英国王立化学会論文誌のバックカバーに選出

2022年6月8日
地⽅独⽴⾏政法⼈東京都⽴産業技術研究センター https://www.iri-tokyo.jp/
東京医科大学
福井大学
慶應義塾大学医学部腫瘍センター・低侵襲療法研究開発部門

地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター(都産技研)は、東京医科大学、福井大学、慶應義塾大学医学部腫瘍センター・低侵襲療法研究開発部門と共同で、進行した胆管ガンや、すい臓ガンの緩和療法として使われる、胆管(胆汁が流れる管)内に埋め込む、世界初の機能を持つ『ステント※1』を開発しました。
 これにより、ステントを長期間用いた緩和療法が可能となり、ガン患者や医療従事者の大幅な負担軽減が期待できます。

※1 ステント:体内にある管状の部位に差し込むことで、石や腫瘍の影響により流れが悪くなった胆汁      
        などの液体を流しやすくするための管状の医療器具

 
開発のポイント
・従来の金属ステント及びプラスチックステント各々の長所(長期利用可能・除去可能)を合わせ持った、今までに無い性質のステントです。
・ステントの材料に水分を含むと膨張する素材(PVAハイドロゲル※2)を使用することで、胆汁の流れを確保でき、黄疸の解消に役立ちます。

※2 PVAハイドロゲル:ポリビニルアルコールハイドロゲル
           ※PVAは、液体のりやスライムの原料として知られています.

 
技術解説
水が主成分であるハイドロゲルを素材とした、胆管ドレナージ用自己拡張型ステントを世界に先駆けて開発しました。今回開発したステントは実験にて、豚胆管を拡張できることが確認できました。我が国発の新規のステントとなるばかりでなく、ステント留置が必要な患者、医療従事者の皆さまの大幅な負担軽減が期待できます。
「胆管ドレナージ用自己拡張型ステント」の概要
ステントとは、ヒトの身体の管(血管や消化管など)を内側から広げるために用いられる筒状の医療機器であり、本開発品は胆管に適用するものです。すい臓ガンなどによって胆管が閉塞してしまうと、胆汁が排出されなくなることにより⻩疸が発症します。⻩疸には発熱や悪⼼などが併発するため、ステントを胆管に内視鏡的に留置して胆汁を排出する緩和療法が⾏われます。

プラスチックステントおよび⾦属ステントが主に用いられています。プラスチックステントは抜去可能であるものの早期に詰まってしまいます。⾦属ステントは内腔が広く⻑期開存性を示しますが、網目からの癌の浸潤により抜去できない、という課題を抱えています。これらのステントの⻑所を両⽴した「⻑期開存性を示し抜去可能」な新たなステントの開発が待望されていました。

新たなステントの素材として、都産技研はポリビニルアルコール(PVA)ハイドロゲルに着目しました。PVAは生体に安全な素材であり、頑丈なハイドロゲルを作製可能です。PVAハイドロゲルを用いて作製した胆管ステント試作品は豚胆管を拡張可能であることを明らかにしました。現⾏ステントの⻑所を両⽴した新たなステントとしての可能性が期待されます。

開発品の外観と内腔拡大の概念図(画像2)
乾燥状態で内視鏡的に胆管に送達されます。胆管留置後は胆汁などの体液による膨潤により自己拡張し、内腔が拡大します。膨潤後の内径(約5mm)は市販品のプラスチックステントの内径(最大3.3mm)を超えており⻑期開存性が期待されます。

今後の展開
• 既存ステントとの優位性の比較、および更なる材料の改良を進めています。
• 都産技研では本開発に関わる中小企業との共同研究を広く募集しています。
都産技研では、保有する技術シーズや技術情報など、中小企業の製品開発や生産活動に役⽴つ情報を発信しています。

論文誌名:Journal of Materials Chemistry B
掲載日:2022年6月8日
論文タイトル:Characterization and preliminary in vivo evaluation of a self-expandable hydrogel stent with anisotropic swelling behavior and endoscopic deliverability for use in biliary drainage
DOI: https://doi.org/10.1039/D2TB00104G

情報提供元: PRワイヤー
記事名:「 ガン患者の苦痛を和らげる全く新しいステント(管状医療器具)開発に成功