【東洋大学 SDGs News Letter Vol.24】東洋大学は“知の拠点”として地球社会の未来へ貢献します

2023.9.7
東洋大学

東洋大学 SDGs News Letter Vol.24
東洋大学は“知の拠点”として地球社会の未来へ貢献します

経済成長やジェンダー問題の解決を阻む
日本特有の価値観を変容するには?

日本のジェンダーギャップ指数はG7で最下位。人の心に留まり続ける無意識の偏見が、男女平等の社会づくりを妨げています。また一方で、日本経済は30年以上に渡り停滞に苦しんでいます。こうした社会課題がなかなか解決しない背景には、日本特有の価値観が作用しているのではないか。社会学部社会心理学科の北村英哉教授がお話しします。

Summary
・日本特有の価値観やモラルがさまざまな社会課題の解決を阻んでいる
・隠れた差別の裏に、差別する側もされる側も気付かないアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)が存在する
・感情ではなくフェアネス(公平、公正)を基盤にした支援の仕組みづくりが必要

多様性を認めない社会がもたらす負の影響
人の「和」を重んじる日本社会の問題点は何ですか。

 日本人は伝統的に、協調性や調和性を大切にしてきました。そうした性質は特に最近の若者にこそ顕著で、一昔前の若者のように大人に反発したり反論したりすることもなく、周囲の目を気にして悪目立ちせず振舞おうと努力しているように見えることもあります。人と違った行いや目上の人への反抗がモラル違反になるというのは、西欧の世界とはかなり異なった意識の持ち方だと感じています。
 人と人の「和」を重んじるといえば聞こえは良いですが、皆と同じで一律であること、人と違う行いをしないことを過度に求める「同調圧力」は、日本の産業の成長を阻む大きな原因になっているのではと考えます。最も創造的であるはずの若い世代が「人と同じこと」を心掛ける社会で、新しいイノベーションは望むべくもないでしょう。
 人と同じことを求める社会は、ダイバーシティを認めない社会であると言い換えることもできます。政治や経営における意思決定イニシアチブを持つ場での女性比率が世界水準と比べて、日本ではとても低いこと、そしてジェンダーギャップ指数がG7で最下位であることはよく知られています。男女平等社会が久しく叫ばれ続け、第二次安倍内閣以降は女性活躍推進がスローガンとなっていますが、その裏では「女性はこうあるべき」「男性はこうしなくてはならない」というアンコンシャスバイアス、つまり差別する側もされる側も気づいていない無意識の偏見が足かせになっていると考えられます。

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 無意識の偏見は、アンビバレント・セクシズム(両価的セクシズム)という形でも表出します。これはスーザン・フィスケという研究者が提唱する概念で、ポジティブな内容であっても差別になりうるという主張です。例えば「女性は気が利く」とか「細やかに気を回すのが得意」と評価されますが、それを理由に家事や育児、介護などの家庭内でのケア労働を担わされることがあります。では、「男性は気が利かない」かというと、職場では上役やクライアントに細かな配慮ができているはずです。
 また、優しさという形をまとって、実は差別の構造が作られているケースもあります。女性は力が弱いので男性が力仕事を代わってあげなくてはならない。女性に長時間労働をさせられないから、負担の少ない担当にする。一見すると体裁の良い理由付けによって、女性の活躍の場や機会が奪われる現象が起こっています。また反対に、男性側へのアンコンシャスバイアス、例えば一家の大黒柱であって当たり前といった意識から、心ならずも家庭を犠牲にして仕事をすることを求められる男性が存在することも否定できないでしょう。

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差別をなくす道筋を仕組みから整える
差別や不平等をなくすために何から取り組めば良いのでしょうか。

 現在のグローバルスタンダードは西洋的な価値観の中で、基本的人権を軸に広がってきました。かつて議会選挙においては富裕層だけが選挙権を持っていましたが、そのうちに資産の多寡を問わなくなり、やがては女性の政治参加も認められました。さらにさまざまな障がいのある人やセクシャルマイノリティも不自由のない生活を享受する権利を認めるというように、あらゆる人をインクルージョンする方向で広がっています。男女共同参画に関してはフランスで2000年に制定された「パリテ法」が引き合いに出されます。各政党に対して男女同数の候補者の擁立を義務付ける法律が制定されたことで、政治分野だけでなく、さまざまな領域で男女平等の原則が浸透していったと言われます。
 社会心理学的には、社会実現したい理念があるならば、まず法制度によって国民の意識を築き、変えていくことが近道だと考えられています。日本は法整備の面で欧米諸国にかなり遅れをとっていますが、2年ほど前にやっと障害者差別解消法が改定されました。あらゆる組織が障がい者に合理的配慮をするよう義務付けたことは最近の大きなトピックで、本学にも合理的配慮の必要を申し出る学生や受験生が増加しました。制度化されたことで「申し出ていいんだ」という意識がより浸透し、当事者以外にも広がることが期待されます。ただ、一歩ずつ制度の整備は進んでいるものの、国連の人権委員会が10年来指摘し続けているように、包括的な差別禁止法はまだ存在しません。今後はまず、法を敷くことによってあらゆる差別を日本社会から無くすと宣言することが必要でしょう。

日本と欧米では、弱者への支援にどのような意識の違いがありますか。

 日本では身体障害者や被災者などに対して支援を行うとき、物事を感情的に処理する傾向があります。「かわいそうだから助けてあげたい」という動機から手を差し伸べるわけですが、感情は得てして自己中心的なものでもあり、長続きしなかったり、自分から遠い存在には共感できずに目をふさいでしまうことになったりします。これに対してヨーロッパでは、人は誰でも文化的な生活を送る基本的人権をもつため、その文化的な生活が本人の責に寄らず失われた場合は権利に見合う支援を行わねばならないという、フェアネス(公平、公正)の考え方が定着しています。他の先進国が行ってきた制度から、私たちは基本的人権について改めてその意味を学び直す必要があると考えます。ジェンダーやLGBTQといった問題も、それに対して個々人が抱く感情は様々ですが、フェアネスの観点なら議論の積み重ねが可能です。

今後、日本ではどのような取り組みが必要でしょうか。

 日本の社会を変えていくには、やはり教育を変えることです。法の整備や教育制度自体を改善し、学校の中での過度な「和を重んじる」価値観を組み替えること、「和」とは必ずしも「同質」ではなく、互いに異なっていても和することができると教えること、そして教育を通じて若者にもっと自信と励ましを与えることが「人とは違う」創造的な発想力を育むことにつながります。その観点では、ディスカッション教育も重要でしょう。自分の意見を口にすることで人を傷つけるのではないかと恐れる学生が多いように感じますが、ディスカッションとは本来、AとBがぶつかってCを生み出す作業です。イノベーションを起こす活発な若者を育成できるように、日本の良さを生かしつつ学校教育をドラスティックに変えていくことが必要ではないでしょうか。

 
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北村 英哉(きたむら ひでや)

東洋大学社会学部社会心理学科教授/博士(社会心理学)

専門分野:社会心理学/感情心理学/人格心理学
研究キーワード:感情/偏見/バイアス/対人認知/道徳判断
著書・論文等:進化と感情から解き明かす社会心理学(共著)[有斐閣]、
偏見や差別はなぜ起こる?(共編) [ちとせプレス]

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情報提供元: PRワイヤー
記事名:「 経済成長やジェンダー問題の解決を阻む日本特有の価値観を変容するには?