中央銀行デジタル通貨(Central Bank Digital Currency:CBDC)の取り組みが、世界各国で加速しています。しかし、一部の国においては反CBDCの動きや、導入後も利用率が低いといった二極化も見られます。本記事では、CBDCの最新動向と潜在的な未来についてレポートします。

CBDCとは

CBDCは各国の中央銀行が発行する、ブロックチェーンなどの技術をベースとするデジタル法定通貨です。全ての取引をデジタル化することにより、決済の効率化と透明性の向上、コストの把握が可能となり、金融犯罪の防止にも貢献することが期待されます。銀行口座を保有することなく決済サービスを利用できるため、金融包括(※)の強化にもつながります。

(※)全ての人が金融サービスを利用できる環境を整える取り組みのこと。

世界130カ国でプロジェクトが進行中

米シンクタンク、アトランティック・カウンシルの調査によると、2023年6月の時点でカリブ海諸国やナイジェリアなどの世界11ヵ国で導入されており、130ヵ国がCBDC関連プロジェクトに参加しています。CBDCの試験運用を積極的に実施しているスウェーデンを筆頭に、G20加盟国で大きな進展が見られます。

中国では「デジタル人民元」の実証実験の対象が2億人6,000万人に達し、インドとブラジルは独自のCBDCをそれぞれ「eルピー」と「Drex」の開発・普及を加速させています。EU(欧州連合)は2028年以降のCBDC発行、英国は2030年までのデジタルポンド実用化を目指しています。

日本においても、2020年10月に「中央銀行デジタル通貨に関する日本銀行の取り組み方針」が発表され、2023年4月には「概念実証実験フェーズ2」の結果が報告されるなど、将来的な発行の可能性が模索されています。

ボーダレス決済の開発も加速

各国が独自のCBDCの研究・開発を進める一方で、国家間のクロスボーダー取引・決済(※)に活用する動きも加速しています。

(※)国境を越えて実施される取引・決済のこと。

2023年9月には、国際決済銀行(Bank for International Settlements:BIS)主導のもと、フランス銀行とシンガポール金融管理局、スイス国立銀行が、ホールセール中央銀行デジタル通貨(Wholesale Central Bank Digital Currency:wCBDC)のクロスボーダー取引・決済の共同実証実験を成功させました。

一方で、中国・香港・タイ・UAE(アラブ首長国連邦)の中央銀行が共同展開するCBDCプロジェクト「mBridge」は、国境を越えた支払いおよび外国為替取引をサポートする、マルチCBDCプラットフォームの構築を目標としています。インドとUAEは両国間におけるCBDCの相互運用を視野に、試験プログラムを共同で進行中です。

米国で反CBDC法案が可決

デジタルドルの発行に前向きな姿勢を示してきた米国においては、ここに来てCBDCの導入を巡り、議論が繰り広げられています。

2023年9月には、連邦準備理事会(FRB)が個人に直接CBDCを発行することなどを禁じる「CBDC反監視国家法」に、下院金融委員会が賛成票を投じました。法案の支持者は、政府の過剰な監視により消費者のプライバシーが侵害されるリスクを主張しています。

世界の基軸通貨であるドルを発行する米国のスタンスは、国際金融市場にも影響を与える可能性があることから、今後の法案の進展が世界中から注目されます。

CBDCは今後どうなる?

CBDCの導入により多数の効果が期待される反面、プライバシーの侵害やサイバーセキュリティ、法的・技術的課題などが横たわります。金融取引の仲介役を担う商業銀行にも大きな影響を与える可能性があることから、銀行の破たんリスクを指摘する声もあります。

しかし、すでに多数の国において社会のデジタル化が進んでいる現在、将来を見据えた金融システムの改革が不可欠であることは間違いありません。このような観点から見ると、CBDCは大きな可能性を秘めており、各国政府・金融機関は今後も研究・開発を進展させ、用途とリスクの可能性を模索することが予想されます。

一方で、ナイジェリアのように利用率が低かったり、セネガルやエクアドルのように開発を中止する国もあったりすることから、需要と供給のバランスも課題の一つとなるでしょう。まだ発展段階にはあるとはいえ、より多くの国がメリットとデメリットを総合的に検討し、CBDCの発行に向けた法的整備を進める可能性は十分に考えられます。

最新動向を注視し、変化に適切に対応する

繰り返しになりますが、CBDCは貨幣の進化において、最も重要なイノベーションの一つとなる可能性を秘めており、世界の金融システムや産業の未来、消費者の生活などの多方面に大きな影響を与えることが予想されます。

投資家はいかなる変化にも適切かつ迅速に対応できるよう、常に最新動向を注視しておくことが重要です。Wealth Roadでは、今後もデジタル通貨市場の動向をレポートします。

※本記事はブロックチェーン技術や暗号資産に関わる基礎知識を解説することを目的としており、ブロックチェーン関連資産等への投資を推奨するものではありません。

The post 中央銀行デジタル通貨(CBDC」の世界的進展と二極化の現状 first appeared on Wealth Road.

情報提供元: Wealth Road
記事名:「 中央銀行デジタル通貨(CBDC」の世界的進展と二極化の現状