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「骨太の方針」に見る安倍政権の問題点とは?なし崩しの外国人労働者拡大と緊縮政策が社会の分断を加速させる【田中秀臣】



安倍政権の最大の問題点は、財政の緊縮政策のスタンスを捨てきれないことにある。財務省が司令塔になり、それを増税政治家、増税マスコミ、増税志向の経営者などが支える「増税教」団が、この緊縮政策の背景にある。


特に財務省は、これだけスキャンダルや事実上の国家的犯罪(文書改ざん)を引き起こしても本格的な組織改革の声さえみられない、異常な特権組織である。この財務省が中心に動いて日本の経済政策もコントロールしようとしている。閣議決定された「骨太の方針」は、日本の経済政策の在り方を決める重要な文書だ。そこには消費増税を利用した「財政再建」の新しい目標が強く明記されている。つまり増税と政府の「ムダ」をなくす緊縮政策が中心である。


普通はわれわれの経済が順調にいくことを最優先するのだが、「骨太の方針」にはまず緊縮政策ありきである。長期的停滞から完全に脱出しきれず、またトランプ政権の引き起こした貿易戦争で不確実性の高まったこの時期に、なぜかその種の環境への配慮を一切せずに「財政再建」の日程だけが高らかに明記されている。要するに現実はどうでもよく、財務省の机上の計算だけが生んだ、「財政再建」の無残な成果である。


無残な側面は「骨太の方針」の他の面にもある。「人出不足」を背景にした、外国人労働者の拡大である。一定の技能や日本語能力をみたす人たちを、2025年までに50万人拡大する方針だ。だがこの外国人労働者の受け入れ拡大は、緊縮政策とともに実行すれば日本社会の分断を大きくするだろう。


今回の方針では、外国人労働者の滞在延長も規制が緩和される。より長期化することで事実上の「移民」の受け入れに近くなるだろう。家族の受け入れは拒否するようだが、これはやがて(人権への配慮などで)なしくずし的に緩和するのではないか? いずれにせよ、外国人労働者の受け入れ増加、滞在長期化なは、先の緊縮政策と連動すると社会の分断を劇化させかねない。







■イギリスに見る、緊縮政策下での外国人労働者拡大の問題


例えばイギリスは、日本と事情は大きく異なるもの、こと外国人労働者の受け入れを緊縮政策のもとでなしくずし的に拡大させてきた。その傾向は90年代からあったが、特に2005年以降は、新たにEUに加盟した東欧からの外国人労働者、移民などが激増した。当然にその人たちへの公共サービス(教育、医療、社会保障など)への追加的需要が増加した。しかしこの需要の増加に対して、イギリス政府は緊縮政策で応えた。当然に、この緊縮政策は、イギリスの低所得者層と外国人労働者や移民の人たちとの対立の激化を招いていく。単に経済的なパイの争いだけではなく、社会的な排除やヘイトなどが爆発的に拡大していく。社会の分断が深刻化をましていく。


もちろん連帯の動きも無視はできない。連帯の最たるものは、「反緊縮政策」の動きである。さらにもっと有力な運動としては、外国人労働者排斥の動きとも連動していた、EUからの離脱を問う動きだった。こちらは国民投票の結果、EUからの離脱がきまり、今日もイギリス社会の最大のテーマになっている。しかし反緊縮政策の方は採用されることなく、緊縮政策はその力を緩めることはない。


例えば、最近の報道では、2輪車を使った「スクーターギャング」と呼ばれる集団が、過激なひったくりや窃盗を繰り返し、犯罪件数が激増しているという。これを警察署や予算の削減といった緊縮政策の反映とみる意見も多い。さらに見逃せないのは、窃盗などの犯罪件数の増加と移民増加を連動してみなす勢力の存在である。この相関関係は実際のところ不明である。しかし緊縮政策の結果、既存の社会の構成メンバーと新規参入者(移民、外国人労働者)とが感情的に、犯罪の増加を契機に対立しやすいことは各国で観察される現象である。ちなみに日本でも不況になれば窃盗や盗難が増加する。だが、日本でもイギリスでも人口10万人比での殺人などの凶悪犯罪は減少トレンドにあることも指摘しておきたい。不況では要するに「お金」が犯罪の面でもキーになっているのだ。


外国人労働者増加政策は、労働市場の「構造改革」「規制緩和」である。構造改革や規制緩和は、緊縮政策の前ではうまくいかないことは、日本にいるわれわれは小泉政権の経験だけではなく、90年代前半から近時まで十分に体験してきた。私見では、人出不足には、まず日本にいまいる人たちの所得拡大や女性ややる気のある高齢者たちの雇用環境の改善で対応するべきだと思う。その上で、かりに外国人労働者への処遇を改善し、または一部拡大するにせよ、それは緊縮政策の下で行うべきではない。緊縮政策と外国人労働者の拡大は、日本社会の分断化を加速させる可能性が高い。その意味でも、財務省の緊縮政策は、われわれの社会の「改ざん」という悲惨をもたらすものである。財務省は日本の悪しき寄生虫である。


 

田中秀臣 <経済評論家 / 上武大学ビジネス情報学部教授>

上武大学ビジネス情報学部教授。早稲田大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。国土交通省社会資本整備審議会委員、内閣府経済社会総合研究所客員研究員など歴任。 著作『日本経済は復活するか』(編著 藤原書店)、『AKB48の経済学』(朝日新聞出版)、『デフレ不況』(朝日新聞出版)など多数。毎週火曜午前6時から文化放送『おはよう寺ちゃん活動中』レギュラーコメンテーターとして出演中。

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