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時速25km/hの自動運転ミニバス・GO!! そして、ホンダ・レジェンドのレベル3が「2020年度中」に発売される意味


茨城県境町で「自動運転シャトルバス」が走り始めた。フランスのナヴィア(navya)製のミニバスを町の予算で3台購入し、ソフトバンク子会社のボードリーが運行業務を行なう。乗車料金は無料の行政サービスだ。実際に筆者が境町へ出かけて取材したわけではなく、これまでに報道された内容とナヴィア社のホームページを閲覧しただけだが、地方の小さな町の決断として非常に興味がある。公共交通機関の消滅を防ぐ手段として、たしかに有効である。


TEXT◎牧野茂雄(MAKINO Shigeo)

「自動運転シャトルバス」が走り始めた意味を考える

境町が運用する3台の自動運転バス

日経ビジネスによると、境町ではさる11月26日からナヴィア社製のオートノムシャトル・エヴォ(Autonom Shuttle Evo)シリーズのモデル「ARMA(アルマ)」を3台購入し運用を開始した。境町は車両導入費用および今後5年間の運航経費として5.2億円を支出するという。期間限定ではなく、町民の足として「町営バス」のように定常的な運航を行なう計画だ。




町営バスを運行しようにも、人手不足で運転手も保守点検に必要な人員も確保できない。タクシー乗務員も高齢者。そうした地域は少なくない。自動運転バスは最後の手段とも言える。

境町が運用する3台の自動運転の路線図。コロナ禍で運用開始が遅れたが、境町では予定どおりにプロジェクトを進める。

ナヴィア社の動画を見ると、これは日本的な感覚でもマイクロバスではない。ミニバスだ。かわいらしさを演出するラッピングを施さなくてもかわいい。ボードリーの前身であるSBドライブは、2019年6月に国土交通省関東運輸局から道路運送車両の保安基準(これは法律ではなく国土交通省令。したがって改正には閣議決定が要らない)第55条に基づく基準緩和の認定を受けており、「ARMA」は公道走行のためのナンバープレートを取得できる。




なぜ55条の基準緩和認定を受けているかといえば、このミニバスには保安基準が定めるところの「舵取り装置(ステアリングホイール、いわゆるハンドル)」がない。オートノマス(自動運転)、しかもアンマンド(Unmanned=無人)のオートノマスを前提とした車両である。保安基準では「舵取り装置」は必須だが、この「ARMA」にはない。だから特別な基準緩和措置の適用を受けた。

境町が運用する3台の自動運転バスとその路線図。コロナ禍で運用開始が遅れたが、境町では予定どおりにプロジェクトを進める。

前輪と後輪はそれぞれ逆相転蛇される。おそらく非転蛇軸の「引きずり」を嫌ったのだろう。旋回半径を小さくするというより最高時速25km/hのなかで走行軌跡をコントロールしやすくするための選択と思われる。ちなみに25km/hはパーキングスピードである。




パーキングスピードでは後輪のスリップアングルがほぼゼロであり、後輪操舵をしない場合は単純にタイヤが引きずられる状態になる。「ARMA」走行中の動画を見ると、旋回中でも4輪は地面に対して視認できるような対地キャンバー変化は起こしていない。じわっと駆動力をかけながら、タイヤ接地面の横力を「転がり」に奪われながら走行しているような印象を受ける。




以下、堺町での運用については日経ビジネスの記事から引用する。

「当面は1台を使い、町内の公共施設を結ぶ往復約5キロメートルのルートを平日、4往復する。運賃は無料で、誰でも乗車できる。車両の準備ができ次第、2台を使って1日8往復に増やし、その後、ルート上にあるスーパーマーケットや金融機関、小学校などにもバス停を設置する予定。最終的には町内に5ルートを張り巡らせる構想を描く」
「もっとも、運転席のない自動運転バスといっても無人で走行するわけではない。バスは事前にプログラミングされたルートに沿って走り、歩行者や駐車車両などの障害物をセンサーで検知すると自動停止。ただ、自動で回避することはできず、その都度、同乗しているドライバーがコントローラーを使ってバスを動かす必要がある。また現状では信号機が赤か青かもドライバーが目視で確認している。これに関しては今後、信号機のデータを受信して自動判別できるようにする予定という」
実際に自動運転で運行されている「ARNA」は、遠隔監視によって安全性を保っている。

このミニバスは11人乗りで、電動モーターと車載バッテリーで走るBEV(バッテリー電気自動車)だ。ナヴィアが公表しているスペックは最大乗員15人(着席11人・立ち席4人)、全長4.78×全幅2.10×全高2.67m、最低地上高0.17m、空車重量2600kg、最大重量3500kg、電動モーター出力22.6kW(最大34kW)、リン酸鉄リチウムイオンバッテリー容量33kWh、最大運用速度25km/h、最大登坂能力18%、最小回転半径4.5m…… である。

すでにこのミニバスは160台以上が販売され、22カ国で使われているという。境町で運用されている車体は、羽田空港で試験的に使われているものと同じように見える。羽田空港は構内の速度規制に合わせて最高時速8km/hで運用される。現在のナヴィア社のカタログを見ると、LiDAR(ライト・ディテクション・アンド・レインジング=光学式の測距装置)やカメラなどのセンサー類の配置はある程度オプション追加ができるようだ。

搭載するセンサー類。(1)LiDARは車両の前後のもっとも高い場所にある。(2)車速を測定するための車輪速センサー。(3)GPSアンテナ。(4)ルーフ中央にある前後カメラ。遠隔監視とデータ解析のため動画がつねに記録される。(5)雨滴センサーと明るさセンサー。ワイパーとヘッドライトの自動制御を行う。ちなみにデータ通信は4Gと5Gを使える。

画面右側がカメラ映像で左がLiDAR画像。LiDARは3次元空間スキャナーであり、同様に障害物に当たった光の反射を読み取る。

デトロイト郊外の町ランシングでも、2020年7月から住宅地を回るナヴィア製ミニバスによるシャトルサービスが始まった。高齢者や移動が困難な障害者を乗せて診療施設、薬局、ファーマーズマーケットなどを巡回する1周1.31マイル(約2.1km)のコースで運用している。境町と同様、乗務員が乗車しており、乗員はバスの機能を説明したり車椅子での乗降をサポートしたりするほか、万一の場合にはあらゆる業務をこなす、という。

ミシガン州ランシングのシャトルサービスに運用されている車両。
ミシガン州ランシングのシャトルサービスに運用されている車両。

ランシングのプロジェクトは共同体形式で運営され、事業開発組織であるプラネットMが全体の取りまとめを行なっている。ミシガン工科大学とミシガン無人航空システム・コンソーシアム(MUASC=Michigan Unmanned Aerial System Consortium)も参加している。費用は助成金と寄付でまかなわれる。アメリカは自動車社会であり、クルマを持っていて、それを運転できる人でなければ自由な移動はほぼ不可能。必然的に高齢者と障害者は交通弱者になってしまう。ここを最新技術で支援しようという試みがランシングのプロジェクトだ。

境町でも、このミニバスには乗務員が乗っている。たとえばほかのクルマを避けようと停止した場合などは、乗務員が手動に切り替えて操作する。普通のステアリングは付いていないので、ビデオゲームのコントーラーのような道具を使って操作する。ナヴィア社のホームページには「無人化できる」ように書かれているが、境町でも羽田空港でもミシガン州ランシングでも乗務員が乗っている。

ホンダは自動運転レベル3に求められる国土交通省の型式認可を取得した。これは、自動運転車であることを示すステッカーで車体後部に貼付することになる。

その一方で、いわゆる「自動運転」に向けた動きが日本でもあった。さきごろホンダは、2020年度中に発売する「レジェンド」にレベル3の自動運転機能であるトラフィックジャムパイロット(TJP)を搭載すると発表した。国土交通省は世界に先駆けてレベル3実用化への法整備を行ない、それに合わせるかのようにホンダは年度内(まるでお役所?)の発売を宣言した。




国交省と自動車業界の間には、暗黙の了解のように「お役所さんありがとう」を行動で示す慣習がある。その昔、スズキが「ツイン」を発売したのも、国交省の呼びかけでコミューター構想に参加しておきながら何も市販しないのは申し訳ないという理由があった。ホンダが「年度内」にレベル3機能を市販するのも、制度設計を迅速に行なってくれた国交省へのお礼だろうか。

それはさておき、レベル3は「自動運転システム作動中」にはすべての運転タスクをシステムが行なう。いわゆる「運転にかかわる監視、対応の主体」はシステムである。システムが運転している間ならドライバーはスマートフォンでゲームをやっていても構わない。ただし、レベル3は「システムが作動継続困難な場合は運転者が取って代わる」ことになっている。

ホンダのTJPは、その名の通りトラフィックジャム=交通渋滞のときに作動する。自動車専用道路の走行中(好天に限られる)に約30km/h未満になるとシステム運転(自動運転とはいいたくないのでこの表現に)に切り替えることが可能だ。ただし片側1車線の高速道路やサービスエリア、料金所、あるいは高速道路内に急カーブがある場合、システム運転は行なわれない




渋滞が解消され、車速が上がるとシステム運転機能は解除される。その手前でシステム側がドライバーに運転の引き継ぎを要請する。もし、ドライバーがこれに反応せず定められた行動を10秒以内に取らない場合はシステムが車両を停止させるそうだ。

国交省は2020年度内に日本の高速道路に「レベル3市販車」を走らせたいと考えてきた。だから法整備を急いだ。アメリカでも人間が運転操作を行なわない自律運行製品に関する米国国家規格協会(ANSI)と米国保険業者安全試験所(UL)の共同規格であるANSI/UL4600が発効した。これはレベル4の自動運転や無人で動く農業機械、工場のメンテナンスなどを行なうロボット、ドローンなどの無人航空機の安全性を評価するための指針である。

日本は一般公道上に自動運転車を走らせるための法整備を急いだ。いつもなら抵抗勢力となる警察庁も全面的に協力した。2019年12月に警察庁は、自動車運転中のスマホなど携帯電話の操作・閲覧について罰則を強化したが、2020年4月にそのなかからレベル3自動運転中について携帯電話使用禁止の適用を除外した。つまり、レベル3実用化に向けた法整備は「国家プロジェクト」としての結束力で行なわれた。となれば、どこか自動車メーカーが行動で示さないと……というのは筆者の邪推である。

車両運動の専門家に訊くと「せいぜい車速40km/hまでなら完全自動運転はできる」と言う。車両諸元の設定の仕方によっては40km/hもパーキングスピードである。要するに、後輪の横滑り角を考えなければならないような領域では自動運転はまだ無理、そんな領域には踏み込みたくないということだ。




そもそも、何のために自動運転が必要なのか。筆者は公共交通機関未整備の穴を安全性の犠牲なしで埋めることが第一の理由だと考える。第二は「認知判断能力と身体機能が衰えてもクルマに乗り続けたいと考える人を助ける」こと。前者の場合は低速でもいいから完全システム運転が望ましい。後者の場合は現在のADAS(高度運転支援システム)をさらに進めた先の、運転主体はドライバーという世界で構わない。ドライバーの突然の機能低下を検知するためのモニターシステムが必須だが、すでにこの分野の開発は進んでいる。

境町の例は、公共交通機関の密度が著しく希薄な地域に、何とか「日常の足」を確保したいという目的であり、これは非常に理にかなっている。近距離移動を安全にこなせる「運転代行ロボット」を雇う。ただし当面は必ず人を同乗させる。いずれは完全システム運転と遠隔操作による緊急事態対応ができるようになるだろう。




特定の企業のビジネスを後押しするつもりはないが、「ARMA」 の運用について境町から委託を受けているボードリーは、日常に起きるさまざまなことがらとその対応をまとめ、広く日本各地に展開できるオートノマス・ミニバス運用ノウハウを蓄積すべきだ。この手のシステムを必要としている地域は日本中あちこちにある。

ドイツで訊くと「アウトバーンの渋滞がかったるいから自動運転がほしい」「工事中エリアに差し掛かるときの車線合流(コンストラクション・ガイド)を自動にしてくれればありがたい」との答えが多い。そしてアメリカもヨーロッパも「クルマの運転はずっと続けたい」というニーズが非常に多い。これはADASの延長線上で可能な機能であり、システム任せにするにしても「限られた条件のなか」で構わない。




日本は歩行者、自転車、バイク、乗用車、トラック・バスがつねに混合交通のなかにいる。これは米国ではありえない。歩行者と自転車はクルマとは分離されている。欧州は日本と似たような状況だが、平均の人口密度が日本よりも低く交通の過密度も平均的に低い。その意味では、日本の自動車交通は条件が過酷だ。しかしこれは、歩行者と自転車にとって「厳しい」条件でもある。

日本独自の交通環境の中にどうテクノロジーを注いてゆくか。これは外国の例のコピーではできないし、外国の真似をする必要もない。日本人が、試行錯誤の中で手段を確立しなければならない。その意味で、茨城県境町の決断は良い意味での前例に思える。

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