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世界初の「木造人工衛星」の打ち上げに向けて!木材宇宙曝露実験を完了


近い将来、宇宙には木製の人工衛星も浮かぶことになりそうです。

京都大学と住友林業株式会社の研究チームは12日、2022年3月より行われていた「国際宇宙ステーション(ISS)での10カ月におよぶ木材の宇宙曝露実験」が完了したと報告。

宇宙では温度変化が大きく、強力な放射線が飛び交っているにも関わらず、木材に割れ、反り、剥がれは見られず、材質も安定しており、驚くべき耐久性が確認されました。

今回の結果も踏まえて、2024年には世界初となる木造人工衛星・LignoSat1号機(※)の打ち上げが計画されています。

では、人工衛星を木材で作ることに何のメリットがあるのでしょうか?

※ Ligno(ラテン語で木)と 人工衛星(Satellite)からなる造語で本プロジェクトにて命名された。

目次

  • 木材を宇宙空間に10カ月さらした結果…
  • 人工衛星を木材で作るメリットとは?

木材を宇宙空間に10カ月さらした結果…

京都大学と住友林業は2020年4月、共同で「宇宙木材プロジェクト(LignoStella Project)」をスタートし、木造人工衛星の打ち上げを目指す取り組みを進めています。

最大の課題は「木材が宇宙空間に耐えられるのか」という点です。

宇宙空間は極端な温度変化、原子の衝突、宇宙線や太陽エネルギー粒子の影響など、地球とはケタ違いに過酷な環境となっています。

そこでチームは2022年3月、国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」の船外プラットフォームに木材を固定し、宇宙空間に晒す試験を開始しました。

試験に選ばれたのは、地上での耐久テストにより木造人工衛星に使用する最終候補となっていた「ヤマザクラ・ホオノキ・ダケカンバ」の3種です。

そして2022年12月、3樹種は約10カ月(294日間)に及ぶ宇宙曝露試験を終え、今年1月に地球に持ち帰られました。

宇宙空間に曝露試験中の木材
Credit: 住友林業 –世界初、10か月間の木材宇宙曝露実験を完了(2023)

チームは3月から木材の見た目や質量、元素、強度などの分析を開始。

まずマイクロスコープを使った見た目の測定では、いずれの樹種においても、割れ・反り・剥がれ・表面摩耗などの劣化が全く見られないことが確認されました。

次に質量検査で、放射線や原子の衝突による表層の消失や化学変化が起きていないかを調べたところ、重量も化学組成も試験前後でほとんど変化していませんでした。

それからヤマザクラ、ホオノキ、ダケカンバそれぞれの劣化の差を検証しましたが、いずれも有意な差はなかったとのことです。

試験に用いた3種の木材(左が宇宙曝露したときの試験体)
Credit: 住友林業 –世界初、10か月間の木材宇宙曝露実験を完了(2023)

チームは事前の予想として、過酷な宇宙環境により何らかの浸食が生じると見ていましたが、予想に反し、木材は見た目・質量ともにほぼノーダメージだったのです。

この結果を受けてチームは、2024年に打ち上げを計画している木造人工衛星・LignoSat1号機に使用する樹種を「ホオノキ」に決定しました。

宇宙曝露では差がなかったものの、ホオノキは地上での試験(加工性の高さ・寸法安定性・強度)で特に優秀な成績を残しています。

ホオノキの拡大写真。左が試験後、右が試験前でほぼ変化なし
Credit: 住友林業 –世界初、10か月間の木材宇宙曝露実験を完了(2023)

チームはすでに来年2月以降の打ち上げと運用開始を予定していますが、では人工衛星の材料をわざわざ「木材」に変えることに何のメリットがあるのでしょうか?

人工衛星を木材で作るメリットとは?

まず第一に挙げられるのが「地球環境に優しい衛星になる」ことです。

現在の人工衛星は主に、軽くて耐久性に優れたアルミニウム合金などの材料が使われています。

役目を終えた人工衛星はスペースデブリとして宇宙に留まらないよう、地球大気圏に突入させることになっています。

ところが研究者によると「アルミニウムは大気圏に突入する際に酸素と反応して酸化アルミニウムになり、小さな粒子を作り出す」という。

「これを計算すると、1μmのアルミニウム粒子は40年ぐらい大気圏内に滞留し、それが大量に蓄積すると、太陽光を反射し、冷却化など地球の気象変化が起きる可能性がある」のです。

しかし木材は水素と炭素と酸素からなるため、大気圏に突入しても水蒸気と二酸化炭素にしかなりません。

キューブ型になる予定
Credit: 京都大学大学院 –SIC有人宇宙学研究センター/LignoSat Project (木造人工衛星開発)

加えて、木材は電磁波を通すことができます。

従来のアルミニウム合金だと電磁波をシャットアウトするので、人工衛星を作る際は通信用アンテナを外に出して展開しなければなりません。

すると、アンテナを開閉するメカニズムが複雑になって失敗のリスクが高まるのです。

他方で、木材は電磁波を通すのでアンテナを外に出す必要がなく、衛星の内部に収納できます。

この他にも、木材はマイナス100℃からプラス100℃まで物性が変化せず、安定性や断熱性が非常に高いなどの利点もあります。

アンテナを外に出す必要がない
Credit: 京都大学大学院 –SIC有人宇宙学研究センター/LignoSat Project (木造人工衛星開発)

宇宙空間には水分や酸素、バクテリアが存在しないので、燃えることも腐ることもありません。

今回の試験を踏まえても、木材は過酷な宇宙環境で劣化せず、長期間にわたって使用できると考えられます。

チームは今後、木造人工衛星の打上げに向けて最終的な調整を進めていく予定です。

地球の木材産業が宇宙開発にまで拡大する日が近いかもしれません。

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参考文献

世界初、10か月間の木材宇宙曝露実験を完了~木材用途の拡大、木造人工衛星(LignoSat)の打上げを目指して~ https://sfc.jp/information/news/2023/2023-05-12.html 京大と住友林業、木造人工衛星の打ち上げに向けた宇宙での木材暴露実験を完了 https://news.mynavi.jp/techplus/article/20230512-2677989/ 木造人工衛星は宇宙の森作りへの第一歩 土井隆雄さんが学生と描く未来とは https://news.mynavi.jp/techplus/article/20230515-2677725/
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