インド発ホテルチェーンが設立したOYO Hotels & Homesの日本法人、OYO Hotel Japanが展開する「OYO Hotel」とフランチャイズ(FC)契約を結んだ中小ホテルとの間に契約トラブルが発生し物議を呼んでいる。財団法人宿泊施設活性化機構(JALF)も事態を重視し、公式見解を発表するとともに被害者の会を結成する場合の支援などを表明した。



「客室数で世界第2位のホテルチェーンにフランチャイズ形式で加盟でき、設備投資資金をもらえる上、一定期間収入の最低保証が受けられる」というセールスポイントで中小ホテル旅館経営者の間で話題となり、いわゆるアーリーアダプターが飛び付いたのだが、契約内容の一方的な変更、売上保証の未払いや減額が発生しているとの報道があり、それを期に複数の中小ホテルからネット上への告発が相次いだ。ある告発によるとOYOからの設備投資を受けたホテルは契約解除に際してはその一括弁済を求められるため、払えない場合は不利な条件変更を受け入れざるを得ないなど悪質と思われるケースもあり、早急な実態把握が求められている。





海外では実績もあり、ソフトバンクとの合弁事業として鳴り物入りで上陸したOYO Hotels(ソフトバンクは既に合弁解消済みとの報道あり)が、どうしてこれほど早く日本展開において致命的な問題を起こしてしまったのか、そして現在においても有効な対応を発表できないのか、これについてはJALFの見解にある「新規開拓の際にはブランディングを優先し、イメージをある程度上げてからFC先を探すものですが、いきなりセールス地上戦にもつれ込む戦略を採用」していることが最も大きな原因であると考える。そもそもこの問題が取り上げられる前に日本人のどれほどが「OYOはホテルブランドであり、一定以上の品質基準を持つ安心して泊まれるホテル」という認識をしていただろうか。例えばPayPayが登場するにあたり、強烈な還元セールで顧客にブランドを認知させ、今加盟しなければ損だと店舗に印象付け加盟店を急拡大させた戦略と比較すればその差は明白だ。



顧客が魅力を持たないホテルブランドを冠してもホテルの売上は上がらない。OYOブランドでホテルを選ぶ顧客が存在しない間はFC料の負担がかさむだけだ。さらにタイミングも悪かった。昨年から日本のホテルは供給過剰が鮮明になり、価格も明らかに下降局面に入った。特にOYOに加盟したホテルの大多数を占める中小規模のホテルは民泊や簡易宿所、宿泊特化型ビジネスホテルの異常ともいえる開業ラッシュに巻き込まれている。もし今が需要過多で価格上昇局面であればOYOのセールスポイントの一つであるAIを駆使したイールドマネージメントも効果を発揮したかもしれない。しかし、下降局面ではイールドマネージメントは悪手だ。周辺最低価格を意識した価格設定を続けるとあっという間に利益は吹き飛んでしまう。その上でFC料を請求されたのでは加盟店は悲鳴を上げて当然だ。OYO側も想定収益が得られていなかったことは想像できる。



またこれもJALFが指摘したことだが、新興企業特有の問題として組織が構築されるより前に急過ぎる展開を始めていたことは否めず、セールス担当に自分の商品が売り込み先のホテルの経営改善に寄与するかどうか分析する能力が備わっていたかどうかも疑問だ。その分、営業をかけられたホテルは、OYO加盟に際して徹底した試算と契約書の読み込みが必要となるわけだが、どうも本質的な契約内容すら理解できていなかった経営者もいるように思われる。そもそもFC料は決して低額ではなく、当然ながら既存顧客にも旅行会社経由の送客にも課金される。さらに増収分にはオーバーチャージもかかる上、設備投資を受けたものもそこから早期に回収される料率が設定されているのだから、その諸条件を飲んでもなお、増収増益になる可能性のあるホテルというのは立地や客層により自ずと浮かび上がってくるものだ(現に収益が増加しているホテルもある)。OYOのセールス担当にそういうホテルを探し出すスキルが無い上、ホテル経営者にも収支を試算するスキルが無かったとすれば、遅かれ早かれこのような悲劇が起こることは想定できただろう。OYO側の契約不履行が告発されたことでこのビジネスの問題点が表面化したが、問題化しなかった場合このようなミスマッチが全国的に拡大していた可能性は否めない。



しかし、このような問題が起こったとはいえ中小ホテルにホテルブランドを付与するビジネスモデルそのものが否定されたとは思わない方が良い。OYOは今後の宿泊業界を大きく変革させる可能性を示したという事もできるのだ。今の日本ではホテル新設ラッシュの陰で廃業も加速している。廃業数の最も多いのが中小ホテル旅館だ。原因は3つで、(1)インバウンドの増加を相殺する形で国内旅行者が減っており需要はほぼ横ばいであるのに客室数が激増して営業無しでの集客が不可能になったこと。(2)法律上やIT化などで古い施設に必要な設備投資が増えているのに対応できていない事。(3)後継者不足や求人難で増えた業務に手が回らない事。にほぼ集約される。宿泊業界で多数を占めていた三ちゃんビジネスホテルではもはや満足に集客も運営もできない時代なのだ。



中・大規模ホテル旅館は大手チェーンの傘下に入る選択肢もあるが、小規模ホテル旅館は電話だけで毎年来てくれたお得意様が高齢化で途絶えた瞬間、廃業するしか選択肢が無くなってしまっていた。しかもゲストハウスや民泊が同じ土俵で需要を取り込んでしまった。そんな閉塞感の中で登場したホテルブランドFCというビジネスモデルは中小ホテルにとっては一筋の光明でもある。IT化投資をしたくても手が出せないところに予約から決済までを統合して管理してくれる端末を貸与してもらえる。営業などしたことの無いホテルでも販売戦略を立てて販売してもらえる。しかも先行して客室の設備投資までしてもらえる。しかもブランドを冠することができる。中小ホテルが採るべき生存戦略として現時点でこれ以上のものは無いだろう。かつて地方のパン屋が「ヤマザキパン」の看板を冠して商売したように、「独立店以上チェーン店未満」のモデルは今後の主流になる可能性すらある。今回は双方がビジネスの均衡点を見つける前に走り出してしまった拙速さと、OYO側の不誠実と言わざるを得ない対応が問題となったのであり、ビジネスそのものの方向性は決して間違ってはいない。



日本の中小ホテル業界がこのまま絶滅へ向かうのを食い止めるために、このビジネスモデルが健全な形で再構築されることを願う。それが新たな複数のプレーヤーであれば言うことは無いが、OYOがその中に加われるかどうかはOYO Hotel Japanの本件に対しての対応如何にかかっている。引き続きOYO Hotel Japanの動向に注視したい。

情報提供元: Traicy
記事名:「 ”詐欺的”と指摘のインド・OYOホテル問題が宿泊業界に投げかけた課題【コラム】