【東洋大学 SDGs News Letter Vol.25】東洋大学は“知の拠点”として地球社会の未来へ貢献します

2023.10.27
東洋大学

東洋大学 SDGs News Letter Vol.25
東洋大学は“知の拠点”として地球社会の未来へ貢献します

真に取り組むべき課題は何か?
包括的な視点での評価が環境問題解決の一助となる

日本政府が掲げた「脱炭素社会の実現」に向けて、産業界ではリサイクル推進の重要性が高まっています。環境問題が深刻化する今、産業界だけではなく、行政から消費者までそれぞれが課題解決に向けた行動を起こすことが大切です。重要課題の見極めや有効な対策を検討する上で求められる観点について、情報連携学部情報連携学科の後藤尚弘教授がお話しします。

Summary
・脱炭素社会の実現に向けて、各界のリサイクル推進が望まれる
・環境影響評価の項目は多岐にわたり、包括的な視点で課題を見極めることが不可欠
・環境問題解決のために、原料に関わるデータベースの共有や行政との緊密な連携が肝要

客観的な環境影響評価を実施し、重要課題を特定する
産業界における環境対策の現状を教えてください。

 種々の問題が深刻化する今、環境に配慮した事業展開が求められています。「脱炭素社会の実現」に向けたCO2排出量の削減は、各企業が率先して着手すべき取り組みの一つといえるでしょう。産業廃棄物の処理に伴うCO2排出を抑制できれば、着実に脱炭素社会へ近づきます。有効な対策としてリサイクル推進が重要視されており、業界の中でも特に力を入れて取り組んでいるのが製造業です。工場からまとめて廃棄物が処理されるため、リサイクルシステムを導入しやすいという特徴があります。一方で、対応の遅れが目立つのは観光業。観光業全体を見ると、企業の多くは規模が小さいために、環境対策に手を回す余裕がありません。そもそも、観光業においては、スポーツ観戦やイベントでどうしても使い捨ての容器等のごみが出ますし、ゴミの廃棄場所が各地に点在しています。すべてを回収・分別してリサイクルすることは、コスト的にも技術的にも難しいというのが実情のようです。

先生が取り組んでいる「環境評価システム」は、環境問題の解決にどのように役立つのでしょうか。

  環境評価システムは、事業が環境に及ぼす影響を客観的に評価し、問題点の抽出や改善・解決案の提案に活用できます。評価項目は、原料・廃棄物の種類や加工方法、製造工程などさまざまです。数ある項目の中で特に大事なのが重量になります。「質量保存の法則」の通り、物質に含まれる成分の質量はどんなときも一定です。物質の量を測ることで、廃棄に伴うCO2排出量を算出できます。また、製造工程におけるエネルギーの消費量を調べると、環境負荷の程度を図ることが可能です。あらゆる項目を調査して、結果を総合的に評価するプロセスが、問題点の特定につながります。特定後は、改善・解決策を考えなければなりません。その際は、評価項目だけではなく、事故リスクや労働環境、コストなど、事業に関わる要素を複合的に検討します。このように評価を行うことで、持続可能で、真に効果的なリサイクルシステムを構築できると考えています。

 これまで行ってきた取り組みの一つが、スリランカにある天然ゴム工場の調査です。工場における環境負荷の原因を特定するため、ゴムの採取から加工、廃棄までの過程を一通り調査して改善点を探りました。調査の結果判明したのは、「工業用水の無駄遣い」です。調査開始当初は全く予期していなかった原因でした。「これが問題だ」と思い込んでいても、全体を見るともっと大きな問題が潜んでいるケースがある。客観的な評価の重要性を物語る調査であったと実感します。

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スリランカのゴム工場内

環境保全は社会全体で取り組むべき課題
幅広い見地から環境保全に取り組まれていますが、今後、特に注力したいテーマはありますか。

 一般の方々の「行動変容」を促すことが今後の課題です。産業界では脱炭素やリサイクルが進みつつありますが、一般の方々による廃棄物は年々リサイクル率が低下しており、現在は20%程度に留まっています。各家庭でゴミが正しく分別されず、可燃ゴミとしてまとめて廃棄されることが原因の一つ。世間でもリサイクルの重要性は浸透していますが、脱炭素に関心を持つ方の中でも、実際に行動しているのは6割程度です。「意識」と「行動」に大きなギャップがある現状が浮き彫りになっています。

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 行動変容を促すためには、ナッジ(=望ましい行動をとるように後押しすること)を取り入れることが効果的です。ナッジの活用事例といえば、スウェーデンで行われた実験が有名でしょう。ゴミ箱に落下音が鳴る仕掛けを施すことで人々が「面白い」と感じ、ゴミの回収量が増加したというものです。本事例のように、今後はゲーム性を取り入れたツールを開発し、行動のハードルを下げたいと考えています。

環境問題と向き合う上で持つべき視点や見識について教えてください。

 環境に関連する要素は多岐にわたり、物事・現象の全体像を捉えなければ重要課題を見逃してしまいます。効果的な環境保全システムを構築するためには、包括的な調査で課題を特定するマクロ視点と、専門的な技術と照らし合わせて検討するミクロ視点、双方を持つことが大切です。

 また、解決策を検討する上で「データ」は欠かせません。現在、産業界ではプラスチック原料におけるデータ公開の気運が高まっています。再生プラスチックの汚れや耐久性の低下は、プラスチックに含まれるさまざまな添加剤に起因するものです。より高品質な再生プラスチックを生み出すためには、プラスチック廃棄物に含まれる成分を考慮して処理を行う必要があります。各企業が正確なデータベースを共有することで、効率的なプラスチックリサイクルを実現できるでしょう。

 プラスチック原料に限らず、定量的データの収集・分析は正しい評価や健全な議論につながります。しかし、行政の場合、制度が邪魔をしてデータベースの作成はおろかICTの活用も企業ほど浸透していません。環境保全は社会全体で取り組んでいくべきテーマです。今後、行政にも行動変容を促し、企業との連携を加速させれば、脱炭素社会の実現もより現実的なものとなるでしょう。

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後藤 尚弘(ごとう なおひろ)
東洋大学情報連携学部情報連携学科教授/博士(工学)

専門分野:持続社会工学/環境システム工学、研究キーワード:環境におけるICT活用/環境と社会/持続社会、
著書・論文等:熱帯プランテーションにおける物質・エネルギー・経済収支の改善を目指した物質フローモデルの提案-バイオガス利活用を例として-(共著)[環境科学会誌]、基礎から学ぶ環境学(共著)[朝倉書店]

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https://www.toyo.ac.jp/sdgs/

情報提供元: PRワイヤー
記事名:「 真に取り組むべき課題は何か? 包括的な視点での評価が環境問題解決の一助となる