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海上自衛隊:新型・多機能護衛艦(FFM)「くまの」進水、通常の護衛艦機能に機雷戦能力をプラス


2020年11月19日に海上自衛隊の最新鋭護衛艦の命名・進水式が行なわれた。この新護衛艦は、新しいコンセプトの「多機能護衛艦(FFM)」である。果たして、新コンセプトとはなにか?


TEXT&PHOTO◎貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)

命名・進水式は岡山県玉野市にある三井E&S造船・玉野艦船工場で行なわれた。艦名は進水式当日に発表されるのが通例で、式典で発表されるまで艦名は艦首舷側に設置された紅白幕で隠されている。艦番号は一桁の「2」で、新艦種であることを明示する。番号は最近の護衛艦にならいロービジ化(低視認性塗装)されたグレーカラーだ。写真/海上自衛隊

2020年11月19日、海上自衛隊の最新鋭護衛艦の命名・進水式が三井E&S造船の玉野艦船工場(岡山県玉野市)で行なわれた。当日、発表された艦名は「くまの」。艦首舷側に設置された紅白幕を開けて披露された。 




進水した最新鋭護衛艦「くまの」は、計画当初は3900トン型護衛艦と呼ばれ、計画排水量のボリュームだけが示されていた。計画当時のこの護衛艦の艦種記号はFFMで、就役後もこの艦種記号は使われる。記号の意味は、「フリゲイト(Frigate)」を示すFF、これに機雷戦(Mine warfare)や多目的任務対応(Multiple)を意味するMを加えたものだという。諸外国海軍での例を見てもこのタイプの艦船は比較的小型で多目的性を盛り込んだ艦艇を指す場合が多いようだ。海自では従来にない新コンセプトの護衛艦になる。

式典で艦名「くまの」と命名され、艦首の紅白幕が開けられる。名前がついた瞬間だ。奥にそびえるマストはフルカバー・ステルス化されたもので特徴的な形状を見せる。各種レーダー類が内蔵される予定。写真/海上自衛隊

海自の新コンセプトとは、沿岸警備を行ないながら機雷戦(機雷の敷設や除去等の意味の「掃討」)を実行すること。対潜戦や対空戦、対水上戦など従来の護衛艦の機能を備えながら、掃海艦艇が行なっている対機雷戦機能を持つ護衛艦を誕生させることにある。現在の日本の防衛戦略で喫緊の課題となる島嶼防衛(離島防衛)に投入する新型艦艇の整備だ。「くまの」はこれから艤装(各種の工事)を行ない、試験ののち2022年3月に就役予定だ。

FFMは、従来の沿岸警備を担った護衛艦「あぶくま」型に代わる存在となる。しかし沿岸部重視のようで、外洋でも存在感を示すような運用は想定していないようだ。所属先もまだ公表されておらず、掃海部隊を束ねる掃海隊群に入るのか、あるいは、平時は護衛艦隊に所属しながら、有事には掃海隊群へと移るやり方もある。どちらにしても、現時点では詳細不明。

岸信夫防衛大臣による「自衛艦命名書」。写真/海上自衛隊

FFMは1番艦と2番艦の建造がほぼ同時期に行なわれた。この「くまの」は2番艦になる。2番艦が先に進水したのは、1番艦がまだ建造中だから。1番艦の主機関であるガスタービンエンジンを試験中に部品が脱落、それをエンジンが吸い込むなどのトラブルが発生してしまい、建造が遅れている。本来はこの11月に相次いで進水する予定だったそうだ。そして先に進水した「くまの」は、前述どおり2022年3月に就役予定で、FFM全体ではトータルで6隻を建造する予定がある。

海上に進んだ護衛艦「くまの」。ステルス形状の巨大なマストが目を惹くのに加え、舷側が大きく傾斜し全体に滑らかでレーダー反射を低減するフォルムであることがわかる。写真/海上自衛隊

FFM「くまの」の基本スペックは次のとおり。




まずサイズは、全長133m、全幅16.3m、排水量3900トン。船体はステルス化に加えコンパクト化されている。




そして最大速力は約30ノット(約55.6km/h)以上。主機関となるガスタービンエンジンは英ロールス・ロイス社製を川崎重工業がライセンス製造する「MT30」を1基搭載する。加えてディーゼルエンジンを2基搭載、これは独MAN社製「12V28/33D STC」を積むという。これは、ガスタービンとディーゼルを併用するCODAG(COmbined Diesel And Gas turbine、コンバインド・ディーゼル・アンド・ガスタービン)推進方式を採用するものだ。CODAG推進方式は主に艦船で使用されるもので、通常航行時はディーゼルエンジンで経済航行し、急加速時や高速航行時にはガスタービンエンジンを併用する。これで航続距離性能と加速・速度性能の両立を図る。パワーは軸出力で7万馬力だという。

三菱が提案していた「3900トン型護衛艦 FFM」の概要書類のイラスト。盛り込まれる機能や搭載予定の装備などがわかる。資料/防衛省

主武装・主要装備品は、62口径5インチ砲を1基、防空ミサイルにSeaRAMを1式、艦対艦ミサイルSSM装置を1式(左右両舷)、対潜システムを1式、対機雷戦システム1式などを搭載する。




人員不足にある海自の事情を反映し、省人化と造船コストを抑えて設計・建造した初の護衛艦ということになる。予定される乗員数は約90人で、これは現用の汎用護衛艦の半数程度という。これは艦内機器類等の自動化や各種の運用省力化がさまざまな形で図られないと具体化しないものだ。操船系や機関系機器をはじめに集中管理・システム化など考えられる省力化はすべて盛り込み、ウリである機雷掃討分野も機械化・自動化に新機軸の手法を採用して省人化を図るかもしれない。無人機も多用されるはずだ。女性自衛官の居住区画も他の護衛艦同様に整備されるだろう。建造費は1隻約460億円。これは通常型護衛艦建造費の3分の2程度であるという。

ちなみに、艦名「くまの」は「熊野川」に由来する。熊野川は奈良県や和歌山県、三重県を流れる一級河川だ。新宮川水系の本流であり、下流にある熊野本宮大社と熊野速玉大社間のあたりの流域は世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の一部として登録されているという。この流域や地域は古来よりの神聖な場所で、昔の日本の貴族や皇族方がいわゆる「熊野詣で」に出掛け、川を舟で下る水上参詣ルートというものだったそうだ。こうした古くからの重要河川からとった名前が艦名公募の中にあったようで、海自内での検討を経て岸信夫防衛相が決定した。ちなみにこの艦名は二代目になり、先代は「ちくご」型護衛艦10番艦「くまの」(就役1971年、退役 2003年)だった。

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