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豪雨の峠も走ってみたが、甲乙つけ難し! テネレ700、ロー…それともミドル?? |テネレ700・1000kmガチ試乗②


事前の予想では、ある程度の距離を走った段階で、尻や足腰にそれなりの痛みを感じるはずだった。でもテネレ700ローで走るロングランはなかなか快適で、早朝から夜まで走り続けた後も、身体は意外に元気だった。




REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)


PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

ローにするか、仮想ミドルで行くか

 シート高が837mmのローにするか、855mmの仮想ミドルで行くか。カメラマンと共に撮影兼ツーリングに出かける前日、僕は大いに迷っていた。自分の体格と趣向を考えれば、ノーマル:875mmに近い仮想ミドルのほうが、楽しい1日が過ごせるだろう。とはいえ、すでに答えがわかっていることをやるのは、何となく面白味に欠ける。逆に過去の仕事を通して、ローダウン仕様の他社製アドベンチャーツアラーで、何度もツラい経験をしたことがある身としては(距離が進むにつれて、尻、腰、膝、足首などが痛くなるのが通例)、テネレ700ローの快適性が、ノーマルに対してどのくらい悪化しているかを確認したい気もする。さんざん悩んだ僕は、ノーマルシートを持参して出発し、身体の痛みに耐えられなくなったらその場で交換、という手法を選択することにした。

市街地はそれなりに気軽で軽快

 自宅を出発して市街地を走り始めての印象は、最初からこういうものと思っていれば、ローはローで悪くないかも……だった。本来のオフロード車感は薄らいでいても、アイポイントが高くて車重が軽いテネレ700ローは、少なくとも1リッターオーバーのアドベンチャーツアラーよりは、気軽かつ軽快に走れる。また、この日の僕が改めて感心したのは排気音だ。テネレ700のマフラーは、加速時に不等間隔爆発ツインならではの威勢がいい音を聞かせてくれる一方で、巡航時は粛々と言いたくなるほど静かな音になる。この特性が意図的に作り込まれたかどうかは定かではないけれど、ここぞいう場面以外で控え目な音量は、ロングランでは好材料になるはずだ。

高速で感じた、ローならではの美点

 続いて乗った高速道路で感心したのは、防風性能と高速域における車体の安定性が、ノーマルより良好になっていたこと。実は悪路走破性を徹底追及したテネレ700は、アドベンチャーツアラーという枠で考えるなら、防風性と高速域での安定性が最上級とは言えないのだが、まさかシートと車高が低くなることで、事態が好転するとは。もっともローダウン化で、動的なキャスター角が寝てトレールが増えているためか、進路変更時には適度な重さを感じるのだけれど、この点も最初からこういうものだと思っていれば、問題にはならないだろう。

豪雨の峠道でもスポーツライディング

 お次はワインディングロードの話で、ここでの印象も市街地や高速道路と同じく、こういうものだと思っていれば悪くない……では言葉足らずか。と言うのも、当初の僕はローダウン化によって、フロント21インチならではのマイナス要素、曲がりづらさやゴロンとした感触が発生するのではないかと危惧していたのだが、実際のローにそんな気配はほとんどなかった。むしろオンロード車に近い感触で、どんなコーナーも気持ちよく走れて、これはこれで1つの正解なんじゃないかと思えて来る。




 もっとも、ローダウン化で乗り手の操作に対する車体の反応がルーズになっているぶん、ノーマルのようなコーナリングの切れ味は堪能できないのだけれど、傾けた車体に対して、ほんのわずかに遅れてフロントまわりに舵角が付く感触は、事情を把握していない峠道を走るときは安心感につながる。ただし旋回中に身体をイン側に入れたときは、高くなりすぎたハンドルグリップの位置に、居心地の悪さを感じないでもなかった。

 ところで、ローとノーマルの差異は語れないのだが、ワインディングロードを移動している最中に、ゲリラと表現するには長すぎる豪雨に遭遇した。アドベンチャーツアラーにとっての豪雨は特異分野で、たいていのモデルは余裕で走れるものの、テネレ700の場合はそれどころではなかった。路面を流れる雨が川のようになった状況でも、ドライ路面を走っているときと大差ない感覚で、スポーツライディングが楽しめるのだ。具体的にはかなりの悪条件下でも、ブレーキングポイントやライン取り、ギア段数、アクセルオンのタイミングなどを考えているし、思い通りに走れると極上の喜びが得られる。




 ダート路面でのパフォーマンスを考えると、それは当然のことだろうし、乗り手がいろいろなことを考える理由は、ハイテク電子制御のサポートがないからかもしれない(ただし、ABSのフィーリングは秀逸だった)。でも僕はこの特性に、かなりの好感を抱いたのだ。と同時に、ハイテク電子制御満載のアドベンチャーツアラーは、乗り手から“考えて走る楽しみ”を奪っているのではないか、という気がしないでもなかった。

ダートでもマイナス要素は感じない?

 テネレ700のメインステージと言うべきダートにおいて、意外だったのは、パフォーマンスの低下があまり感じられなかったことである。その一番の理由は、ダートでは基本的にスタンディングで走るからだが、そもそもオフロードの腕前が中級以下の僕は、ツーリングの途中で遭遇するダートでは、そんなに豪快なアクションはできないので、パフォーマンスの低下が感知しづらいのだ。あえて言うなら、リアのスライドコントロールは、ノーマルほどイージーではないようだけれど、この点は同条件で比較しないと、何とも言えないところ。

 それより何より、ダートを走っている最中に低車高仕様でよかったと感じたのは、セローのように足をバタバタ付きながらのトレッキングが楽しめなくはないこと。もっともそういう使い方ができるかどうかは、乗り手の体格や技量によりけりだが、この感触ならノーマルでは難しいと感じた未知の林道にも臆することなく、いや、多少は臆するはずだが、勇気を振り絞れば入って行けそうである。そのあたりを考えるとローの守備範囲は、見方によってはノーマルより広いのかもしれない。

ツーリング仕様を作って欲しい

 朝5時に自宅を出発して、ひと通りの撮影が終わったのは午後4時。ずっと走りっぱなしではなくても、すでに走行開始から11時間が経過しているのだから、そろそろシートを交換したくなっても不思議ではない。でもこの日の僕の身体は、意外に元気だった。尻と膝にやんわりとした痛みは感じるものの、過去に体験したローダウン仕様のアドベンチャーツアラーのように、痛くてどうしようもないというレベルではない。その背景には、舗装路でも頻繁にスタンディングしていたという事情があるのかもしれないが、ローダウン化による快適性の悪化は、事前に予想していたほどではなかったのだ。そしてその印象は、午後8時に帰宅したときも変わらなかった。




 というわけで、ノーマルだけではなく、ローにも好感触を抱いた僕だが、帰宅後にシートをノーマルに変更して近所を30分ほど走ってみると、やっぱりテネレ700はこうじゃなきゃと思えてくる。何と言ったらいいのか、このあたりは甲乙が付け難いのだが……。

 今現在の僕はヤマハに、オフロードにおけるパフォーマンスをある程度切り捨てた、テネレ700のツーリング仕様を作って欲しいと思っている。例えば、現状ではストロークがF:210/R:200mmのサスペンションを、F:190/R:180mm前後に短縮して、シートはノーマルと同等の厚さを確保し、そのうえでライポジ関連パーツとディメンションを最適化すれば、かなりいい感じのアドベンチャーツアラーが出来るのではないだろうか。欲を言うなら、前後ホイールがチューブレス仕様で、サイドバッグが標準装備だったら、個人的には最高である。




 などと書くと、テネレ700の開発陣の皆様は、“そういうバイクじゃないんだよ!”と、お怒りになるかもしれない。とはいえ、テネレ700に大いなる可能性を感じた僕としては、ノーマルとローだけの展開では、新規開発した車体や吸排気系がもったいない気がするのだ。そういった仕様の製作は、全国のディーラーやカスタムショップがやるべきなのかもしれないが、僕としては、テネレ700の構造を隅々まで知り尽くした開発陣が手がける、ツーリング仕様に乗ってみたいのである。

2020年型テネレ700のボディカラーは、青×灰、白×赤、黒の3色。ホイールのリムにブルーアルマイトが施されるのは青×灰車のみで、他2車のリムはブラックアルマイト。

純正タイヤはピレリ・スコーピオンラリーSTR。悪路を意識したタイヤではあるものの、STRが付かないラリーよりは、オンロード指向にして快適性重視。

主要諸元(ノーマル:標準車高)

車名:Tenere700


型式:2BL-DM09J


全長×全幅×全高:2370mm×905mm×1455mm


軸間距離:1595mm


最低地上高:240mm


シート高:875mm


キャスター/トレール:27°/105mm


エンジン種類/弁方式:水冷4ストローク並列2気筒/DOHC 4バルブ


総排気量:688cc


内径×行程:80.0mm×68.5mm


圧縮比:11.5:1


最高出力:53kW(72PS)/9000rpm


最大トルク:67N・m(6.8kgf・m)/6500rpm


始動方式:セルフスターター


点火方式:バッテリー&コイル(フルトランジスタ点火)


潤滑方式:ウェットサンプ


燃料供給方式:フューエルインジェクション


トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン


クラッチ形式:湿式多板


ギヤ・レシオ


 1速:2.846


 2速:2.125


 3速:1.631


 4速:1.300


 5速:1.090


 6速:0.960


1・2次減速比:1.925・3.066


フレーム形式:ダブルクレードル


懸架方式前:テレスコピック倒立式φ43mm


懸架方式後:スイングアーム リンク式モノショック


タイヤサイズ前後:90/90-21 150/70R18


ホイールサイズ前後:2.15×21 4.25×18


ブレーキ形式前:油圧式ダブルディスク


ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク


車両重量:205kg


使用燃料:無鉛レギュラーガソリン


燃料タンク容量:16L


乗車定員:2名


燃料消費率国交省届出値:35.0km/L(2名乗車時)


燃料消費率WMTCモード値・クラス3-2:24.0km/L(1名乗車時)
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