朝鮮半島有事における今後の展開として、どのようなシナリオが起こり得るのだろうか。

不確実性が増す昨今、未来のシナリオを予測するにあたり構造変化などの根本的な変化の可能性といった極端な要因も踏まえてストーリーを描くというアプロ—チは、危機対応能力を高める上で非常に重要となる(※1)。

この観点に基づき、極端な要因も省略することなく「戦争勃発シナリオ」「北朝鮮自滅シナリオ」「緊張状態継続シナリオ」「朝鮮半島統一など世界融和シナリオ」という4つのシナリオを想定し、それぞれが世界経済、ひいては日本経済に与え得る影響について分析を試みてみたい。

本稿では三つ目にあたる「緊張状態継続シナリオ」をご紹介する(※2)。

※1 シナリオ分析に関する考え方は、別途「シナリオプランニング、戦略的思考と意思決定【フィスコ 世界経済・金融シナリオ分析会議】」を参照
※2 一つ目の「戦争勃発シナリオ」、二つ目の「北朝鮮自滅シナリオ」は、別途「朝鮮半島有事の投資法(1)戦争勃発シナリオ【フィスコ 世界経済・金融シナリオ分析会議】」「朝鮮半島有事の投資法(2)北朝鮮自滅シナリオ【フィスコ 世界経済・金融シナリオ分析会議】」を参照

■中国も心中は現状の朝鮮半島の緊張状態を望んでいる?
トランプ政権が対北朝鮮で強硬姿勢に傾いているとはいえ、北朝鮮の反撃による韓国や日本などの甚大な被害を考えれば、実際に軍事オプションを発動する可能性は極めて低いといえよう。もちろん、韓国や日本が自ら軍事行動を起こす公算も低い。一方、北朝鮮が現状の軍事力を縮小させる選択肢もないと考えられる。これは、リビアのカダフィ政権が反面教師となっているとみられる。現在のような緊張状態が継続するシナリオの可能性が最も高いといえよう。

今後の米朝交渉の行方としては、北朝鮮では米本土まで攻撃できる核・ミサイル能力を放棄する代わりに、既存の体制の黙認や米国との平和協定の締結などを要求していこう。ところどころで米国、北朝鮮の譲歩や中国の努力も予想され、一時的には緊張が緩和される場面が生じる可能性もある。ただ、在韓米軍や在日米軍の撤退もないとみられるほか、北朝鮮の核・ミサイル開発が進められていないのかなども確認できず、お互いに疑心暗鬼の状況は続くことになろう。さらに、北朝鮮の経済情勢が好転する可能性は当面見込みにくく、金正恩氏が国民の支持を得るためには、軍事面での成果が求められる状況に変化もなさそうだ。結局、状況は変わらないものと予想される。

中国サイドでも、北朝鮮は対米国における有効なカードであり続けよう。対米国との関係に大きな変化がない限り、現在の朝鮮半島の緊張状態がちょうど良い状態であるともみられ、北朝鮮の変化を望まないだろう。

このシナリオの可能性は高いとみられるが、北朝鮮以外の各国にとって「いばらの道」であると考えられる。先送りすればするほど、着々と北朝鮮の軍事攻撃力が強化されていくことになる。将来的には、核ミサイルを搭載した大陸横断ミサイルの開発なども想定され、現状が継続するに従い、北朝鮮の諸外国との交渉力は一段と高まることになっていく。中国にとっても、短期的にはポジティブな方向性とみられるが、北朝鮮の核開発が一段と進展することは、決して許容しきれるものでなかろう。

■緊張状態継続なら日本の防衛費は急増へ
緊張状態の継続によるコスト増などを嫌って、トランプ政権が対北朝鮮への圧力を低下させる可能性もあり、この場合日本は在留米軍に対する資金負担の増加、さらには、自己防衛の必要性の高まりから、防衛費が急膨張する公算もあろう。

憲法九条の改正、税負担の増加、社会保障費の給付減額などを伴うことで、国内では政局不安が強まっていく可能性もある。また、日本が将来的に「核」を保有していくことになる可能性があるのもこのシナリオとなる。この場合、核開発に正当性が生じたとしても、世界各国の日本に対する「目」は厳しいものになっていく公算がある。この点は、日本にとっての抑止力となり得る。

このシナリオでの日本株はトレンドとしてジリ貧になっていこう。折に触れて、北朝鮮の危機が株価下落要因と捉えられるほか、現状の日本株にとっては、政局不安の強まりは売り圧力を強めさせやすい。徐々に、海外機関投資家は有事リスクに晒される日本や韓国からの資金シフトを進めていくとも考えられる。為替相場は、短期的にはリスクオフからの円高が進むが、その後はドルや直接的な影響が少ないとみられるユーロへと資金が移動して、円安トレンドに移っていく公算がある。

つづく~「朝鮮半島統一など世界融和シナリオ」~

■フィスコ 世界経済・金融シナリオ分析会議の主要構成メンバー
フィスコ取締役 中村孝也
フィスコIR取締役COO 中川博貴
シークエッジグループ代表 白井一成(※)

※シークエッジグループはフィスコの主要株主であり、白井氏は会議が招聘した外部有識者。

【フィスコ 世界経済・金融シナリオ分析会議】は、フィスコ・エコノミスト、ストラテジスト、アナリストおよびグループ経営者が、世界各国の経済状況や金融マーケットに関するディスカッションを毎週定例で行っているカンファレンス。主要株主であるシークエッジグループ代表の白井氏も含め、外部からの多くの専門家も招聘している。それを元にフィスコの取締役でありアナリストの中村孝也、フィスコIRの取締役COOである中川博貴が内容を取りまとめている。2016年6月より開催しており、これまで、今後の中国経済、朝鮮半島危機を4つのシナリオに分けて分析し、日本経済では第4次産業革命にともなうイノベーションが日本経済にもたらす影響なども考察している。今回の朝鮮半島についてのレポートは、フィスコ監修・実業之日本社刊の雑誌「JマネーFISCO株・企業報」の2017年春号の大特集「朝鮮半島有事の投資法」に掲載されているものを一部抜粋した。




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情報提供元: FISCO
記事名:「 朝鮮半島有事の投資法(3)緊張状態継続シナリオ【フィスコ 世界経済・金融シナリオ分析会議】