英科学誌ネイチャーに掲載された論文によると、このパンガヤサイディ洞窟に掘られた墓穴からは、同じ地域のより新しい石器時代の墓で出土しているような装飾品や供物は見られなかった。
スワヒリ語で「子ども」を意味する「ムトト」と名付けられたこの幼児は、布で包まれ、枕らしきものに頭部が載せられていた。これは「コミュニティーが、何らかの形で葬儀を行った可能性を示している」と、論文の筆頭著者でスペイン・ブルゴスの国立人類進化研究センター長であるマリア・マルティノン・トレス氏は述べる。
今回の希少な発見で注目されるのは、現生人類ホモ・サピエンスの複雑な社会的行動と、アフリカとその他の地域のホモ・サピエンスの間の文化的な差異の両方が出現していることだ。
この洞窟では、この幼児の骨の破片が2013年に出土していたが、洞窟の地下3メートルの深さにある浅い円形の墓を完全に発掘するには、その後5年を要した。墓からは、分解の進んだ一塊の骨が見つかった。
その後の顕微鏡分析とルミネッセンス年代測定によって、ムトトは墓の周囲を掘った土で丁寧に埋められた状態で約8万年間、静かに眠っていたことが確認された。
■文化のある埋葬
アフリカはホモ・サピエンスが出現した地であるものの、欧州や中東と比べて、埋葬の儀式についてほとんど分かっていない。欧州や中東では、12万年前のものとされるイスラエルの例など、より古い時代の埋葬地が発掘されている。
膝を抱えた姿勢で埋葬される理由について、先のマルティノン・トレス氏は「遺体を狭い空間に収めるための合理的な理由だと論じる研究者もいますが、子どもが眠る姿勢にしたものだとも考えられます」と言う。
そして、「胎児の姿勢で横たわり、包まれていることは、(中略)人間の温かさを伝える何かしらの形である可能性があります」と述べている。
石器時代の埋葬地には文化の発現が示唆されていることが少なくない、と英ロンドンの自然史博物館人類進化研究センターで研究員を務めるルイーズ・ハンフリー氏は指摘する。
同氏は「ネイチャー」の論評で、「そうした行為には、墓の中に望ましい姿勢や向きで遺体を丁寧に安置すること、移送目的以外の理由で包んだり縛ったりすること、または意図的に貴重品を墓内に入れることなどが挙げられる」と述べている。
この三つの判断基準のうち、ムトトの墓には最初の二つが該当する。3番目も当てはまる可能性がある。
同氏によると、ムトトの墓は、南アフリカにあるほぼ同時代の子どもの埋葬地とともに、「中石器時代後期のアフリカの一部では、少なくとも非常に幼い子どもに対して、象徴的な意味のある埋葬を行う伝統が存在したことを示唆している」という。【翻訳編集AFPBBNews】
〔AFP=時事〕(2021/05/07-11:03)
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記事名:「 ケニアの洞窟に幼児の墓 アフリカ最古の埋葬 」