図1 「正常な目」と「油層の不安定化によりドライアイ(目の乾き)になっている目」(イメージ図)


図2 正常な目のまばたきと油層(イメージ図)


図3 油層の拡大顕微鏡写真(×1000倍)


図4 涙の3層構造

ライオン株式会社(代表取締役社長・掬川 正純)は、涙が蒸発しやすい状態を生じさせ、ドライアイ(目の乾き)の要因の一つになっているとして近年注目を集めている、“涙の「油層」の不安定化現象”について研究を行った結果、ミネラルオイル(流動パラフィン)が、涙の油層を安定化させることを発見しました。本研究の内容は、2020年発行の「Journal of Oleo Science」に掲載されました。


■研究の背景
ドライアイ(目の乾き)に悩んでいる人は2,200万人と言われています(あたらしい眼科 29(3), 305~308, 2012)。これまで当社は、角膜の傷に着目し、角膜修復成分であるビタミンAの研究を行うほか、ドライアイ(目の乾き)改善技術の開発にも取り組んできました。
しかし、目薬ユーザーの中には、目薬をさしてもなかなかうるおいが持続しないと悩んでいる人が未だに多くいます。近年の研究で、ドライアイの中には、涙が蒸発しやすいタイプがあることがわかってきており(詳細は添付資料)、涙の外側をベールのように覆っている油層の不安定化が関係していると言われています(図1)。そのため、このタイプのドライアイに悩んでいる方は、目薬をさしてもまたすぐに乾きを感じてしまうと考えられます。
そこで当社は、涙の蒸発を防ぐ役割をもつ油層を安定化してドライアイ(目の乾き)を解決するという新しいアプローチで、研究を進めました。

画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/281915/LL_img_281915_1.png
図1 「正常な目」と「油層の不安定化によりドライアイ(目の乾き)になっている目」(イメージ図)

■研究結果
1. 涙の油層を安定化させる成分の検討
<実験概要>
涙の油層は、ワックスエステルやコレステロールエステルなどの極性が極めて低い成分から構成されており、正常な瞳ではまばたきによって再現性よく伸び縮みし、眼表面上で均一性を保っています(図2)。しかし、加齢や性ホルモンなどの影響で油層の成分が変化すると、まばたきによって均一に広げられなくなる(油層が不安定化する)ことがわかっています。

図2 正常な目のまばたきと油層(イメージ図)
https://www.atpress.ne.jp/releases/281915/img_281915_2.png

そこで、ゴマ油などの植物油よりも極性が低く、涙の油層とよくなじむことが期待されたミネラルオイルを候補シーズとして選定しました。この候補シーズの効果を検証するために、まばたきの状態を再現した油層モデルを作成し、以下の実験を行いました。

<実験結果>
正常な涙の油層を用いた実験では、網目状の構造がまばたきに対する油層の安定性を高めているのに対し、油層の成分が変化すると網目状の構造が無くなり、不安定化してしまうことがわかりました。この不安定化した油層に対してミネラルオイルを加えると、網目状の構造が復元され、まばたきに対する安定性も回復することがわかりました(図3)。

図3 油層の拡大顕微鏡写真(×1000倍)
https://www.atpress.ne.jp/releases/281915/img_281915_3.png


■今後について
当社は、引き続き様々な角度からドライアイなど、不快な目の症状を改善するための研究を重ね、情報発信してまいります。

掲載文献
Effect of Mineral-Oil Addition on Film Stability of Polar Lipid Constituents Derived from Meibum. Journal of Oleo Science 69 (5), 429-436, 2020


<添付資料>
ドライアイ(目の乾き)とは?
ドライアイ(目の乾き)とは、パソコンやスマートフォン使用によるまばたきの減少、エアコンによる空気の乾燥、コンタクトレンズの使用などが原因で、目を保護する涙の量が少なくなったり、涙の成分のバランスが変化したりすることにより、目が乾燥し、目の表面に傷などの障害が生じる状態のことをいいます。特に2020年3月以降は、外出の自粛やテレワークの普及などによって、画面を見る時間が一層増え、目の乾きに悩む人はさらに増加していると考えられます(2020年5月当社調べ(WEB調査 n=300))。


目が乾くメカニズムとは?
涙は目の表面をうるおすと共に、老廃物を洗い流し、目に栄養を与える働きを持っています。
目の表面にうるおいを保つためには、涙の3層構造(外側から油層・水層・ムチン層、図4)のバランスを維持することが大切です。この3層構造のバランスが崩れると、涙の安定性が低下してしまい、涙が目の表面を均一に覆うことができなくなり、ドライアイ(目の乾き)症状が生じます。

図4 涙の3層構造
https://www.atpress.ne.jp/releases/281915/img_281915_4.png


ドライアイのタイプに関する研究
ドライアイには涙の量が減るタイプと涙の蒸発が進みすぎて乾くタイプがあります。蒸発が進みすぎて乾くタイプのドライアイは、成分が変化することで油層が不安定化し、蒸発を促進し、症状に繋がるというタイプになります 1)。近年の研究により、蒸発が進みすぎて乾くタイプのドライアイの構成比は実に8割にも上ると言われています 1),2)。


参考文献:
1) あたらしい眼科 29(3), 333~337, 2012
2) あたらしい眼科 38(5), 495~500, 2021
情報提供元: @Press