欧米の各国は1920〜30年代にかけて、歩兵用対戦車火器として個人や数人の兵士が持ち運べる重さ、大きさの対戦車ライフルを開発していた。当時、既に対戦車砲が存在していたが、歩兵と直接行動を共にする対戦車火器も必要であり、機関銃に匹敵する機動性を持つ対戦車ライフルが注目されていたのだ。

 そのような世界的潮流の中で、日本陸軍も「歩兵用対戦車火器」の必要性を認識しており、スイスから口径20ミリのゾロターンS-18/100対戦車ライフルを輸入、研究したほか、昭和10(1935)年には口径20ミリと13ミリの開発に着手した。しかし13ミリでは威力が不足していたため開発は中止され、やがて20ミリに一本化された。

 対戦車20ミリ砲の実用試験は昭和13(1938)年中に終了し、同年10月には陸軍省が「九七式自動砲」として制式化を検討した。ところが、陸軍省と参謀本部との協議において、当初は約40キロの火砲を予定していたところが、完成した砲は約59キロになってしまい、重すぎることが問題となった。陸軍省は九七式自動砲の制式化を「当分の間」取りやめることとし、暫定的な生産を認めたのである。

 最終的に九七式自動砲は昭和18(1943)年まで生産が続けられ、総生産数は約1200門とされている(400門との説もある)。

 九七式自動砲はガス圧作動式の半自動砲(セミオートマチック)で、作動機構は試製九四式20ミリ高射機関砲から発展したものと考えていいだろう。発射速度は、最大12発(1分)となっており、箱形弾倉には7発装填されていた。初速は秒速750メートルで、弾丸の重量は327グラム、距離220メートルで30ミリの装甲板を貫通することが可能だった。また距離700メートルでも20ミリの鋼板を貫通可能であり、良好な命中精度を誇っていたとされる。

 九七式自動砲の能力は、諸外国の対戦車ライフルと比較しても遜色のないもので、当時存在した主力戦車の多くを撃破可能だった。文献によっては、ノモンハンで九七式自動砲の威力不足が明らかになったため、少数の生産に終わったとしているものもある。だが、最近の研究では数門程度が前線に投入され、ソ連軍の装甲車には大きな威力を発揮したことが判明している。ただ、ソ連軍は日本の20ミリ機関銃としているところから、どうやら外見からフルオート連射機構を備えていると誤解したようだ。

 暫定的な量産が始まると対ソ戦をにらんで満州の精鋭部隊や空挺部隊へ配備され、太平洋戦争中にはそれらの部隊とともに南方戦線へ投入された。南方では対戦車戦闘よりも対空戦闘の機会がずっと多かったためか、フルオート発射が可能な改造を施されて簡易対空機関砲とされたが、信頼性は低下したようだ。その他、ジテ弾と称する成形炸薬弾を発射可能とした砲もあったようだが、実戦投入されたかどうかも不明だ。

 歴史上の可能性に思いを馳せるなら、ノモンハンにおいてソ連の装甲車に威力を発揮したように、もし日本軍が九七式自動砲をもう少し早く大規模に生産し、前線部隊に配備させていれば、あれほど一方的な敗北にはならなかったかもしれない。また、沖縄に九七式自動砲を大量配備していれば、クルスクにおけるソビエト歩兵部隊に匹敵する活躍が可能だったかもしれない。

 しかし、陸軍首脳部は重量問題を理由として暫定的な生産に止めてしまい、太平洋戦争の開戦後は同じ生産設備を使用する対空兵器や航空機搭載機関砲の生産に追われ、対戦車自動砲の量産どころではなくなってしまったのである。とはいえ、陸軍が指摘した重量問題は単なる官僚組織の頑迷さによるものではなく、それなりの理由も存在していた。

 まず、陸軍は射手と弾薬手、運搬手ら数名で運用可能な、どちらかと言えば軽機関銃に近い火器を想定していたようだが、最終的には九二式重機関銃と同様に10名の分隊に運搬用の馬も含めた大所帯で運用せざるを得なくなってしまった。また太平洋戦争開戦前の主力重機関銃だった九二式重機関銃の調達価格は2100円程度だったのに対し、九七式自動砲は6400円にも達しており、調達コストは大きな問題となっていた。このような事情を考慮すると、陸軍が正式採用をためらった理由が見えてくる。

 ともあれ、少なくとも昭和15(1940)年までは、日本陸軍も欧米列強諸国なみの対戦車兵器を開発、生産していた。そればかりか、その中には当時の水準を上回る兵器も存在しており、もしも生産や運用体制が整備されていたなら、つまりはもう少し国力があったなら、相手により大きな出血を強いた可能性もあったのだ。九七式20ミリ自動砲も、そう言った兵器のひとつなのである。 (隔週日曜日に掲載)

■各国の主要対戦車ライフル

<ドイツ> PzB39:本体重量12.3キロ:装甲貫徹力25ミリ/300メートル:単発:7.92ミリ PzB38:本体重量15.9キロ:装甲貫徹力25ミリ/300メートル:単発:7.92ミリ S18-1000:本体重量54.3キロ:装甲貫徹力35ミリ/300メートル:半自動、装弾数5〜10:20ミリ

<ポーランド> マロスチェク:本体重量8.8キロ:装甲貫徹力20ミリ/300メートル:ボルトアクション、装弾数10:7.92ミリ

<イギリス> ボイズ:本体重量16.3キロ:装甲貫徹力20ミリ/500メートル:ボルトアクション、装弾数5:13.97ミリ

<ソビエト> PTRD1941:本体重量17.2キロ:装甲貫徹力25ミリ/500メートル:単発:14.5ミリ PTRS1941:本体重量10.8キロ:装甲貫徹力25ミリ/500メートル:半自動、装弾数5:14.5ミリ

<日本> 九七式二○粍(ミリ)自動砲:本体重量59キロ:装甲貫徹力30ミリ/220メートル:半自動、装弾数7:20ミリ

【記事提供:リアルライブ】
情報提供元: リアルライブ