デビューしたばかりのホンダ・ヴェゼル。そのスタイルはシンプルでクリーンな印象だが、ディテールを見ていくとレーシングカー開発で培ったエアロダイナミクス技術がそこかしこに


TEXT &PHOTO◎世良耕太(SERA Kota)

新型ホンダ・ヴェゼルに試乗するのは2度目だ。あらためて見ても、先代に比べて「上質になった」印象は変わらない。実際にはフィットと同じBセグメントに属し、そのフィットのSUV版ともいえる位置づけなのだが、見た目から受ける印象(と乗り味)はひとクラス上のCセグメントと同等である。

全長×全幅×全高:4330mm×1790mm×1590mm ホイールベース:2610mm 車重:1450kg 前軸軸重870kg 後軸軸重580kg

マツダ販売店の営業担当スタッフによると、最近はCX-30の購入を検討するお客さんの多くが、比較検討しているクルマにヴェゼルを挙げるという。CX-30はCセグメント(MAZDA3ベース)だが、お客さんには同じ部類に見えるのだろう。そう見えておかしくないクオリティなのは間違いない。

キーは少し安っぽいと感じたが……
スマートフォンをキー代わりに使えるのはいい。

それにしてはキーが安っぽいとケチを付けそうになったが、ヴェゼルはスマートフォンをキーがわりに使えるので、よほどスマートだ。ドアロック解除やエンジン始動、エアコンの操作ができる。ドアミラーを格納する際はミーンという音がするものだが、ヴェゼルのそれは極めて音が小さいのに感心した。こんなところにも上質さが隠れている。

室内長×幅×高:2010mm×1445mm×1225mm 乗車定員:5名 最低地上高:180mm

ヴェゼルは空力技術も上品にまとめられている。クルマによっては空力開発に力を入れた証を形に残す例も見受けられるが、ヴェゼルはスマートなデザインを邪魔しないよう、デザインに溶け込ませる努力をしたという。資料には、「レーシングカー開発に使用されるHondaの研究施設 HRD Sakuraの風洞でコンパクトSUVトップクラスの空力性能を徹底追求」とある。SUPER GT GT500クラスに参戦するNSX-GTの空力開発と同じ施設を使っただけでなく、レーシングカーの空力開発で蓄積した知見を生かしてヴェゼルの空力開発を行なったのがポイントだ。

ディテールを見ていこう

フロントバンパー右前部から空気を取り込むインレット

ホイールハウス内側前方から取り込んだ空気を排出して前輪側面の空気の乱れを抑制する。

フロントから見ていこう。エアカーテンはもはや、フロントタイヤまわりで発生する乱流制御の常套手段で、ヴェゼルでも採用。フロントバンパーコーナー部のスリットから取り込んだ空気を、ホイールハウス内側から排出し、前輪側面の乱れを抑制する。その結果、ドラッグ(空気抵抗)が軽減される仕組みだ。

フロンターバンパーコーナーは複雑な造形をしている。

フロントバンパー下面は空力性能に対して感度の高い部品で、このあたりはミリ単位で空力性能とデザイン性の両立を図りながら諸元を絞り込んでいったという。バンパーコーナー部は複雑な造型をしているが、実はここも空力的に感度の高い部位であり、やはり、空力性能とデザインの両立に苦労した部位だという。「シンプルで美しいデザイン」を守りながら、空力的な要求を満足させた。

2段構えになtんている空力付加物

フロントバンパー下部のメッシュ部分の向かって左側はメッシュを一部ふさいでいるる。これは、車両左側にのみ熱交換器を搭載している都合で、熱交換を搭載していない右側はふさいで、少しでもドラッグを低減する狙いがある。

フロントバンパーコーナー部の下部を覗き込むと、空力付加物が二段構えになっており、空気の流れを緻密に制御しようとする意図が感じられる。フロントバンパー下部のメッシュ部分をよく見ると、向かって左側、すなわち車両右側はメッシュを一部ふさいでいるのがわかる。これは、車両左側にのみ熱交換器を搭載している都合で、熱交換を搭載していない右側はふさいで、少しでもドラッグを低減するためだ。

タイヤ前にある空力付加物は、回転するリヤタイヤの空力的な影響を減らす狙いのストレーキ。

ドアミラーを支えるステーにも注目。

ドアミラーを支えるステーは何の変哲もない形状に見えるが、ここも空力的に吟味された部位である。サイドシル後端はタイヤの前でわずかに跳ね上がった形状をしており、後輪側面の乱れを抑制してドラッグ低減に結びつける。フロントのエアカーテンと同様の役割だ。タイヤ前にある空力付加物は、回転するリヤタイヤの空力的な影響を減らす狙いのストレーキで、車両中心側に向かって三次元的に傾いた、芸の細かい形状となっている。

リヤウィンドウの確度を寝かせるほどドラッグは増えるという。ヴェゼルは写真でわかるとおりかなり寝ている。

ヴェゼルのエクステリアデザイン上の特徴は、急傾斜したテールゲートだ。これが、クーペスタイルのスポーティなイメージを演出するのにひと役買っている。その特徴的なスタイルを崩さないよう、空力性能を満足させるのも開発のポイントだった。一般論でいうと、リヤウインドウを寝かせるほど、車体側面を流れてきた空気がリヤウインドウ側に巻き込まれて発生する渦が激しくなりドラッグ(専門的には誘導抵抗)は増える。当初は空力開発のメンバーから「この角度では厳しい」との意見が出たという。

リヤウインドウ横の空気の巻き込みを抑制するために、リヤサイドスポイラーと呼ぶ部位(ルーフスポイラー下部側面寄りの三角形のパーツ)を吟味して、空気の巻き込みを抑えている。

しかし、急傾斜したテールゲートあってこその新型ヴェゼルだ。リヤウインドウ横の空気の巻き込みを抑制する常套手段ではあるが、リヤサイドスポイラーと呼ぶ部位(ルーフスポイラー下部側面寄りの三角形のパーツ)を吟味して、空気の巻き込みを抑えた。

リヤバンパー下部を見る。センター奥に見えるのは、4WD用のカップリングユニット。

車体後方では、車両全体が空気を押しのけることで、その後方でルーフの上方を通過した空気とフロア下を通過した空気がぶつかりあって渦が発生する(圧力抵抗になる)。これに関しては、リヤパンパー下端の長さを、やはりミリ単位で調整することで、上下の空気の合体が車両の後方にできる(ほど、抵抗は小さくなる)ようにした。

ボルテックスジェネレーターといって、突起によってあえて渦を作り、その渦を使って空力性能の向上につなげる手法がある。シンプルを旨とするヴェゼルの開発にあたっては突起を追加して上品なデザインを台無しにしたくはなかった。そこで、リヤコンビネーションランプの側面に段差を設けることによって、スマートに機能を満足させた。簡単なことにように見えるかもしれないが、開発担当者によれば「非常に苦労した」部分だという。

クルマの形状に起因し、車速が上がれば上がるほど、リヤに揚力(リフト)が発生しがちになることが多い。その結果、リヤタイヤの接地荷重が減って落ち着きをなくす。ところがヴェゼルは、高速走行時にリヤでマイナスのリフトを発生するという。マイナスのリフトとはすなわち、ダウンフォースだ。「それ、アウトバーンの速度無制限区間でようやく現れる効果では」と問いただせば、日本の高速道路の速度域でもダウンフォースは出ているという。

今回試乗したヴェゼルは4WDだったこともあるが、確かに、高速走行時のスタビリティは高く、安心してハンドルを握っていられる。しっかりしているので、走りを能動的に楽しめる。新型ヴェゼルはシンプルでクリーンな姿をしているが、レーシングカーの開発で培った高度な空力技術が全身に溶け込んでおり、それが走りをよりいっそうスマートにしている。開発の仕方まで含めて、スマートだ。

ホンダ・ヴェゼル e:HEV Z(4WD)


全長×全幅×全高:4330mm×1790mm×1590mm


ホイールベース:2610mm


車重:1450kg


サスペンション:Fマクファーソン式 Rド・ディオン式


駆動方式:4WD


エンジン形式:直列4気筒DOHC+e:HEV(i-MMD)


エンジン型式:LEC


排気量:1496cc


ボア×ストローク:73.0mm×89.4mm


圧縮比:13.5


最高出力:98ps(72kW)/5600-6400rpm


最大トルク:127Nm/4500-5000rpm


過給機:×


燃料供給:PFI


使用燃料:レギュラー


フロントモーター:H5型交流同期モーター


最高出力:131ps(96kW)/4000-8000rpm


最大トルク:253Nm/0-3500rpm




バッテリー:リチウムイオン電池(60セル)


燃料タンク容量:40ℓ




WLTCモード燃費:22.0km/ℓ


 市街地モード21.8km/ℓ


 郊外モード23.7km/ℓ


 高速道路モード21.1km/ℓ


車両価格○315万7000円

情報提供元: MotorFan
記事名:「 新型ホンダ・ヴェゼル 高速走行時はリヤにダウンフォースが発生! レーシングカーの開発で培った高度な空力技術が投入されている