2年前に公開された映画『オリエント急行殺人事件』や、つい先日放映されたTVドラマ『予告殺人』の原作者アガサ・クリスティー。その物語の面白さ、絶妙なキャラクター、そして切れ味するどい結末は、没後40年以上経った今でも世界中でファンが増え続けています。そんな傑作ぞろいの作品の中でもクリスティー自らが代表作と称するお気に入りの作品『ねじれた家』がこのたび劇場用映画となり、現在公開中です。


舞台は1950年代後半のイギリス。移民から一代で財を成したギリシャ人大富豪アリスティド・レオニデスの訃報記事が新聞に載ると、私立探偵チャールズ(マックス・アイアンズ)の事務所にその孫娘ソフィア(ステファニー・マーティーニ)がやってきます。病死と思われた祖父の死因が、実は他殺の疑いがあるというのです。彼女の依頼を受けたチャールズが訪れた館には、被害者が再婚した若い妻、前妻の姉、長男とその家族、ソフィアの父である次男とその家族、長年勤めている家政婦らが住んでおり、しかもその全員が殺害の動機を持っていることが判明します。不穏な空気が漂う邸宅で捜査を続けるチャールズをあざ笑うかのように、やがて第二の事件が発生し……。


以上のあらすじでおわかりのように、この物語にはエルキュール・ポアロもミス・マープルも登場しません。しかし! それでがっかりしてはいけません! クリスティー本人がイチオシのこの小説、結末で明らかになる真相があまりに衝撃的なので、なんと出版社からそこを変えてほしいと頼まれたといういわくつきの作品なのですよ!! もちろんクリスティーは断り、おかげで今もなお語り継がれる名作が残ったわけです。


今回の映画化では『ダウントン・アビー』の脚本や製作で有名なジュリアン・フェロウズが脚本を担当。物語自体はほぼ原作どおりですが、主人公のキャラクター設定に大きな違いがあります。原作ではチャールズは外交官で、任務先の外国で知り合い婚約したソフィアに、この事件のせいで結婚できないと言われて必死に解決しようとするような、優しいけれどちょっとぼんやりした青年だったのが、影を背負ったタフな私立探偵に変えられています。というのも映画ではソフィアは(おそらくこっぴどく振られたであろう)元カノで、しかも魔性の女タイプという役柄になっているため、容疑者としても元恋人としても主人公の疑惑が高まっていくのが物語のスパイスになっています。なお舞台の年代も原作から10年後ぐらいの1950年代後半に変えられ、時間が止まったような屋敷と新しい若者文化の台頭でにぎわう都会との対比が興味深く描かれています。これは1986年のイギリス映画『ビギナーズ』(ジュリアン・テンプル監督)と同じ時代設定なので、比較してみるのも楽しいのではないでしょうか。


今やジェレミー・アイアンズの息子という肩書が不要なほど実力を増してきたアイアンズの脇を固めるのは、アカデミー賞にノミネートされた『天才作家の妻 -40年目の真実-』でも共演したグレン・クローズに、『X-ファイル』のジリアン・アンダーソン、そしてミステリファンにはおなじみの『SHERLOCK(シャーロック)』のアマンダ・アビントンが出演しているのも嬉しいですね。


クリスティー作品の中でも一、二を争う黒いエンディング。この作品が気に入ったら、今度はぜひ『邪悪の家』、『葬儀を終えて』、『ホロー荘の殺人』(すべて早川書房クリスティー文庫)などにも挑戦してみてください。


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【書いた人:♪akira】

翻訳ミステリー・映画ライター。ウェブマガジン「柳下毅一郎の皆殺し映画通信」、翻訳ミステリー大賞シンジケートHP、月刊誌「本の雑誌」、「映画秘宝」等で執筆しています。


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情報提供元: ガジェット通信
記事名:「 アガサ・クリスティ作品の中でも一、二を争う黒いエンディング 映画『ねじれた家』