読者の皆さんは貯金することは得意ですか。

現在と将来では、いますぐ得られる価値の方が大きく見えてしまいがちなもの。

浪費してしまい、貯金することが苦手な人も多いのではないでしょうか。

そんな方におススメの貯蓄を増やす方法があります。

2011年の米ノースウェスタン大学のハル・ハーシュフィールド氏(Hal Hershfield)ら研究チームは、自分の老いた顔を見るとお金を将来の貯蓄に回すようになることを報告しました。

研究チームは「未来の自分の姿を見ることで、未来がより身近なものに感じ、現在の資産を老後に割り当てるようになったのではないか」と述べています。

研究の詳細は学術誌「Journal of Marketing Research」にて2011年3月12日に発表されています。

目次

  • 報酬の価値は時間経過とともに減る
  • 年老いた自分を見ると将来に備えるようになる

報酬の価値は時間経過とともに減る

「人生100年」という言葉があるように平均寿命が延びたことにより、退職してから約30年以上の時間を過ごさなければいけなくなりました。

その時に心配なのが退職後の「お金の問題」ではないでしょうか。

貯蓄する時には、遠い将来の状況を自分ごととして考え、備えなければなりません。

ところが私たちは貯蓄をすることが得意ではないことがわかっています。

例えば、すぐに1万円をもらうのと1年後に2万円をもらうのではどちらの方を選びますか。

おそらく多くの人はいますぐに1万円をもらう選択をするのではないでしょうか。

冷静に考えれば、1年待ち2倍の金額をもらえる選択をした方が合理的であるにも関わらず、私たちは現在の価値に重きを置くのです(1年後にリスクなしで利回りが100%の投資先など詐欺でもない限り存在しないから)。

この現象は「時間割引」や「時間選好」と呼ばれ、得られる報酬の嬉しさの度合いが時間の経過とともに下がる現象を意味します。

現在感じている欲望の優先順位を高く、将来起きるであろう出来事をまるで他人事のように感じてしまうのです。

そこで米ニューヨーク大学のハル氏ら研究チームは、VR上で自分の年老いた姿を見る経験が、将来の自分との結びつきを強め、貯蓄行動を促進するのではないかと考え、実験を行いました。

実験では、参加者55名を①VR上で現在の姿を反映したアバターになる人と、②自分の年老いた姿(70歳代)のアバターになる人の2つのグループに分けられました。

Credit: Hershfirld et al. (2011).

よりアバターに対する身体所有感(自分の体である感覚)を高めるために、VR上では鏡を見ながら声を出したり、頭を回す、頷くなど身体を1分程度動かしてもらいました。

VR上では、アバターの見た目だけでなく身体の動きもトラッキングし、アバターは本人の動きと同期するようになっています。

その後、参加者に急遽100万円を手にしたときに、そのお金を現在と退職後のどちらにどれくらいの割合で使うかを回答してもらっています。

さて将来の自分の姿に一時的になることでどれくらいの金額を将来の資金として分配するようになったのでしょうか。

年老いた自分を見ると将来に備えるようになる

実験の結果、VR上で現在の姿を反映したアバターになった人と比較して、年老いたアバターになった人は、約2倍多くお金を退職後の資金に回す傾向がありました。

ただこの実験はVR上でアバターになるという手間のかかることをしているため、私たちが日常でこの効果を利用しようとしても実行は困難です。

そこでハル氏ら研究チームは後続の研究で、VR上ではなく自撮り写真に老け顔フィルターをかけた写真を見ることでも、今回確認された効果を再現できるかを検討しました。

実験ではAforeMovilと呼ばれるネットバンキングアプリを利用している48,853名でした。

参加者は、以下の実験介入群と統制群の2つのグループに分けられました。

実験介入群:1カ月間に複数回、写真を撮って老け顔フィルターをかけることができるURLの送付(あるいは通知)がされる。自分の顔の写真を撮影し、老けた顔フィルターをかけた後に、「彼(老けた自分)のために貯金しますか?」というメッセージと退職後の貯蓄用アカウントへのURLが表示される。

統制群:1カ月間に複数回、退職後の貯蓄用アカウントのURLのみの送付を受ける。

Credit: Robalino, Fishbane, Goldstein, &Hershfield. (2023).

実験の結果、将来の自分の老けた姿を見た人は、自分の老けた顔を見なかった人と比較して、約43%も多くのお金を退職後の資金として貯蓄する傾向が確認されました。

この結果はアバターでなくとも、自撮り写真を老け顔フィルターをかけるだけで、退職後の貯蓄行動を促進することができることを示唆しています。

ではなぜこのような現象が生じるのでしょうか。

現在の価値に重きを置く現象は、将来の自分との心理的距離が遠く、現在の自己との結びつきが弱いことや将来の状態の想像力の欠如から生じると考えられています。

研究チームは「自分の老けた顔を見る経験は現在の支出よりも将来のための貯蓄に回すモチベーションを高めた。未来の自分の姿を見ることで、未来がより身近なものに感じ、現在の資産を老後に割り当てるようになったのでは」と述べています。

これらの結果を考慮すると、たとえば、Amazonのアカウントやネットバンキングのアイコンを自分の年老いた写真にすることで、無駄な買い物を減らすことができるかもしれません。

いまでは気軽にスマホアプリの「AgingBooth」やTikTokの老け顔フィルターである「aged effect」などで自分の年老いた姿を見ることができます。

もし「無駄遣いをやめたいのにやめられない」「節約したいのにできない」、という人がいるなら今回の記事をきっかけに自分の将来の姿を見てみるのはどうでしょうか。

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参考文献

After 15 years of research, a psychologist says this ‘simple trick’ can help millennials retire faster https://www.cnbc.com/2020/02/25/millennials-can-retire-faster-using-this-simple-trick-says-psychologist-after-15-years-of-research.html

元論文

Increasing Saving Behavior Through Age-Progressed Renderings of the Future Self https://journals.sagepub.com/doi/10.1509/jmkr.48.SPL.S23 Saving for retirement: A real-world test of whether seeing photos of one’s future self encourages contributions https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/23794607231190607
情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 自分の老いた顔を見ると貯金しやすくなる