天文学用語で「原始の状態のまま」とは、彗星が恒星からの熱で変質するほど恒星に接近した経験が一度もないことを指している。
このボリソフ彗星は2019年、ウクライナの天体物理学者ゲナディ・ボリソフ氏がクリミア半島にある観測施設MARGOで発見した。太陽系内で検出された観測史上わずか2例目の恒星間天体だ。
1例目は、2017年に発見された天体オウムアムアだ。
オウムアムア同様、ボリソフ彗星は、軌道が太陽の重力で束縛されていない。これは、別の恒星系から何もない宇宙空間を通って太陽系にやって来たことを示唆している。
国際研究チームは、英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズに先月30日に掲載された論文で、ボリソフ彗星の中心部分を取り巻く塵(ちり)とガスの雲「コマ」に着目している。そのコマによる偏光の度合い(偏光度)が、通常の彗星に比べて高く、塵の比率が高いことが推察される。
これは、ボリソフ彗星が自らの恒星系の主星の非常に近くを通過することなく星間空間の旅に出た可能性が高い証拠だ。
恒星からの熱が彗星の氷粒子を蒸発させると、塵粒子が放出される。
塵粒子のうち、軽いものは彗星の尾を形成し、重いものは彗星表面に落下して戻り、表層を形成する。
彗星の尾を観測すれば、彗星がどのくらい「原始の状態を保っている」かを科学的に調べる助けになる可能性がある。
■真に原始の状態のままの天体
論文の共同執筆者で、米メリーランド大学天文学部のリュドミラ・コロコロワ氏はAFPに「ガス噴流の痕跡やその他の特徴のない、非常に一様なコマが観測されていることから、ボリソフ彗星は表層が存在しないと考えている」と話した。
「つまり、真に原始の状態のままの天体であり、放射や荷電粒子による影響をほとんど受けていない」
英科学誌ネイチャー・アストロノミーに同じく先月30日に掲載された論文では、ボリソフ彗星のコマに含まれる塵を分析し、「ペブル」 と呼ばれる固体微粒子でできていることを明らかにした。
筆頭執筆者の欧州南天天文台(ESO)の天文学者、楊彬氏によると、この微細なペブルの塵は形成過程に由来するもので「太陽系の場合とよく似た、巨大惑星の重力によるかき回しに起因すると考えられる」という。
これは、ボリソフ彗星の組成が「太陽系の彗星にとてもよく似ている」ことを示していると、楊氏は話した。【翻訳編集AFPBBNews】
〔AFP=時事〕(2021/04/14-13:27)
情報提供元:
記事名:「 太陽系外から飛来の彗星「最も原始の姿とどめた」天体か 研究 」