【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。

◇以下、遠藤 誉所長の考察「中国TPP参加表明の本気度——中国側を単独取材(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。

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◆国有企業に関する問題点——「国進民退」は解消しているのか?
Q:では具体的な問題点に入っていきましょう。まず中国は「国進民退」(国有企業が前に出て、民間企業が後退している)と言われて久しいですが、この問題が解決しないと、TPP11の加入条件は満たされないと思います。これに関してどういう改革が成されましたか?

A:2008年の金融危機以降、およびこの度のコロナ禍以来、中国の国内外に「国進民退」を批判する声が出てきたのは不思議ではありません。たしかに2008年の金融危機以降、中国は4億人民元を投資してインフラ建設と国有企業に重きを置きました。そうしなければ、あの金融危機を乗り越えることが出来なかった。しかし2010年辺りからは同時に中国が世界の工場でなくなりつつある現象とも相まって、中国の東南海岸沿いにあった中小企業は破産の憂き目に遭い、内陸部への移転を余儀なくされました。またこの度のコロナ禍によって零細企業は激しい打撃を受けていますが、これ等の現象を以て「国進民退」と非難することは必ずしも全面的に正しいとは言えません。

これは経済発展プロセスの周期性と段階性の一つに過ぎないという側面を強く持っていると個人的には思っています。

習近平は2018年11月、中国の民間企業は中国の全税収の50%以上を占めており、国内総生産の60%以上を、そして技術イノベーションの70%を民間が占めていると言っています。

一方、国家統計局のデータによると、2000年から2016年の間に、中国の全工業企業の資産に占める国有持株会社の資産の割合は67%から38%に減少し、全工業企業の主な事業収入に占める国有持株会社の主な事業収入の割合は50%から21%に減少し、全工業企業の利益に占める国有持株会社の利益の割合は55%から約17%に減少しています。

これらは、中国の民間経済が成長していること、国有経済の割合が相対的に低下していることを示すのに十分なのではないでしょうか。もちろん、中国の国有経済の改革をさらに深化させる余地はあります。たとえば、混合所有制の改革、国有資産を直接管理することから国有資本が投資・出資し、直接経営するのではなく株のみを保有することなどは、いずれも中国政府の市場経済の地位を強化するための決意と勇気を示していると言っていいでしょう。

◆越境電子商取引に関して
越境電子商取引(越境EC、cross-border e-commerce)とは国境を超えて行われる通信販売のことである。これに関して質問した。

Q:中国は越境電子取引に関して、今やアメリカの2倍以上になっており、これを政府(入管)の監視の下に置くのか否か、あるいは監視を緩めるのかに関してはTPP11に加入する時の非常に厳しく審査される対象になるだろうと思われますが、現状と展望は如何ですか?

A:2018年11月から12月までの間に、中国の関連部局は越境電子商取引の監督業務改善に関して4つの文書を出しています(長いので省略)。この4つの文書は、直接購入輸入モデルと保税ネット通販モデルの規制法規であり、越境電子商取引の混乱の一端を規制し、越境電子商取引の政策や法規制の不足を補うことを目的としています。

ところがこれらの法規は外国企業と商品の販売を構成する国内消費者との関係を規制しているとして、一時期、一部の外国企業から批判を受け、中国の税関監督はより厳格になったのではないかと錯覚(誤解)された経緯があります。実際には、以前の監督の欠如は改善されて、以前よりも標準化されているのですが、こういった誤解が生じたことは事実です。

だからTPP11メンバー国は、中国は越境電子商取引の監視監督の自由化が不十分だとして反発する危険性があるのを中国は承知しています。したがって、その誤解を解く努力をしなければなりません。

例えば、何を誤解されているかというと、越境電子商取引の違法輸入の増加傾向に対応して、「越境電子商取引企業の管理を登録制から許可制に変更したこと」、「越境電子商取引参加者を信用管理下に置くこと」、「越境電子商取引参加者に物流情報を共有するためのインターフェイスを開放し、中国税関の監査を受け入れ、違反行為を積極的に申告するのを要求すること」などが規定されているのですが、一部の海外関係者は、これらを全て「中国政府によるデータ収集とデータ管理の強化」と勘違いしているということが挙げられます。 実際には、これらはすべて通常の標準管理の一部であり、データ収集やデータ管理ではありません。

◆知的財産権保護に関して
Q:TPP11で凍結されている事項の中には知的財産権に関するものが多いですが、それでもTPP11メンバー国のみならず、世界の多くの国は中国の知的財産権に関して問題視していますし、また凍結されていないTPP11の条約の中にも知的財産権に関するものが、それなりに残っています。これに関して中国はクリヤーできると思っていますか?現在の中国における知的財産権の現状と展望を教えてください。

A:今年11月24日に中共中央弁公庁と国務院弁公庁は共同で「知的財産権保護を強化することに関する意見」を発表しました。これにより知的財産権侵害に対する罰則を強化し検挙率を高めようとしています。

2018年の中国の知的財産権保護に関する社会の満足度は76.88点に上昇し、世界知的財産権組織が発表した「2019年全球(グローバル)創新指数」では中国は世界の第14位になってますし、世界銀行が発布した「2020年営商(ビジネス)環境報告」では、中国は世界で第31位になっています。

2019年12月、米中双方は知的財産権保護に関して深く討論をしていますが、そのとき少なからぬ方面でコンセンサスを得ています。たとえば企業秘密保護、薬品に関する知的財産権、特許の有効期限の延長、電子商取引プラットフォームにおける海賊版や偽ブランドを駆逐することとその輸出入規制、ブランド名の悪意ある登記、および知的財産権の司法執行とプロセスの強化などに関して米中間でコンセンサスを得ています。

これらのさまざまな方面からの努力により、2025年までには国際社会が満足する一定のレベルまで知的財産権の保護が高められると考えられます。

以上から中国が高らかにTPP11への加入意思を表明したということは、必ず実現させることを表れだということができ、それを可能ならしめるための努力をデジタル化監視システムの導入とともに必死になって高めていると結論できます。

以上が取材内容だ。

既にあまりに長くなりすぎたので、これに対するコメントや評価分析は、又の機会に譲りたい。少なくとも言えるのは、「中国は本気だ」ということである。日本は構えをしっかりしなければならないだろう。

写真:ロイター/アフロ

※1:https://grici.or.jp/

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情報提供元: FISCO
記事名:「 中国TPP参加表明の本気度——中国側を単独取材(2)【中国問題グローバル研究所】