かつては「自殺の名所」だの、「入ったら二度と出られない」だのと暗く不名誉な噂やイメージがあった青木ヶ原樹海。富士山の北西麓に約30k㎡にわたり広がる原生林は、今や手つかずの大自然が残るパワースポットとして、国内外問わず、子どもから大人まで幅広い層に人気の観光地となっています。

近年では、さまざまな団体によるコンセプトツアーが企画されるなど、四季を通じて樹海の新たな魅力が発信されています。

なぜ、それほどまでに人気なのか? 人々を惹きつけてやまない青木ヶ原樹海の神秘を探るべく 編集部もツアーに参加してきました。もちろん、河口湖周辺のおススメグルメスポットや絶景ポイントなども紹介しちゃいますよ。

まずは樹海の成り立ちを知ることから

山手線の半周分の広さに相当する青木ヶ原樹海(以下樹海)は、貞観6年(864年)の大噴火で流れ出た大量の溶岩の上に形成された原生林であり、森の歴史としては1,200年ほどの若い森になります。

富士箱根伊豆国立公園内に位置し国定天然記念物に指定されているため、植物を採取したり種を持ち帰ったり、持ち込むのも禁止。自然環境を荒らすような行為のすべてがご法度です。

この日筆者が巡ったコースは、「山梨県富士山科学研究所」から始まり「旅の駅kawaguchiko base」→「富士大石ハナテラス」→「竜宮洞穴」→「富岳風穴」→「東海自然歩道」→「鳴沢氷穴」→「富士眺望の湯 ゆらり」という河口湖と西湖を一周するようなコース。

まずは「山梨県富士山科学研究所」(山梨県富士吉田市上吉田剣丸尾5597-1)の内山高さんから樹海の成り立ちや富士山周辺の自然に関するレクチャーを受け、館内に常設されている展示スペース「富士山サイエンスラボ」を見学します。事前に富士山周辺の自然や富士山について知ることで樹海散策がより有意義なものになりますね。

写真)山梨県富士山科学研究所の内山高さん。

富士山科学研究所は、自然の中で遊びながら環境について学べる体験型施設。DVD観賞やスライド学習ができるホール、自然や環境に関するあらゆる本を取り揃えた図書室、富士山のいろいろ点について学べる季節ごとのプログラムなども一年を通して充実しており、校外学習や夏休みの自由研究などで訪れる親子も多いそうです。また、敷地内にある生態観察園の自然観察路では、森の中を歩きながら、さまざまな視点から動植物の生態系や森の成り立ちについて学ぶことができます。

写真)「山梨県富士山科学研究所」。本館エントランスホールには富士山に関する様々な展示がされている。
写真)富士山の成り立ちや噴火の歴史を学べる展示スペース「富士山サイエンスラボ」。

グルメと絶景を堪能。「旅の駅」と「富士大石ハナテラス」

富士山科学研究所で富士山と樹海について学んだ後はお楽しみのランチの時間。腹が減っては樹海を散策できません。2022年6月にオープンしたばかりの4,000坪の敷地にたつ「旅の駅 kawaguchiko base」(南都留郡富士河口湖町河口521-4)に立ち寄りました。

施設内には地元の地産・特産商品2,000品目以上が並ぶ「あさま市場」や、地産地食を味わえるオープンエアーの広いテラスを備えたレストラン「テラスキッチン」などの休憩施設があり、山梨や富士・河口湖など周辺地域のおいしい魅力をまるごと楽しめちゃいます。

写真)地元の食材を活かしたオリジナルメニューがいただける「テラスキッチン」。写真はツアーメンバーから人気だった「甲州牛ローストビーフ丼」。
写真)旬の桃と生ハム、そして“ほうとう”をアレンジした「桃とクレソンの冷製ほうとう」。※季節によってメニューは異なる。
写真)地元の農作物やオシャレなスイーツ、ワイン、加工品や雑貨などが並んでいる「あさま市場」。巡るだけでも楽しくて、あれもこれも欲しくなる。

お腹が満たされた後は、河口湖と富士山の絶景をもとめて「富士大石ハナテラス」(南都留郡富士河口湖町大石1477-1)へ。約2,000坪の施設内では河口湖畔に広がる富士山を眺めながらラベンダー畑やフラワーガーデンをゆったりと巡ることができ、花々と白壁の建物、小川と石畳といった自然豊かな湖畔のリゾートを満喫できます。

山梨県産のスイーツやお土産、地元の工芸品や人気雑貨を取り扱うショップなども充実しており、アクセサリー雑貨の「□○堂 富士大石」や山梨伝統の絹織物「富士桜工房」、甲州印伝・判子の「しるし」、テラス席から富士山が一望できるコーヒー&ピッツェリアの店「BRAND NEW DAY COFFEE」、信玄餅でおなじみ桔梗屋の「HanaCafe Kikyou」など、いずれもこだわりの製品や伝統工芸を受け継ぐ人気ブランドや店舗ばかり。散策の合間にペットを連れての買い物や飲食が可能なのも嬉しいかぎりです。※店舗ごとにルールあり

写真)富士山麓の生乳で作るソフトクリームが人気の「T’s cafe」。
写真)山梨県産の桃を贅沢にまるごと使った「葡萄屋kofuハナテラスcafé」の「季節のフルーツパフェ 桃」。

いよいよ、青木ヶ原樹海遊歩道へ

今回巡る青木ヶ原樹海の散策コースは「竜宮洞穴」→「富岳風穴」(30 分程度)→「東海自然歩道」(50分程度)→「鳴沢氷穴」(30 分程度)という約2~3時間の散策コースとなります。

比較的に平坦で整備されている遊歩道がメインとはいえ、場所によってはでこぼことした溶岩石に足元をとられるので履き慣れたスニーカーが必須。両手が空くようにリュックサック、突然の雨に降られてもいいように合羽や長袖ウインドブレーカーを持って参加しましょう。途中で立ち寄る溶岩洞窟では温度が冷凍庫なみに下がるので、寒さ対策としても長袖上着は有効です。

最初に立ち寄るのは西湖の南側にある国指定天然記念物「竜宮洞穴」(南都留郡 富士河口湖町西湖20681)。水の神「豊玉姫命」を祭る富士講八海巡り第5霊場です。総延長96mほどの洞内への一般の立ち入りは禁止されていますが、洞窟入口の祠まで行くことができます。

写真)県道710号線沿いにあるバス停「竜宮洞穴入口」が目印。自然散策路の入り口から5分程度でたどりつく。駐車場はない。
写真)洞穴の奥から吹く風が涼しい。本当に龍神が住んでいそうだ。
写真)洞穴から空を見上げた光景が美しい。

ちなみに溶岩洞穴とは、火口から流れ出た溶岩流が表面のみ冷えて固まり、チューブ状となった状態の内部を溶岩が流れ続け、やがて溶岩の供給が途絶えると固化し空洞だけが残ったもの。いくつかの条件(ガス分、溶岩の粘性、流れた時の傾斜、溶岩の冷却条件など)が整うことで形成されるそうです。

ツアーは「竜宮洞穴」を後に県道710号線を南下。国道139号線に突き当ると国指定天然記念物「富岳風穴」の最寄り「森の駅」に到着します。

総延長201m、高さは8.7mにおよぶという「富岳風穴」の平均気温は3度。昭和初期まで蚕の卵や種子の貯蔵に使われていた天然の冷蔵庫だったそう。壁の玄武岩質が音を吸収する性質をもっているため内部は不思議と音が反響しません。

写真)溶岩が冷却する過程で完全に冷え切る前に天井から垂れ下がり、その後に固結したという「溶岩鍾乳石」。

洞穴内では夏でも溶けない氷柱や、先に冷えた溶岩の後に溶岩が順次押し寄せて固まった波状の縄状溶岩(パホイホイ溶岩)、溶岩棚など、溶岩のさまざまな表情が見られます。

写真)洞穴の最奥には「珪酸華(けいさんか)」というヒカリゴケの群生地も。ちなみにヒカリゴケが光るのは光の反射によるもので、それ自体が発光しているわけではない。

さて、「富岳風穴」を出た後は、出入り口ゲートからそのまま東方向へと伸びる「東海自然歩道」を30分ほど歩き、いよいよ最終目的地「鳴沢氷穴」へ向かいます。

写真)分岐点を鳴沢氷穴へ。

いつかのアニメやゲーム、映画の世界で見た森の深淵のような光景が続き、苔むした溶岩の間を這う木の不思議な根の動きには神秘さえ感じます。溶岩を苗床に育った樹木は栄養が足りず、樹海の木々は大きく成長することがありません。しっかりと根が張れないため倒木も多くみられますが、樹海ではこの倒木を養分に新しい命が育ちます。

写真)溶岩台地の上に堆積した土は少なく、木の根が溶岩を這うようにのびる。
写真)溶岩が流れた後に木が生えたのが分かる痕跡。
写真)木々は細く、森の隙間からはこぼれ日が注ぐ。

樹海で迷ったら2度と外へ出られない??

“樹海”とは上空から見るとまるで木々の緑が波打ってみえることからついた名であり深い針葉樹の森が広がっています。森のなかは同じような風景が続くため、奥へ分け入ると方向を見失うこともあるそうですが、遊歩道から外れなければ迷うことはありません。

ちなみに樹海はコンパスがきかないという噂がありますが、これは溶岩のなかに磁鉄鉱を含む岩があり、その磁力に方位磁針が反応すると狂うためです。しかし、富士山の溶岩はそもそも玄武岩が多いため反応する溶岩を見つけることが難しく、岩の上に方位磁針を置くなど、よほど近づけないかぎり狂うことはないそうです。ましてや今はスマホなどGPS機能がある機器を持ち歩くご時世。コンパスがきかないから “出てこられない”といった可能性は低いのです。

写真)磁鉄鉱を含む溶岩石の上に方位磁針を置くと針が回ってしまうが、このような溶岩石はなかなか見つからない。

樹海は、インターネットの情報を中心に樹海のネガティブな面が取り上げられることも少なくはなく、そのような趣向の動画などが公開されることもあります。これは撮影者が遊歩道を外れて歩くなど危険行為をするばかりでなく、苔を荒らすなどの環境問題に繋がる恐れがあり、県ではルールと自然を守りながら散策を楽しんでほしいとしています。

写真)樹海の遊歩道歩いた末に…ついに、たどり着いたぜ「鳴沢氷穴」。

樹海の東の入口に位置する国指定天然記念物「鳴沢氷穴」は年間を通して大勢の観光客が訪れる人気観光スポットのひとつ。古い側火山(中央火口の外にある、山型の火山堆積物)の間を溶岩流(青木ヶ原丸尾)が流れてできたものです。

写真)いちばん低い所では、高さ91cmの溶岩トンネルをくぐって進む。
写真)洞穴の奥には分厚い天然氷。富士山から湧き出た地下水が凍ったとされる。
写真)ほ、ほんとに? だとしたら面白い。

内部はかなり冷えるので、夏でも長袖の着替えを忘れずに。うっかりノースリーブなどで入ると身もココロも凍るおもいをします。

さあ、ツアーの仕上げは「富士眺望の湯 ゆらり」(南都留郡鳴沢村8532-5)と「道の駅なるさわ」に立ち寄り散策の疲れを癒して帰ります!

「富士眺望の湯 ゆらり」は、富士山の眺望が抜群の露天風呂やパノラマ風呂の他、炭酸泉や洞窟風呂など趣向を凝らしたお風呂が16種類揃う日帰り温泉施設です。リラクゼーションルームやボディリフレッシュルーム、レストラン、そして6種類ある貸切風呂は家族やカップルなどで楽しめちゃいます。貸しタオルやアメニティも豊富なので手ぶらでOKなのが嬉しいですね。

歴史的にも自然科学的にも貴重で重要な資源であるにもかかわらず、まるで異世界の入り口かのようなイメージがある青木ヶ原樹海。一方でそれは、常に好奇心を掻き立て、人々の不思議や非日常を求める気持ちを裏切らない何かがあるということです。

確かに樹海や溶岩洞窟のなかは、妖や神がほんとうにいるのではないかと感じるほど神秘的で美しい光景でした。くわえて、樹海や洞穴の成り立ちを知れば、自然の豊かさや奥深さに新しい感動を覚えることでしょう。マナーとルールを守って、ぜひ、あなたも異世界の入り口へ。大自然を感じる旅にでてはみませんか。

岳人
Fujisan.co.jpより
情報提供元: マガジンサミット
記事名:「 まるで異世界ダンジョン!溶岩洞穴と神秘の森へGO 青木ヶ原樹海ネイチャーツアーに参加してみた