2020年12月8日に発表された新型ホンダPCX 。PCX 160とPCX e:HEVを含めた3機種が新登場。2021年1月28日の新発売に先駆け、横浜の日本丸メモリアルパークにおいて報道関係者を対象とした撮影・試乗会が開催された。




REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)


PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)


取材協力●株式会社 ホンダモーターサイクルジャパン

横浜で開催された試乗会。会場となった日本丸の前に顔を揃えた開発スタッフの面々。

ホンダ・PCX.......357,500円

マットディムグレーメタリック
キャンディラスターレッド
ポセイドンブラックメタリック(PCX 160)
パールジャスミンホワイト(PCX e:HEV).......448,800円
マットコスモシルバーメタリック

ホンダ・PCX160.......407,000円

パールジャスミンホワイト

デザインコンセプトは “Personal Comfort Saloon” よりハイクラスなスタイリング・イメージを膨らませるべくCGで描かれたイメージイラストは、海上を疾走するパワーボートだった。

最終段階のデザインスケッチ。水平基調の伸びやかなプロポーション等で、上質な雰囲気に仕上げられたと言う。
前モデルより、エッジラインを効かせたダイナミックなフォルムが印象的。
シンプルなフレームワークと剛性向上を果たした新開発アンダーボーン型スチールフレーム(左)。合理的設計で760gの軽量化を達成。生産性向上と高品質の維持にも貢献するだろう。

大きなシート下収納スペースがさらに容量アップ(28L→30L)した新パッケージング・デザイン。

 初代モデルの登場は2009年の事。進境著しいアセアン諸国を主要の市場ターゲットとして開発されたPCXは、大き過ぎない程良いサイズ感のコミューターである。日本では2010年から市場投入された実用性の高いピンクナンバー(原付2種)スクーターで前後に14インチホイールを履いた点と当初30万円を切る価格設定にも注目されて確かな人気を獲得した。


 2012年にはPCX150が加わり、2014年には第二世代へモデルチェンジ。2018年にはLEDランプやスマートキー装備の第三世代へと進化していた。


 初代登場から約10年で累計約150万台の販売実績を重ね、今や年間40~45万台の生産規模を誇るヒットモデルに成長。今回、約2年8ヶ月振りと言う、少々早過ぎるフルモデルチェンジを実施。開発コストを惜しまないメーカー姿勢の表れは、PCXが世界市場で如何に高い人気を得られているかを示していると言えるだろう。


 それだけ多くのユーザーに親しまれ売れ筋モデルとして定着して来た、高い評価が得られている証でもあるわけだ。


 ちなみに主要マーケットはインドネシアで販売実績は全体の約60%。タイが20% 。その他はおおよそ5%ずつ、韓国、欧州、ブラジル、そして日本で売られている。


    


 さて今回はフレーム、エンジン等、ほぼ全ての部分が新設計となるフルモデルチェンジである。


 開発のねらいは、“Personal Comfort Saloon ”としてのさらなる進化にあった。各国で高い評価を重ねてきたこれまでのモデル人気も踏まえ、ワンランク上の上質な定番コミューターとして熟成する。


 もちろんその決起となった要因には2021年から適応される排出ガス規制のユーロ5対応が背景にある。


 主に緻密な燃焼制御を担う燃料噴射を要とする吸気系と、排気系に装備されるキャタライザーの装備。そして排気具合を検知することでリアルタイムで燃焼状態を細かく適正に保つ電子制御技術の進化で既にクリーンなエンジンが投入されてきているが、メーカーは段階的に厳しくなる規制への適応が迫られる。


 ユーロ5は2020年から新型機種への適応が始まっているが、継続販売車両に関しては2021年から適応されるのである。


 それをクリアする、高い環境性能を備えた次代のパワーユニットとして、ホンダは今回eSP+エンジンを新開発した。それに合わせてユニットスイングのエンジン懸架方式やリヤサスペンションの熟成。


 安全性や使い勝手の進化も含め、トータルで全てが見なおされたと言う。そんな中、あえて変更しなかったのは、車体のサイズ感である。多くの国で高い人気を獲得した要因は実用性の高さと、決して大き過ぎることのない程良い車体ボリュームにあると判断。


 実際、新旧モデルの主要諸元を比較してみても、両車の差は小さく、ホイールベースやシート高は同じである。目立つ違いを列挙すると、リヤのホイールサイズが14から13インチになった事。リヤブレーキのディスク化。4 バルブ化されたエンジンはボア・ストロークも異なり圧縮比も高くなった。150(149cc)は160(156cc)へ排気量を拡大すると共にショートストローク化。125はロングストロークながらも少しスクエアに近づけられている。


 より厳しくなる排出ガス規制に対応していくには、例えば触媒等パワーをスポイルするデバイスの装備も不可欠。走行性能を落としたくなければ、エンジンの基本性能は高めておく必要があるわけだ。


 今回のeSP+では、両エンジン共にシリンダーボアの拡大に加えて4バルブ化と高圧縮比化を実現してパワーアップ。またフリクションロスの低減も徹底的に見なおされたと言う。


 結果は出力特性を示す性能曲線の新旧比較の通りである。4バルブ化とスロットルボア拡大による吸排気効率の向上と気筒内での爆発(燃焼)圧力の増大、駆動系の熟成も相まって実質的な走行性能向上も果たしていると言う。




フレームもまるで異なる仕上げ。ダブルクレードル式からアンダーボーン式に変更されてスッキリとシンプルなパイプワークになっているのが印象深い。


 各生産拠点で作りやすくする事で、安定した製造品質を確保しながら、コストダウンにも貢献。さらに約900gの軽量化とステアリングヘッドパイプ回りの捩じり剛性強化、そしてシート下収納容積拡大も実現している。




そんな基本を押さえながら外観フォルムも一新。「伸びやかでエレガントな造形」が追求され、直線基調のエッジの効いたラインを活かしたデザインは新鮮でかつ上質なイメージが巧みに表現されているのである。

左は125ccのPCX。右はPCX 160の出力特性を示す曲線図。右は排気量アップの効果が如実に表れている。

新設計の“eSP+”エンジン。低フリクションを追求。4バルブ&高圧縮比化で、優れた環境性能にプラス(+)して出力特性の向上を果たしている。

4バルブ化と高圧縮比化された新設計シリンダーヘッド。
Y字のローラーロッカーアームを使用した4バルブエンジンに進化。シングル・カムシャフト(吸排カムプロフィール)以外は、125と160は共通部品で仕上げられている。
排気抵抗の低減が図られたストレートパイプ構造のマフラー。イメージ図はPCX 160の排気系だ。
クラッチを始め、自動無段変速ミッションも新設計。シャフトサイズは太くなった。
新規採用されたHSTC(ホンダ・セレクタブル・トルク・コントロール)の概念図。例えば濡れたマンホール上でも後輪のスリップアウトを防いでくれると言う。

人気車種ならではの総合性能の高さ。その洗練された仕上がりは魅力的である。

 PCXの試乗は横浜の市街地がメイン。PCX 160はオプションのETCも装備され高速道路もOK。まずPCXに跨がった感触は足つき性も良く、ほとんど同じだが、車体は見た目に細っそりとシェイプされた印象を受ける。


 エッジの効いたライン構成のデザインによる見た目の効果が大きいと思うが、実際アッパーカウルは少しスマートになっていると言う。


 シートもクッションの材質と厚さに変更は無いと言うが、デザインは熟成されており乗車時、及び停車時共に、ライダーとシートとのフィット感がしっくりと良く馴染む感触である。


 スクーターはバイクの様に筋力を使うことなく腰掛けてしまう乗り方になりがちだが、それでも下半身の安定具合が良くなっているように感じられた。ステップフロアも長くワイドに設計変更されており、足の置き場に自由度がある。


 急ブレーキ時に減速Gに耐えるため前方に足を突っ張る時も、両足の膝下で車体をはさむ時もしっくりとフィットする感じが好印象である。


 フロントフォークは共通だが、タイヤサイズはワンサイズ太く100/80-14から110/70-14へ。リヤは120/70-14 から130/70-13へ変更。これに伴いリヤサスペンションはストロークが伸ばされている。


 ホイールトラベルはフロントが100mmで変わらず、リヤは84から94mmに延長。果たしてこの違いが体感できるのだろうかと自分でも疑問に思いながらスタートしたがギャップを拾った時の感触が確かに良くなっていた。


 リヤの突き上げ感が緩和されており、凹凸の連続でもピッチング挙動が少なくなっている。さらにタイヤの影響か、コーナリング時のグリップ感も良く落ち着きのある安心できる乗り心地がなかなか気分良い。


 スクーターは気持ちも姿勢もリラックスして乗ることが多く、不意のギャップでは慌てる事もあるのだが、その意味でも快適性が確かに向上していたのである。


 ラバーマウント構造を採用したハンドルのお陰で振動も少なく、それは160で特に顕著に感じられ、コンセプト通りワンクラス上質な乗り味りに貢献している。


 


 スロットルレスポンスは、大差は無い中でも発進から中速域のレスポンスで不足の無いトルク感に軽やかな吹き上がりがが加わった印象。発進停止の多い市街地でも生き生きと走ってくれた。


 一方160 は、全域に渡ってスロットルレスポンスが強力になっている。グイグイと元気良く加速する様は高速域まで衰えなく、速い流れへの合流も難なくこなせる。


 直進安定性も優秀で、遠方までツーリングするのも快適。タンデムも余裕でこなせるポテンシャルの高さがある。日本では必要十分と思えるハイパフォーマンスである。


 但し、高速道路の120km/h制限が普通になってくると、クルージング速度の性能にやや不足を覚えてくるかもしれない。高速移動がメインなら、より大きなスクーターが選択肢に入ってくると思えたのも正直な感想。それでもPCX160が幅広い場面で使い勝手に優れた万能コミューターであることは間違いなく、とても魅力的に思えた。




 先代モデルでもコストパフォーマンスの高いモデルだと思っていたが、進化の大きな今回の仕上がり具合を目の当たりにして、そのお買い得感は驚きに値すると、改めてそう思えてきた。


 取材後にふと気になってホンダ・スーパーカブ・シリーズの価格を調べてみた。PCXの価格は、流石にクロスカブ110(税込341,000円)よりは少し高め。しかしスーパーカブC125(税込407,000円)よりは大幅に安いという事実に気付く。PCX の装備と仕上がり、そして基本機能の素晴らしさと商品力の高さは、驚きのレベルにあると思えたのでる。

パールジャスミンホワイト(PCX 160)

足つき性チェック(身長168cm)

PCX。シート高は変わらずに764mm。ご覧の通り膝に余裕を持って両足はベッタリと地面を捉えることができる。
左右にセパレートされているステップフロア・デザインが長くワイドになり、乗車姿勢の自由度が高まった。
PCX160。乗車姿勢や足つき性はPCXと全く共通である。ちなみに車重も同じ。
それなりにボリュームのある車体だが、股がった感触は適度にスマートな印象で、フィット感が良い。

ディテール解説

PCX

フルLEDランプが居並ぶフロントマスク。左右上端部がオレンジに光るウインカーランプ。その下にシグネチャーランプを挟んで3灯式のヘッドランプへ連なる。

φ220mmのシングルディスクローターをリジッドマウント。油圧ブレーキキャリパーはNISSIN製2ピストンのピンスライド式。ABSはフロントのみに装備されている。

ユニットスイング方式のエンジン及びVマチック。上段はエアクリーナーBOX。スロットルボディはφ26から28mmに拡大。外観を左右するカバーデザインを始め、懸架方式も含めてその内容は全て一新されている。

断面形状が楕円のマフラーチャンバーを装備。キャタライザーを経てマフラーに導かれる排気パイプにはストレートデザインが採用されている。

前モデル比較でより踏ん張りが効かせやすい。ポジションに自由度が高まったステップフロアデザイン。

ハンドルブラケットの下部にラバーマウント構造を採用。新たなエンジン懸架方式と相まって、振動の少ない快適な乗り心地に貢献している。

ハンドルスイッチレイアウトは従来通り。下から順にプッシュキャンセル式ウインカー、三角グレーのホーン、ヘッドランプの上下光軸を切り替えるディマー。
ハンドル右側スイッチも基本的に同じ。下から順にエンジン始動用セルスターター、ハザード、そしてアイコン表示が変更されたアイドルストップのON/OFFスイッチだ。
より大きく見やすいデザインを採用。羽の様に左右へ伸びるライン状の帯ライトは緑色に光るウインカーパイロットとして点滅する。

ペットボトルを立て置き収納できる左側のフロントインナーボックス。内部左上にはUSB電源が取り出せるソケットが装備されている。
スマートキー方式のイグニッションスイッチ周り。操作方法は従来通り、キーを身につけ近づくとダイアルがイグニッションスイッチとして機能する。右のシーソースイッチはシート及び燃料給油口のロックを解錠できる。
ヘルメット2個でも余裕で収納できるシート下スペースは容量は30L。通勤通学、そしてツーリング等のニーズを十分にカバーできる。

この状態でシートを閉めることができる。写真は、シートが軽く固定される通常位置まで開けたところ。
さらに開けると、写真の様にシートは大きく開くことができ、大きな物でも出し入れが容易になる。
ブーメランを水平にして2段重ねにした様なテールランプデザイン。上下に挟まれた左右両端にウインカーランプが組み込まれている。

PCX160

ボトム部が長くデザインされたフロントフォーク。リーディングアクスル式で支持されるフロントホールは14インチサイズ。アルミキャストホイールは新設計され、ミシュラン製110/70チューブレスのCITY Gripを履く。

ツインショックのユニットスイング式サスペンション。タイヤサイズは従来の14インチから13インチに変更。ワンサイズ太くなり、外周径の差はそれほど大きくないと言う。

外観はPCXと共通の右出しアップマフラー。写真はPCX 160で、排気の流れはPCX(125)と異なる内部構造を持っている。リヤブレーキは従来のドラム式からφ220mmのシングルディスクに変更された。

写真の試乗車には純正オプションで用意されている二輪ETC 2.0車載器キット(46,640円)が装着されていた。

◼️主要諸元 PCX /PCX 160

車名:ホンダ・PCX〔PCX 160〕


型式:2BJ-JK05〔2BK-KF47〕


全長(mm):1,935


全幅(mm):740


全高(mm):1,105


軸距(mm):1,315


最低地上高(mm):135


シート高 (mm):764


車両重量(kg):132


乗車定員(人):2


燃料消費率(km/L):国土交通省届出値:55.0(60km/h)<2名乗車時>〔53.5〕


WMTCモード値(km/L):47.4<1名乗車時>〔45.2〕


最小回転半径(m):1.9




エンジン型式:JK05E〔KF47E〕


エンジン種類:水冷4ストロークOHC4バルブ単気筒


総排気量(㎤):124〔156〕


内径×行程(mm):53.5×55.5〔60.0×55.5〕


圧縮比:11.5〔12.0〕


最高出力(kW [PS] /rpm):9.2[12.5]/8,750〔12[15.8]/8,500〕


最大トルク(N・m [kgf・m] /rpm):12[1.2]/6,500〔15[1.5]/6,500〕




燃料供給装置形式:電子制御燃料噴射装置(PGM-FI)


始動方式:セルフ式


点火装置形式:フルトランジスタ式バッテリー点火


燃料タンク容量(L):8.1


変速機形式:無段変速式(Vマチック)


タイヤ(前/後):110/70-14M/C 50P / 130/70-13M/C 63P


ブレーキ形式(前/後):φ220mm油圧式ディスク / φ220mm油圧式ディスク


懸架方式(前/後):テレスコピック式 / ユニットスイング式


フレーム形式:アンダーボーン

⚫️試乗後の一言!

コスパ最高と思える完成度。スーパーカブのライバルになり得る商品力の高さに驚きました。

情報提供元: MotorFan
記事名:「 4バルブ化&高圧縮化を体感|フルモデルチェンジのホンダPCX/PCX160、新型試乗レポート