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雛輪じゅん『中谷産婦人科』リアルと夢とをたゆたう甘美な文章はいかに作られたのか?|インタビュー



泥臭くも力強い人間の生命力から、甘美かつ不穏で幻想的な情景までを行き来。新しい文芸スタイルで注目を集める『中谷産婦人科』(NextPublishing Authors Press、全3巻)。プロフィール非公開としている作者・雛輪じゅん氏に今回独占インタビューを実施。その人物像から、創作の原点にまで迫った。


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―ご自身のプロフィールについて、可能な範囲で教えてください。



雛輪 出身は東京都。性別はXジェンダーの中性型です。





―今回の『中谷産婦人科』が処女作と思えない内容として注目を集めています。



雛輪 ありがとうございます。





―作品の構想・執筆にはどれぐらいの時間を要しましたか。



雛輪 全三巻で、編集作業も含め約二年半くらいかかりました。一年少しくらいで、最後まで書き上げることはできたんですけど、文量が多いので、見直しをする作業が大変でした。詰めが甘いところは補足したりなどの編集作業で大幅に時間をとりました。私生活との両立も大変で、四か月くらいブランクがあった時期もありました。





―文章を紡ぐ際、こだわっている部分はどこですか



雛輪 あんまり深く意識はしていなかったのですけど、自分の文章を書く時の癖で、リアリティと夢的な雰囲気を織り交ぜるように描いているところがあると思います。あと、「絶対に焦ってはいけない」ことを意識して、とにかく時間をかけて丁寧に、一人の職人になったような気持で書き上げていきました。





―アーティスティックな表紙のイラストも、ご自身で手掛けられたそうですね


雛輪 恋愛小説の要素が濃厚であったりすることから、この作品のターゲットは女性だと思いましたので、女性が手に取って頂ける様な、ロマンティックで綺麗な雰囲気をイメージして描きました。特に「NO.1」はかなりこだわり、花をヘッドアクセサリーに見立てて、宝石の様な雰囲気を出すためにラメのボールペンを使ったり、背景には、アクセントに市松模様とかストライプを配置しました。尚、全三巻で表紙のイメージは敢えて、全部違えてみました。「NO.2」はレトロな雰囲気なのですけど、人物の耳たぶや目元に、淡いピンク色を塗ったりと、さり気なく可愛らしくする工夫をしました。






―影響を受けた作家はいますか?



雛輪 川端康成とか、トルストイの影響を受けています。





―作者からみた『中谷産婦人科』の見どころをおしえてください



雛輪 全体的に、ロマンチックとグロテスクな要素が入り混じった、奇妙な世界観であること。あとは、主人公が失恋して退学していくところから入っていくのですが、いつまでも「悲観主義者」というわけでもなく、無意識のうちに、「どうしても幸せになりたい、生きたい。」という前向きな気持ちから、意外にもポジティブな流れで展開していく部分かなと思います。主人公が新しく始まった日常から、様々なことに驚いたり感動したりしながら物語が進んでいきます。情景描写が細かいのは、自分が子供の頃から外国文学が好きだったからなのですが、古典の心も大事にしており、些細な事柄からも「風流」や「趣」を見出すことにも重点を置いて、読者が目に見えてその「色彩」を楽しんで頂けるように書き進めていきました。それでいて、主人公は「野本」という男に人知れず憎しみの気持ちを抱いていて、そんなことから物語全体に不穏な影を与えています。その時の気分で「善」と「悪」に揺れ動いたりする古代からの複雑でどこかわがままな女心も、作品のテーマの一つになっています。



―周囲の人物もじつに魅力的です。


雛輪 登場人物一人一人の個性を際立たせることにもこだわりました。作品のテーマが重いので、出てくる人物たちは、どこにでもちょっといそうな雰囲気の庶民的な性格の人達ばかりにして、会話はポップな感じで、楽しんで読んで頂けるように工夫してみました。登場人物たちは、いずれも独自の意思や価値観をしっかりと持っている自己肯定感の強い人たちばかりで、17歳の主人公はそんな部分から影響を受けたり、吸収したりしながら、「大人のたしなみ」のようなものを身に付けていきます。





―読者に味わって欲しい世界観のポイントは?



雛輪 テーマを三重にも四重にもかさねて、読者を迷路に誘い込むように、敢えて主点を掴みにくくさせているようなところです。様々な布切れを集めてパッチワークするように色んな要素を加えて、手作り感満載の個性的な作品にしたいという思いが強くありました。それに加え、ひとつひとつの描写の密度が濃いので、「この人一体何考えてるんだろう?」と思われる気がしますが、バラバラだった破片が、最後には一つに溶け合わさるような形で完結します。それだけに読みごたえと満足感は味わって頂けるのではないかと思います。





―本作完結後、次回作の構想を教えてください



雛輪 次回も恋愛小説の要素を取り入れた作品を作ってみたいと思います。今回の作品は、大まか一つにまとめて言うと「宗教観」がテーマだったので、物語を進めやすくするために、登場人物たちは敢えてラフな性格の人達ばかりで、主人公にとってストレスのない環境に整えて書きました。次回は、全く正反対の「人間関係のストレス」をテーマにして書いてみたいです。





―読者の方へ、一言メッセージをお願いします



雛輪 この物語の主人公は、たまたま妊娠してしまったので、学校を辞めて出産をするという人生を選びました。



様々な女性の登場人物が出てきますが、幸せの形は人それぞれだし、十人十色だからということが大きなメッセージです。特にどこかの宗教を推しているわけでもなく、色んなことを学んだり吸収して生きていきながらも、「答え」は結局、いつも自分の中にあるんだろうなと、そんな物語です。



<了>



雛輪じゅん(ひなわじゅん)●プロフィール非公開。2019年に処女作となる『中谷産婦人科』(NextPublishing Authors Press、全3巻)を発表、ネット上の口コミと書評で注目を集め続けている謎多き作家。


●小説『中谷産婦人科』

失恋の苦しみから崖っぷちに立たされた私は、バイト先の男性に勢いに身を任せるまま、妊娠をしてしまう。しかしその先には、全く予想もつかず、次々と驚くべき「芸術」の世界が広がっていた。(中略)「建築と植物」、「人工と自然」、「女性性」をテーマに、運命に身を任せるまま17歳で失恋、妊娠、退学、結婚、出産の体験をした主人公の激動の一年間を描いた物語。


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