠し」に?

この地域のズワイガニは魚介類としての商業的価値の高さから、何十年にもわたって厳重に監視・管理されてきました。

ところが科学者たちは2021年にベーリング海のズワイガニが激減していることに初めて気づいたのです。

前年の2020年は新型コロナウイルスの世界的流行に伴い、例年通りの調査ができなかったため、2021年の急激な減少はまるでズワイガニが神隠しにでも遭ったかのようでした。

専門家は「1975年に個体数の調査が開始されて以来、ベーリング海で最もズワイガニの数が少なかった年だ」と話しています。

調査によると、それ以前の個体数と比べて、100億匹以上のズワイガニが一挙に消失したと推定されたのです。

この神隠しの原因は今まで謎のままでしたが、今回、NOAAの研究チームがついにその原因を特定しました。

ズワイガニの神隠しが起きた「2つの原因」が判明!

ズワイガニが消えた原因とは?
Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

チームはベーリング海の気温データ分析、ズワイガニの個体数や漁獲量の調査、ラボ内での生体実験を組み合わせた結果、神隠しの背後にあった2つの原因を特定することに成功しました。

それが「水温上昇」「ズワイガニの異常繁殖」です。

まず1つ目の「水温上昇」ですが、気温データを調べてみると、2018年から約2年間にわたりベーリング海で記録上最大級の海洋熱波が発生していたことが判明しました。

これにより、例年と同じ量の海氷が作られず、ズワイガニの楽園である「コールドプール」ができなかったと考えられるのです。

またラボ内の生体実験によると、ズワイガニは水温が0°Cから3°Cに上昇することで、必要なエネルギー量が倍増することが実証されています。

必要なカロリー量の増加により、ズワイガニたちは例年に比べて、大量の食料を食べなければならない体になっていたのでしょう。

一方で、水温上昇そのものがズワイガニを死に追いやったわけではありません。

というのもズワイガニは12℃の水温でも生きられることが分かっているためです。

そこで2つ目の「ズワイガニの異常繁殖」が鍵となります。

実は調査の結果、海洋熱波が発生したちょうど同じタイミングで、ベーリング海のズワイガニの個体数は例年に比べて急増していたことが分かりました。

ベーリング海東部におけるズワイガニの密度比較(2018年と2021年)
Credit: CODY S. SZUWALSKI et al., Science(2023)

この過密状態とズワイガニたちが大食いになったことで資源が枯渇し、共食いの発生や餓死が続出したと考えられるのです。

また集団が密集した状態は、病気の発生率を引き上げた可能性もあるといいます。

これがベーリング海でズワイガニの神隠しが起きた事の顛末でした。

その他にも研究者は、コールドプールが生成されず浮力が高まったことで、ズワイガニの赤ちゃんたちが捕食者に食べられやすくなったことも要因の一つだろうと指摘しています。

個体数の復活には最低でも4年かかる?

ベーリング海のズワイガニの個体数は2021年以来いまだ回復していません。

この出来事は、ズワイガニの漁獲から得られる収入に頼っていたアラスカの漁業者にとって大きな打撃となっています。

アラスカの漁業者は毎年、ズワイガニ漁によって年間平均1億5000万ドルの収入を得ていましたが、2021〜2022年のシーズンでは、売上高が約2400万ドルにまで落ち込んでいるという。

さらに専門家の見立てでは、ベーリング海のズワイガニが漁獲可能なレベルまで回復するには最低でも4年かかると予測されています。

加えて、ズワイガニが激減したことにより、生態系のバランスが崩れる可能性も懸念されており、不安は尽きません。

果たして、ズワイガニたちが再び戻ってくるまでにベーリング海は無事でいられるのでしょうか?

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参考文献

10 billion snow crabs have disappeared off the Alaskan coast. Here’s why https://www.sciencenews.org/article/10-billion-snow-crabs-disappeared-alaska More than 10 billion snow crabs starved to death off the coast of Alaska. But why? https://www.livescience.com/animals/crustaceans/more-than-10-billion-snow-crabs-starved-to-death-off-the-coast-of-alaska-but-why

元論文

The collapse of eastern Bering Sea snow crab https://www.science.org/doi/10.1126/science.adf6035
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