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【柴又】「タイポさんぽ」の著者が指南。街中のタイポグラフィの楽しみ方




はじめに


2019年に、第一作の公開から50周年を迎えた『男はつらいよ』シリーズ。今回はその舞台となった「寅さんの町」葛飾柴又を目指して、町のイイ文字を探しながらぶらついてみようという趣向です。スタート地点はひとつお隣の京成高砂駅。果たしてどうなりますことやら。

Text&Photo: 藤本健太郎(グラフィックデザイナー)
よく見るとすごい白鳥

よく見るとすごい白鳥


京成高砂駅周辺の商店街を歩き始めて、まず出会ったのが、ちょっと懐かしい感じのする、こちらのKodakカラーの写真屋さんの装飾テント。ドーンと中央を占める赤いコダックロゴの下、ひかえめに店名が記されています。
その店名の文字たるや! なんと味わいのある「白鳥フォトサービス」でしょう。テント屋さん、黒い生地から一文字ずつを切り出して貼りこんでいます。PCのフォントではなかなかこの雰囲気は出ませんね。
個性的な「白鳥」の二文字を抜き出して味わってみましょう。「白」二画目の縦棒の書き出しが大きくはみ出していて、「白」だけを見ているとだんだん「白」には見えなくなってくる、特徴的な形状。よく見ると「鳥」の字の上部にも、平たくなってはいますが「白」と同じアレンジがほどこされています。そうか「鳥」のアタマは「白」だったんだ! と、分かっているようで忘れていた事を思い出します。かわいくってしばらく見上げてしまった二文字でした。 こんどは謎の赤い鳥

こんどは謎の赤い鳥


白鳥フォトサービスさんからすぐ近く、こんどは鳥肉専門店の袖看板に遭遇。トリ続きです。「袖看板」とは、建物から道路側に突き出すような形で設置された、「突き出し看板」のなかでも、着物の袖のように縦に長い形状のものをいいます。こちらの看板、屋根型に尖ったてっぺんのところに、白鳥のような優美なシルエットの赤いマークが大きく入って目を惹きます。これは何でしょう。やはり鳥のイメージ? それとも数字の2? お店はお休みで、謎のままです……。 夢の新素材でございます

夢の新素材でございます


「丸新ふとん店」さんの看板の脇に、「テイジンテトロン綿」と「三菱ボンネル綿」、「ニッケ毛布」のレトロルックなカタカナを発見しました。やはり一文字ずつをカラーアクリル板から切り出して貼ってある、昔ながらの手法です。現代の寝具店の看板では、こうした中の綿のブランド名を大きく書くような例はあまり見かけません。今では当たり前となってしまった化繊綿が、安価であったかい未来の素材として脚光を浴びていた時代を想像させる、貴重なものだと思います。 迷ったら電話マークを追うよろし

迷ったら電話マークを追うよろし


「ヘアーサロンヒデ」さんの、いい味が出ている看板は、紫のアクリル板から文字の形状を切り抜いて、白いアクリル板でウラ打ちがされているパターン。色褪せてなお、文字形状が内側につくる影とアクリル断面のハイライトが、独特の風合いを醸し出しています。ここで注目したいのは「電話マーク」。
このずんぐりした形……。かわいいじゃありませんか。看板やさんの手から生まれた、やさしさあふれる形状です。もうこんな形の電話機自体は、今ではなかなかお目にかかれませんが、電話マークのほうは令和の世になってもあちこちで生き続けていて、街歩きをしていると、古いものから新しいものまで、実にさまざまなタイプのものと出会うことができます。看板を見上げて歩くタイポさんぽといっても、何を見ていけばいいものやら、という方は、まず電話マークに注目するのはいかがでしょう。 弘法は手の内隠さず

弘法は手の内隠さず


柴又方向に向かってしばらく歩くと現れた、時計・宝石・メガネの「アキヤマ」さん。太くてエッジが立って、目立つカタカナですが、よく見ると……
テントやさんが描いた下書きの線がうっすらと残っていました。あまり出会えない、珍しいものです。「マ」の字はほんのすこしだけ他の字よりも背が低くしてあり、繊細なバランス調整がなされていることがわかります。電話マークも数字より一回り小さい枠の中で描くんですね。こうして下書き線が残っていると、職人さんの手の内を覗き見るような気分になります。 手造り惣菜かSFゲームか

手造り惣菜かSFゲームか


お惣菜の「マルショウ」さんの看板、脇を固める「大小宴会」「手造り」「煮物」などの言葉が醸し出すイメージとはおよそ結びつかない、凝った形のカタカナが主役です。「マ」と「ウ」の足を伸ばして一階層下を作り、その中央にローマ字表記を入れ込んじゃうだなんて、まるでゲームのロゴみたいじゃないですか! お惣菜屋さん看板の革命児ですね。 灼熱のサイクリング

灼熱のサイクリング


自転車屋さんの店先に「サイクリング相談の店」のアクリル看板。この、炎のようにゆらめく「サイクリング」の6文字……! お盆で人通りも少ない炎天下の通りで、陽炎を見たような気分になりました。 中に林を入れてみた結果

中に林を入れてみた結果


寄り道だらけの道中の末、柴又に近づいて来ました。呑める食堂「中林」さんのマークに迎えられます。「中」の字に「林」が合体して一文字のようになっていておもしろい形状です。
江戸から続く長い歴史を持つ柴又帝釈天。『男はつらいよ』シリーズのファンでなくても、下町情緒満点のこの界隈には散歩のし甲斐があること間違いなしです。ここまで見てきた看板文字たちよりも、さらに年季の入った渋い文字が並ぶ参道の光景を見に、ぜひ柴又を訪れてみてください。


◆藤本健太郎(ふじもと・けんたろう)
1973年北海道生まれ。グラフィックデザイナー。仕事の合間にあちこちへ出かけては、いろんな文字と出くわして、面喰らったり感動したり。そんな町歩きの成果を、『タイポさんぽ ―路上の文字観察』、『タイポさんぽ 台湾をゆく: 路上の文字観察』(誠文堂新光社刊)でまとめている。



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