はじめに

普段の生活の中で、見ているようで、意外なほど気付いていないことがある。大都会の中に「山」があると知ったとき、まさにそんな発見と驚きがあった。高層ビルの谷間や閑静な住宅街の一角に、密やかに、それでいて堂々と鎮座している「超」低い山。思わず笑ってしまうほど愛おしい、都内の「超低山」の魅力をご紹介。

Text&Photo&Illustration中村みつを 超低山とは

超低山とは

△待乳山頂からは東京スカイツリーが(左)/台東区、迫力ある様相を見せる品川富士(右)/品川区

山頂までの高さは平均10mほど、大都会の中にある山々。その数は東京23区内だけで「山手百名山」と呼べるほどで、小さな山が次々と現れる。面白いことに、辿っていくうちに時代を越えて、江戸の町中へタイムスリップするような不思議な感覚にとらわれる。そんな町中で見つけた小さな山を「超低山」と名付けてみた。

散策前に知っておきたい! ~築山、富士塚、天然の山~

都の山を見ていくと「超低山」は大きく三つに分けられる。大名庭園に代表される「築山(つきやま)」。山岳信仰から生まれた「富士塚」と呼ばれるミニチュアの富士山。そして3つ目が太古からそこにある「天然の山」である。

一つ目の「築山」は、どうやって生まれたのか。徳川幕府が天下を取ると、多くの大名は屋敷に豪華な庭園を設えた。その数は1,000ともいわれ、江戸市中には壮大な大名庭園が美しさを競った。伝統的な池泉回遊式の庭園で共通しているのは大池を掘ったときの残土を盛った築山が造られたこと。築山は庭園に欠かせないランドマークになっていたのだ。

日本の様式にみられる盆栽や盆景などの「見立て、縮みの文化」が、庭園そして築山に影響しているのがわかる。たとえば、浜離宮恩賜庭園の富士見山(高さ5m)は富士山を模した縮景であり、山腹のサツキは棚引く雲を見立てたもの。
△浜離宮冨士見山[築山]/中央区

2つ目の「富士塚」は、江戸庶民に爆発的に流行った富士信仰からきたもの。難行苦行の富士登拝は費用も体力も相当なもので、富士講という参拝登山をするための団体を組織し、選ばれた代表者のみが交代で霊峰富士に向かった。
そんなことから、どんなに憧れても富士登拝に行けない人のために造られたのが富士山を模した「富士塚」。老若男女、誰でも本家の富士に登拝したのと同じご利益が得られるということから、町内に競うようにミニチュアの富士山が造られた。江戸後期には「江戸八百八講・講中八万人」と呼ばれるほど富士信仰は一大ブームになった。
△千駄ヶ谷富士[富士塚]/渋谷区

富士塚の高さは10m前後がスタンダード。その数、都内だけでも50以上現存している。ミニ富士には胎内と呼ばれる洞穴や、頂には奥宮の祠が置かれ、山肌には黒ボクという富士山の溶岩を貼りつけ、懸命に富士に見立てている。登山道には何合目かを示す合目石(ごうめいし)もあり、その気にさせる。

そして3つ目の「天然の山」は、出世の石段で有名な愛宕山(標高26m)、花見で人気の飛鳥山(標高25.4m)、そして浅草に鎮座する待乳山(まつちやま)(標高9.8m)と、都内に3座が並ぶ。山麓には老舗の甘味屋や名物の店もあって、これもまた楽しみのひとつでもある。
△都内で一番小さい天然の山・待乳山(左)/台東区、愛宕山の男坂「出世の石段」は全部で86段(右)/港区

イラストで解説! 散策におすすめの超低山5選

ここからは初めての超低山さんぽにおすすめの山をイラスト付きでご紹介。といっても、特別な装備は必要なし。歩きやすい靴と、山のその先につながっている歴史と未来への想像力を持って、楽しんでみてもらいたい。 [1]春は桜、秋は紅葉の名所 箱根山/新宿区戸山

[1]春は桜、秋は紅葉の名所 箱根山/新宿区戸山

いまは都立戸山公園になっているが、かつて尾張徳川家の下屋敷があったところ。山頂には標高44.6mと刻まれた標石板と水準点が設置され、山手線内の最高峰でもある。築山といっても、350年も経つともう立派な天然の山の様相をみせた。春は桜の花に囲まれ、秋は紅葉が楽しめる。

◆箱根山
住所:東京都新宿区戸山2丁目
標高:44.6m
分類:築山 [2]急勾配を超えた先に神社がお目見え 愛宕山/港区愛宕

[2]急勾配を超えた先に神社がお目見え 愛宕山/港区愛宕

天然の山としては23区内最高峰。高低差約20mの「出世の石段」はその急勾配に怖じ気づく人もいるほど。下りはもっと怖い。

◆愛宕山
住所:‎東京都港区愛宕1丁目
標高:26m
分類:天然の山 [3]浅草のにぎわいの裏にひっそりと 待乳山/台東区浅草

[3]浅草のにぎわいの裏にひっそりと 待乳山/台東区浅草

喧噪の浅草寺の裏手に佇む標高9.8mの三角点のある山。かわいい登山電車で上がることも出来る。下山後は向島に渡って、「長命寺桜もち」や「言問団子(ことといだんご)」で一服しよう。



◆待乳山
住所:台東区浅草7丁目
標高:9.8m
分類:天然の山
※三角点:正確な位置を求める測量を行うために作られた位置の基準となる点のこと [4]登山記念の御朱印も! 千駄ヶ谷富士/渋谷区千駄ヶ谷

[4]登山記念の御朱印も! 千駄ヶ谷富士/渋谷区千駄ヶ谷

都内最古の千駄ヶ谷富士は、たおやかなコニーデ(円すい)型で優美なミニ富士。登頂記念のご朱印もある。

◆ 千駄ヶ谷富士
住所:東京都渋谷区千駄ケ谷1丁目
高さ:約6m
分類:富士塚 [5] 小さくても迫力満点! 品川富士/品川区北品川

[5] 小さくても迫力満点! 品川富士/品川区北品川

ごつごつとした岩肌の品川富士は高度感抜群。地上からの高さは15mで、山頂からはレインボーブリッジが望める。

◆ 品川富士
住所:東京都品川区北品川3丁目
高さ:約7m
分類:富士塚
【6】山頂からは富士山が望めることも 西郷山/目黒区青葉台

【6】山頂からは富士山が望めることも 西郷山/目黒区青葉台

おしゃれなショップが立ち並ぶ代官山にある西郷山(標高36m)は、高台の崖線に見られる斜面を山として見立てた山。眺望は都内随一を誇る。

◆西郷山
住所:目黒区青葉台2丁目
標高:36m
分類:見立ての山 【番外】超低山をつないで巡る「東京アルプス」

【番外】超低山をつないで巡る「東京アルプス」

たっぷり歩きたいときは山と山をつないで巡る縦走も楽しい。芝丸山(標高22m)から高低差150mの東京タワーを登頂して、ゴールの愛宕山を目指す「東京アルプス」はいかがだろう。他にも上野の山から王子の飛鳥山をつなげた「下町アルプス」、目白台の椿山(標高28m)から穴八幡を経て箱根山を結ぶ「山手アルプス」など。ちょっぴり大げさに、粋に楽しむのがいい。

おわりに

小さな山の大きな楽しみ。登山の装備も必要はなく、持ち物は散歩スタイルで十分。大事なのは、より豊かにしてくれる想像力かもしれない。小さな山でも、そこは特別な心地いい場所。出会った人とも、自然と「こんにちは」と山の挨拶が生まれる。近所を見渡してみれば、何か見えてくるものがあるはず。こんもりした山を見つけたら、しめたもの。きっと誰もがお山の大将になっている。
 
◆中村みつを
東京生まれ。イラストレーター、画家。雑誌、広告などで、自然や旅をテーマにしたイラストとエッセイの作品を多く手がける。これまでにヒマラヤをはじめ、ヨーロッパアルプス、南米パタゴニアなどを旅する。各地で個展を開催。現在、2年に1度のペースで開いている。著書に『のんびり山に陽はのぼる』(山と渓谷社)、『山旅の絵本』(JTBパブリッシング)、『お江戸超低山さんぽ』(書肆侃侃房)、『森のくらし』(二見書房)、『東京まちなか超低山』(ぺりかん社)、共著に絵本『ビビ』、『ビビのアフリカ旅行』(ポプラ社)など多数。日本山岳会会員。「全国山の日協議会」山の日アンバサダー。 
『東京まちなか超低山』
1,800円/ぺりかん社  

情報提供元:旅色プラス
記事名:「【イラスト解説付】中村みつをさんと巡る東京超低山さんぽ