はじめに


台北郊外にある人気温泉地・北投。亜熱帯の台湾にも温泉が恋しくなる季節が到来し、ハイシーズンならではの賑わいを見せはじめています。温泉地としての歴史とこの地の魅力を伝える「北投温泉博物館」は22周年を迎え、記念イベントに合わせて展示内容を大幅リニューアル。AR(拡張現実)を使ったユニークな温泉体験など、見どころが満載です。

築100年以上。大胆な和洋折衷の建造物は公共浴場だった!


今年で22周年を迎えた北投温泉博物館。この建物は、日本統治下にあった1913年、静岡の伊豆山温泉をイメージした公共浴場として作られたもので、1階はビクトリア様式のレンガ造り、2階は日本風の木造という、和洋折衷が斬新な佇まいです。当時は周囲に公園も整備され、庶民の温泉場として賑わいを見せましたが、戦後は管轄が変わるなど、時の流れのなかで荒廃し、その存在は忘れられたものになっていきました。

転機となったのは、1995年。北投國小(北投小学校)の児童たちが郷土学習でここを訪れ、その補修と保存を教師とともに政府に陳情。これを機に地元の人々と専門家らの保存活動が進み、第三級古蹟(現在は市定歴史的建造物)に指定されるまでに至りました。その後、政府による大改修が行われ、1998年10月、北投温泉博物館として生まれ変わりました。

台湾で初めて地元住民の力によって保存された歴史的建造物である北投温泉博物館は、北投文化のシンボルとなっています。街の歴史を今に伝えるほか、各種イベントを開催。なかでも毎年10月末に行われる記念祭は、街全体が一丸となって取り組む一大行事。今年は、このタイミングで展示内容もリニューアル。レトロな雰囲気とAR技術を融合させた、ユニークな体験ができるスペースとしてお披露目されました。

立って入るお風呂!? 元大浴場にアートが出現。


北投温泉博物館の最大の見せ場は、なんといっても大浴場。残念ながら現在は入浴できませんが、長さ9m、幅6m、深さは40〜130cmと小型プール並みの大きさで、ローマ様式の円柱や自然光が通り抜けるステンドグラスなどハイカラな内装が目を引きます。当時は公衆浴場の主要客が男性だったため、ここは男性専用、しかも“立ち湯”スタイルの浴槽として使われていた等々、知れば知るほど興味がわく歴史があります。

22周年の記念イベントでは、未発掘、埋蔵といった意味の「蘊藏」をテーマに、この大浴場にアーティストAguceの手によるインスタレーションを展示。北投の豊かな自然資源である山、泉、石をモチーフにした大胆なクリエーションは迫力満点です。

インスタレーションは館外のホテルにも。




作品はシリーズ化され、博物館外のホテルにも。「蘊藏−山」は、嘉賓閣温泉會館へ、「蘊藏−泉」は、日勝生加賀屋に、「蘊藏−石」は、瀧乃湯に展示され、天からの贈り物である北投の肥沃な土地への敬意、自然との共存を表現しています。

北投の象徴的スポットを家紋風のイラストで表現。



また、北投のシンボリックな各施設はファミリーのような親密な繋がりがあることから、それぞれの外観をイラスト化した“家紋”を作成。さらに、地熱谷、北投石、湯守観音などの観光スポットや象徴的な地元文化も“家紋”として意匠化することで、北投の魅力をわかりやすくアピール。

この“家紋”は、おみくじに活用中。北投温泉博物館と水美温泉會館に設置された「北投轉運站」なる開運ステーションでは、家紋入りのおみくじが引けます。このおみくじでは、ラッキースポットやラッキーフードといった、北投での開運アクションが明らかに。北投観光が一層充実すること間違いなしです。

これまでの博物館の入場者の25〜30%は外国人。コロナ禍で台湾訪問が難しくなっている今、このおみくじは北投温泉博物館の特設ページで引くことができます。お告げにある開運スポットをクリックするとグーグルの地図が開く設計になっていて、日本にいながら妄想旅行が楽しめます。

AR技術を導入した、ユニークな仕掛けは必見です。


大浴場以外のスペースは、3つの展示空間としてリノベーション。2階に入り口がある「温泉DOZŌ」は、ホテル「北投温泉大飯店」のチェックインフロントからスタート。その横の壁は特大スクリーンがあり、温泉旅館の発展をたどるビジュアルが視聴可能。
また別の壁には、ホテルが林立する風景画、また別の壁には、戦後に栄えた温泉旅館で供されていた料理“酒家菜”のレプリカが並ぶテーブルが展示されています。気になった料理はメモしておいて、滞在中、当時に思いを馳せながら味わってみるのも一興です。

レトロな雰囲気と最新技術の融合がポップでクール!



かつて女性と子ども用の浴場として使われていた浴場部分は「北投浴場SENTŌ」なる展示スペースに。男湯女湯の暖簾をくぐりぬけると、鏡、風呂椅子、洗面器が配された洗い場が広がっています。ここに座ると、湯気で曇ったように加工された鏡のなかに、頭の上にタオルを載せた姿が映し出される仕掛けが。
また、浴槽スペースでは北投を代表する源泉の地熱谷などの映像が流れ、そこに露天風呂さながら入浴している姿を見ることができます。館長の鐘兆佳氏は「青硫黄泉の源泉地である地熱谷は98℃に達する熱さ。現実世界では成しえないミッションですね」と笑います。北投は、ほかに白硫黄泉の硫磺谷、鉄硫黄泉の紗帽子山と3つの源泉を擁する、とても珍しい温泉地。施設によって引いているお湯が違うので、全泉質を制覇して、好みのお湯を見つけるのも北投の楽しみ方のひとつです。
「博覧會EXPO」スペースでは、お風呂上がりの休憩所をポップに表現した空間のほか、衰退期もあった北投の歴史をたどる展示も見られます。1階の入り口には、台湾のハリウッドと呼ばれ、映画のロケが盛んに行われた時代を示すコーナーも。

おわりに



市民主導の保存活動が発展し、進化し続ける北投温泉博物館。テクノロジーとデザインの力でさらに魅力的に生まれ変わった館内は、見どころ満載。次の北投訪問の際は、ぜひ趣向を凝らしたAR体験を楽しんでみてください。

◆北投温泉博物館
住所:台北市北投區中山路二號
電話:+886-2-2893-998

情報提供元: 旅色プラス