間も無く秋を迎えるこの頃だが、じつは春先に取材してまだ書いてない原稿が残っている。それは4月に神奈川県の大磯で行われたJAIA(日本自動車輸入組合)の試乗会のレポートである。ドゥカティ、BMW、アプリリア、キムコ……、ようやく書き上げた入魂作(?)をご覧ください。


MAIN REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)


PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

軽さが武器の万能型アドベンチャー

トライアンフ タイガー800XRT……1,813,400円

2018年2月に発表されたアドベンチャーツアラー。兄貴分のタイガー1200XRT(243kg)よりも軽量。水冷直列3気筒エンジンは95ps(70kW)/9500rpmの最高出力と79Nm/8500rpmの最大トルクを発揮する。フルカラーのメーターディスプレーは6種類の表示スタイルと、5種類のライディングモードが選択できる。



「取り回す感じは車格相応のものだが、センタースタンドを立てる扱いはやや重かった。デジタル液晶表示のタコメーターは10000rpmからがレッドゾーン。豪快ではないが低速域で粘り強く高速域まで全域で頼り甲斐のあるスロットルレスポンスを発揮する。トップ100㎞/hクルージング時のエンジン回転数は約4300rpm。グリップヒーターや2座分のシートヒーター等充実の標準装備を誇り、パニアケース等のオプションも豊富。現実的な重量感に対して十分すぎるエンジンパワーは、国内の交通環境下で使うには、兄貴分のタイガー1200よりも、こちらのタイガー800の方が万能で向いているように思える」

並列3気筒エンジンの搭載がタイガーならではの特徴。水冷DOHC12バルブの800㏄で最高出力は70kW/9500rpmを発揮、低められたギヤレシオでダイナミックな加速性能を発揮する。
様々な情報提供を担うコンビネーションメーターはフルカラーTFTディスプレーを装備。速度計は文字が大きく表示されるデジタル方式でとても見やすい。


ハンドル左側のスイッチ。走行中でも各種制御モードの切り替えが簡単に操作できる。赤いホーンボタン直ぐ右隣のスイッチは、5ウェイジョイスティックコントロールだ。グリップの付け根にはグリップヒータースイッチがセットされている。
スロットルはフライバイワイヤー式。ケーブルは無くインジェクションは緻密に電子制御される。


足つきチェック!(身長170cm)

両足のかかとは軽く浮いているが、足つき性としては、膝に若干の余裕を覚え、巨体を扱う割に不安感が少ない。シート高は810mmと830mmに可変可能だ。



●主要諸元


全長×全幅×全高 (mm) ―×795×1350


軸距 (mm) 1,530


シート高 (mm) 810-830


車両重量 (kg) 202


エンジン型式 水冷並列3気筒DOHC


総排気量 (cm3) 800


最高出力 (kW[PS]/rpm) 70[95] / 9,500


最大トルク (N・m/rpm) 79 / 8,050


タイヤ 前 100/90-19、後 150/70 R17

先代モデルから劇的進化!

トライアンフ タイガー1200XRT……2,653,400円

トライアンフが誇るアドベンチャーカテゴリーの最高峰モデル。弟分の800はオフロード志向のXC系2機種とオンロード志向のXR系が3機種だが1200は前者が1機種と後者が2機種ラインナップとなる。LEDヘッドランプはアダプティブコーナリングライトを装備。バックライト付きスイッチハウジング、キーレスイグニッション等、さらに上級な最新鋭デバイスが奢られている。

「基本的なデザイン等は同じだが先代モデル比で最大11㎏の軽量化を達成したことは、ライダーにとっては非常に大きいメリットである。搭載エンジンは直列3気筒横置きの水冷DOHC4バルブ1215㏄。800と決定的に異なるのは、チェーンドライブに対して1200はシャフトドライブを採用している点にある。長距離あるいは長年の使用でメンテナンスフリーを誇れる点はユーザーにとって大きなメリットを生むことは間違いない。ただし車重は800より40㎏重く、その手応えはズッシリと明確な差が感じられる。重さは必ずしもデメリットとは限らず、ドッシリと安定感のある走りは格別の物がある。高速長距離移動を悠然と落ち着きはらって巡行する安定性は抜群。トップ100㎞/hクルージングを3750rpmでこなす余裕しゃくしゃくな出力特性とともに、おおらかな気分の快適な乗り味を提供してくれるのだ」

ボリューム感たっぷりで、タイガー800との雰囲気の違いは歴然。並列3気筒のエンジン形式は共通だが、排気量は1215㏄、最高出力は104kW/9350rpmを誇る。
800と1200の決定的な相違点は、シャフトドライブの採用にある。メンテナンスフリーという点では断然有利なメカニズム。しかもハイパワーエンジンとの組み合わせが魅力的。


メーターディスプレイの操作や各種電子制御の任意設定を担うハンドル左側のスイッチ。多彩なモード変更や表示切り替えが走行中にも簡単に行える。
シートヒーターを標準装備。左脇にスイッチがあり、温度は2段階に切り替え可能。冬場のタンデムツーリングも快適なものに変えてくれる。


足つきチェック!(身長170cm)

タイガー800よりも踵の浮きが僅かに多かったが、足つき性としては大差ないように感じられた。ただ約40㎏もの車重の違いが大きく、扱う感じは自然と慎重なものになる。



●主要諸元


全長×全幅×全高 (mm) ―×930×1540


軸距 (mm) 1,520


シート高 (mm) 835-855


車両重量 (kg) 243


エンジン型式 水冷並列3気筒DOHC


総排気量 (cm3) 1,215


最高出力 (kW[PS]/rpm) 104[141] / 9,350


最大トルク (N・m/rpm) 122 / 7,600


タイヤ 前 120/70 R19、後 170/60 R17

電子デバイスが秀逸!

ドゥカティ ムルティストラーダ950……1,736,000円〜

多彩な道に対応する事をコンセプトにしたロングツアラー。もちろん基本はオンロードスポーツだが、オフでの走りやすさにも配慮されている。パニアケースといったアフターパーツで荷物をフル積載した際や、タンデム時などでも快適に走れる基本機能が追求されている。搭載エンジンはテスタストレッタ11°と呼ばれる937㏄4バルブツイン。



「1200エンデューロのデザインが踏襲された外観とは裏腹に、跨がると意外とスマート。足つき性にも不安は無く、車体の引き起しもこの手のモデルとしては軽く扱える。ABS付きのブレンボ製ブレーキシステムや路面状況に合わせてバイクの動きを最適化するライディングモードなど最新の電子デバイスによる制御も好印象。7000rpmあたりから吸気音の咆哮がやや煩いが、トップ100km/hクルージングは4100rpmで快適にこなす。カウル関係はフレームマウントされ軽い操舵感も印象深い。この手のモデルの中では親しみやすい乗り味に魅力を覚えた」

フロントブレーキはφ320mmディスクローターをダブルでフローティングマウント。ラジアルマウントされたブレンボ製キャリパーは対向4ピストンタイプ。圧力センサー内蔵のボッシュ製9.1MPコントールユニットを採用したABSシステムが奢られている。倒立式フロントフォークはφ48mmのKYB製フルアジャスタブルタイプだ。
リヤのスイングアームはアルミ製。左サイドに取り付けられた黄色いコイルスプリングのモノショックはザックス製。プリロードはリモコンダイヤルで調節できる。伸び側の減衰調節もできる。


右後方に小さくアップされたステンレスのマフラーはキャタライザー付き。スマートに見える軽快なデザインだ。
メーターは大きくて見やすい。多彩な情報表示を担う液晶ディスプレイとその周囲には沢山のパイロットランプが並ぶ。


足つきチェック!(身長170cm)

ご覧の通り、車体は大きくシート高も840mmと高い。堂々たるアドヴェンチャーツアラーだ。足つき性はつま先立ちとなるのでバイクを支える時は極力垂直を保つように注意する必要があった。



●主要諸元


全長×全幅×全高 (mm) No Data


軸距 (mm) 1,594


シート高 (mm) 840


車両重量 (kg) 229


エンジン型式 L型2気筒 テスタストレッタ 11° 4バルブ デスモドロミック 水冷


総排気量 (cm3) 937


最高出力 (kW[ps]/rpm) 83(113)/ 9,000


最大トルク (N・m/rpm) 96 /7,750


タイヤ 前 120/70 R19、後 170/60 R17

エンデューロもツーリングもスポーツ走行も行けるマルチプレイヤー

ドゥカティ ムルティストラーダ1260S ……2,625,000円〜

デスモドロミックシステム搭載の1262ccエンジン採用するムルティストラーダ1260をベースに、コーナリングABSやオートシフターなど最新鋭の電子デバイスを装備。フルアジャスタブルのサスペンションも電子制御されるので、荷物の満載時やタンデムにも対応しやすい。



「写真からもわかる通り足つき性に関しては弟分のムルティストラーダ950と同様。共にシート位置は高低が選択できるので、体格や好みに合わせれば良い。車体寸法は基本的に同レベルだがマフラーは右側2本出しとなる。車重は約3㎏(写真のSは6㎏)重くなり直感として1260の方が手強さを覚える。とは言えこの手のモデルとしてはチェーンドライブの採用も含めて軽快感があり押し歩く時も楽。その感覚はKTMの1090アドベンチャーに匹敵する親しみを覚えた。同ブランドの中でも最高峰のツアラーとして造られ、トップ100㎞/hクルージング時のエンジン回転数は約3500rpm。950のパフォーマンスも十分だが、やはり余裕綽々の走りは大きく異なりその快適性が魅力的である事は間違いない。そして軽快な操舵フィーリングも心地よい」

鋭く精悍な目つきのマルチLEDヘッドランプはコーナリングライト機能もある。同ブランド最高峰のロードバイクを目指したとあって格上の仕上がりを誇る。
フルアジャスタブルの倒立式フロントフォークはφ48mmのKYB製。ストロークは170mmを稼ぎだしている。ブレンボ製対向4ピストンキャリパーは高剛性なモノブロックタイプ。セミフローティングダブルディスクローターはφ320mm。最新のコーナリングABSも装備。


スチールパイプ製トレリスフレームには、テスタストレッタと呼ばれるDVT(デスモドロミック・バリアブル・タイミング)採用の水冷Lツイン。8バルブの1262㏄で最高出力は116.2kW/9500rpmの最高出力を発揮する。
クルーズコントロールや、各種モード切り替えができるハンドル左側のスイッチ。トラクションコントロールはもちろん、ウィリーコントロール、スカイフックサスペンション、坂道発進を容易にするビークルホールドコントロール等の電子デバイスがフルに装備されている。


足つきチェック(身長170cm)

シート高は825mmと845mmに可変可能。写真はロー設定。両踵の浮き具合を見てわかる通り足つき性は950よりも良い。シート高データは15mm差。車重は7㎏程の差に過ぎず、排気量の割に軽快感があり扱いも楽な方だ。



●主要諸元


全長×全幅×全高 (mm) No Data


軸距 (mm) 1,585


シート高 (mm) 825-845


車両重量 (kg) 235


エンジン型式 テスタストレッタ DVT DS L型2気筒 デスモドロミック 4バルブ 水冷


総排気量 (cm3) 1,262


最高出力 (kW[PS]/rpm) 116.2 [158] / 9,500


最大トルク (N・m/rpm) 129.5 / 7,500


タイヤ 前 120/70 R17、後 190/55 R 17

●外車バイクを一気試乗! 第一弾【ドゥカティ・スクランブラー/トライアンフ・ボンネビルボバー&スピードトリプル/アプリリア・トゥオーノ/キムコ・GP125】●外車バイクを一気試乗! 第二弾【BMW・K1600グランドアメリカ&R1200RTスペシャル】
近田 茂

1970年代にモトライダー誌の製作に携わり、その後フリーに転身。守備範囲はモーターサイクル、クルマ、大型トラックまで幅広い。

情報提供元: MotorFan
記事名:「 最終回・インプレ数10台超! !! 外車バイクを一気乗り【トライアンフ・タイガー800&1200/ドゥカティ・ムルティストラーダ950&1260 】