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トヨタ・ヤリスクロス | ヒットするには理由がある。開発コンセプト、サイズ、走り、パワートレーン……大ヒットBセグSUVの開発の舞台裏を訊く


トヨタが最激戦区となりつつある「BセグSUV」カテゴリーに満を持して投入したヤリスクロス。発売開始から間もないのにすでに2万台を受注しているという。ヤリスクロスの開発コンセプトや裏話を試乗会場で林 英明さん(Toyota Compact Car Company TC製品企画ZP主査)と阪本健二さん(Toyota Compact Car Company TC第1車両開発部第2シャシー設計室第4グループ長)に伺った。

ヤリスクロスの販売目標は、国内が4100台/月に対して、欧州は1万1500台/月となっている。ヤリスクロスの生産はトヨタ自動車東日本(TMEJ)が担当する。生産工場は大衡工場・岩手工場だ。




「国内の月販目標が4100台に対して欧州は11500台なので、欧州の方が約3倍多いです。欧州で販売する分は欧州(フランス工場)で造ります」


と語ったのは、林さんだ。以下、Motor-FanとのQ&Aをまとめた。コメントは、林さんと阪本さんおふたりのコメントをまとめたものだ(文責・Motor-Fan編集部)

MF:クルマのキャラクターづけが欧州志向になっているということはありますか?


「欧州の販売比重が大きいから欧州の声を聞いてクルマ作りをしたかというとそういうことは全然ありません。両方(日欧)の意見を聞きながら開発しました」




MF:あんまり欧州を向いてしまうと日本ではちょっと…というような背反する開発課題はあるのですか?


「背反と言いますか、法規が違うところがあったり、好みが違うところがあったりですね、一番わかりやすいところでいうと、欧州には日本にはないMTの設定があります。欧州には鍵の仕様があります。実際にキーシリンダーに入れて回す鍵です。好みの違いニーズの違いはありますね」




MF:BセグメントだとMTの比率は高いですよね?


「いや、意外とそうでもないんです。欧州ではハイブリッドの比率が非常に高くて9割を超えています」


MF:欧州はもともとハイブリッドだけなんじゃないですか?


「国によりますが、コンベのガソリンモデルも設定があるんです。東ヨーロッパ地域にはコンベのガソリンモデルも設定しているんです」




MF:トヨタとしては95g/kmのCO2排出量規制があるから、ハイブリッドモデルが売れてくれた方がいいんですよね?


「そうですね。CAFE(企業別平均燃費基準)上はもちろんそうですね」

Q:欧州の11500台/月は全量フランス工場で造るんですか?


「そうです。ですから日本で造るヤリスクロスはすべて右ハンドルです。日本向けとオーストラリア、ニュージーランド、シンガポール仕向け用です。イギリス向けの右ハンドル仕様はフランスで造ります」

トヨタ・ヤリスクロス G 全長×全幅×全高:4180mm×1765mm×1590mm ホイールベース:2560mm

車重:1140kg サスペンション:Fマクファーソンストラット式/Rトーションビーム式
最低地上高:170mm トレッド:F1525mm/R1525mm 最小回転半径:5.3m
ライズZ


全長×全幅×全高3995×1695×1620mm


ホイールベース2525mm




ヤリスクロス


全長×全幅×全高:4180mm×1765mm×1590mm


ホイールベース:2560mm




C-HR


全長×全幅×全高4385×1795×1550mm


ホイールベース2640mm




カローラクロス


全長×全幅×全高4460×1825×1620mm


ホイールベース2640mm

MF:日本だとライズがあってヤリスクロスがあって次がC-HR。そして先日発表されたカローラクロス、カローラクロス(全長×全幅×全高は4460×1825×1620mm)があることでヤリスクロス(全長×全幅×全高:4180mm×1765mm×1590mm)を開発するときの商品企画的に、「カローラクロスがあるからちょっと、この間の狭いところに向けて」っていう制約はあったのですか?


「いま、カローラクロスはタイで造っていまして、日本市場に導入するか決まっていないので、まずカローラクロスのことは商品企画的に考えていませんでした。市場が重なっていませんから。ヤリスクロス開発中にライズがあることは知っていました。ライズ開発チームと情報交換はしていましたし、デザインも見ていました。で、どうやって棲み分けるかという議論もしました。どっちかというとライズは従来型の力強い感じのSUVで、RAV4とハリアーだったらどちらかというRAV4寄りのキャラクターです。ヤリスクロスは、どちらかというとハリアータイプです。パワートレーンもライズは1.0ℓで我々ヤリスクロスは1.5ℓです。で、我々にはハイブリッドがある。そこでセグメントをしていこうと。ライズは5ナンバーで僕ら(ヤリスクロス)は1765mmで3ナンバーサイズだったり、大きさ的にもしっかりセグメントできています」

MF:ヤリスとヤリスクロスのボリューム的には、どのくらいの比率なんですか?


「企画でいきますと、ヤリス2:ヤリスクロス1というような比率です」(ヤリスの月販目標台数は7800台と発表されている)




MF:ヤリスとヤリスクロスでお互いに食い合わないようなすり合わせもするんですか?


「もちろんです。ヤリスとヤリスクロスは同じチーフエンジニア(末沢泰謙CE)の元でやっていますから(笑)。ヤリスは全長4m以下のコンパクトな、全幅が1700mm、5ナンバーにこだわった小さくて凝縮されたデザインで軽量で小気味がいいキビキビした走り。ヤリスクロスは、小さいことには多少こだわりつつも4180mmの全長と1765mmの全幅です。もちろんコンパクトとしてキビキビした乗り味っていうのはあるのですが、やはりヤリスと比べるともう少し落ち着いた動きのクルマに仕上げています」




MF:それはターゲットとしてイメージしているお客さんが違うってことですか?


「そうですね。年齢でいくと似ているのですが、ヤリスのターゲットユーザーは30歳くらいの女性、シングルでアクティブで運転そのものを楽しむっていう感じです。ヤリスクロスでイメージしていたのは、30代のカップルないしは子育てが終わった世代のご夫婦。週末にいろんな趣味で使えて、例えば自転車を積んでどこかへ出かけるとか平日でも仕事帰りにお気に入りの、ヨーロッパで言えばマルシェ、市場へ買い物をして大きい荷物を気軽に積んで帰ってくるみたいなそんなライフスタイルをしている人をイメージしながら開発しました」


「ヤリスは運転自体を楽しむイメージなんですが、ヤリスクロスはこのクルマを使って自分の生活を豊かにするとか自分の行動範囲を広げるとか、そんなイメージで開発をしていたので、荷室のユーティリティにこだわったり、4WDも多少の悪路でも走破できるように、行動範囲が広がるようなイメージを持って開発していました。

トランクはシートアレンジ(4:2:4分割リヤシート)を含めて工夫が凝らされている。

後席から見た前方。ややシアターアングルになっていて、後席の方が高い位置に座らせる。

MF:トヨタのクロスオーバー、SUVって全長いうと20cm刻みくらいで車種がありますね。他メーカーの方はトヨタと戦うために、結果的には4モデルでトヨタの8モデルに対抗しないといけないことになります。それは大変だな、と思うのですが、逆にトヨタ側からしてみると「これより上」「これより下」「これよりもっとアクティブな人はこっち」「これより年齢層が高い人はこっち」みたいな作る側として自分の守備範囲がカチッと決められてるから、それはそれで開発するのが難しいんじゃないかな、と思うのですが。そういうことはあまり考えないですか?


「いや、考えます。SUVとひと言でいっても、いろんなニーズがあっていろんなSUVがあります。さきほど申し上げた従来型のSUV、ランクルに代表されるようなすごくラギットな、時計でいうとカシオのG-SHOCKのようなイメージのSUVもあれば、ハリアーに代表されるような都市型のSUVもあります。そういったところ、しっかり特徴付けられるので、やりやすいというかやっていてクルマ作りが楽しいですね。目指すべき方向がピッと決まっている。「こっちもそっちも両方やりなさい」というのではなく、「こっち!」って言ってもらえるので。開発していて面白いです」




MF:ヤリスとヤリスクロスだと前席の座らせ方は違いますか?


「同じです。ヤリスをそのまま上げています。フロアとお尻の位置の関係は同じです。フロアからのヒップポイントは一緒。フロア自体が60mm上がっています。ヒール段差も同じです。それもひとつのTNGAの考え方なんです。ペダル配置、ステアリングの位置、インパネの高さ、みんな同じです」




MF:ヤリスからそのまま60mm上げただけっていうことですか?


「そういう意味ではそうです」


MF:60mm上げただけといっても、昔のクルマみたいにスペーサーを噛ませて車高を上げるというわけではないですよね?


「サスペンション・メンバーを作り分けています。まず、タイヤが大きくなることで25mmくらい単純に車高が上がります。それではなくて、サスペンション・メンバーを作り替えてボディを持ち上げています。単純にばねとアブソーバー〔ダンバー)だけで変えるとストロークのバランスが悪くなります。伸び代がなくなったりしますので、そういうところも性能が悪化しないように企画のなかでやっています」




MF:後席の座らせ方は?


「後席は逆にフロアに対するヒップポイントはヤリスに対して20mm上げています。アップライトに座らせるのでちょっと膝前スペースも余裕が出ます。後席は運転席に対して少し高くなります。見晴らしがよくなってより閉塞感がなくなります。後席の話をしますと、サイドウィンドウの角度がヤリスより緩やかで、天井も高くなってヘッドクリアランスも広がっているので座った感じはだいぶ余裕があると思います。広く感じていただけると思います」

後席の座らせ方はヤリスとは変えてある。前席より少し高い位置に座らせるパッケージだ。
フロントシートの座らせ方はヤリスと同一。これがTNGAの考え方だ。

MF:Bセグのクロスオーバーの最初のモデルってなんですか?


「最初に出たのは、日産さんのジュークです。2010年だったと思います。ジュークの後、欧州でルノー・キャプチャー、プジョー2008が出ました。当時はVWはBセグSUVは持っていなくて、フォードはエコスポーツです。エコスポーツは欧州ではモデルチェンをしていていまはピューマというモデルになっています。エコスポーツって、どちらというとライズのような格好をしていましたが、ピューマはヤリスクロスのようなクロスオーバーな感じですね。ジュークを初めて見たときは、個人的には"そうか、そうきたか"という感じはしましたね。VWが去年T-Crossを出して、ずっと我々も欧州の競合勢がどんどん出てくるぞというのは知っていましたし、欧州のB-SUVの市場がどんどん大きくなっていることもわかっていました。ですから、この新しいGA-Bプラットフォームを開発する最初から、これでSUVを作るというのを企画に入れてプラットフォームを開発しました。18インチの大きなタイヤも履かせることもGA-Bプラットフォームを開発する際に決めていました。だいたい車重をこのくらいに収めて、だいたいの全長、全幅も決めて、コンポーネントはヤリスといかに共通化できるかを考えて開発をしていました。GA-BプラットフォームはSUVを作ることありきで開発しています」




MF:最初からSUVを作る気があるかどうかで、プラットフォームの開発は全然違うものですか?


「全然違います。あとから大きいタイヤ、高い車高にすると妥協しなくてはいけない部分がたくさん出てきてしまいます。強度が足りない鉄板貼って補強しようとか、非効率な補強の仕方にならざるを得ません。そうすると重量も重くなってしまいますし、当然コストもかかってきます。TNGAすべて言えることですが、まず一括企画する。このプラットフォームではこういうクルマを作る。そういった開発手法を採り入れています。エンジンの排気量やスペックを決めるときも、あらかじめこういうSUV作るので、このくらいの出力がないと走らないですよとか、急な坂道登れませんよ、とかそういったところも決めてそこからエンジンの開発にかかるというようなことです」

ガソリン仕様:形式:直列3気筒DOHC 型式:M15A-FKS 排気量:1490cc ボア×ストローク:80.5mm×97.6mm 圧縮比:ー 最高出力:120ps/6600pm 最大トルク:145Nm/4800-5200rpm 燃料供給:DI 燃料:レギュラー 燃料タンク:42ℓ 燃費:WLTCモード 19.8km/ℓ トランスミッション:Direct Shit -CVT(ギヤ付きCVT)
ハイブリッド仕様:形式:直列3気筒DOHC+THSⅡ 型式:M15A-FXE 排気量:1490cc ボア×ストローク:80.5mm×97.6mm 最高出力:91ps/5500pm 最大トルク:120Nm/3800-4800rpm 燃料供給:PFI 燃料:レギュラー 燃料タンク:36ℓ フロントモーター:1NM型交流同期モーター 最高出力:80ps(59kW) 最大トルク:141Nm 燃費:WLTCモード 27.8km/ℓ
コンベのモデルのエンブレムはこの色。
ハイブリッド仕様はブルーになる。

MF:パワートレーンで言えば、欧州のライバルはみんなターボエンジンですよね。1.2ℓ、1.0ℓのダインサイジング過給エンジン。ライバルのターボにあたるのが、ヤリスクロスの場合はハイブリッドということですね。


「我々のハイブリッドシステムはNAエンジンの方がよりメリットが出せるんです。なので、最初からNAでいこうと考えていました」

コンベのガソリンモデルのAWDは湿式多板クラッチ式のカップリングを使う
ハイブリッド仕様のAWDは、e-Fourを呼ぶ、リヤにモーターを搭載する電気式AWDだ。

MF:欧州勢のBセグSUVはほぼFFです。AWDを設定しているメーカーは少ないですね。


「そうですね。キャプチャーも2008もT-クロスもAWDの設定はないです」


MF:でもトヨタはAWDをやる、と?


「そうですね。SUVなのでAWDは出したい、と」


MF:それはマーケットとしても喜んでくれる、と?


「特にハイブリッドのAWDがユニークポイントになります。欧州の普通のダウンサイジングターボより燃費がよくてAWDっていうところが武器になると思っています。欧州の販売はこれからなので、受け入れられ方はまだわからないですが。やはり欧州でも降雪地帯もありますし、滑りやすいところもあります。当然、安全は大事なファクターですので、アピール、ユニークセリングポイントになるのではないかと思っています。日本国内もAWDは必須です」

MF:SUVなので、ボンネットを伸ばしてドライバー席からノーズがちゃんと見えるようにってデザインしたのですか?


「いろんな国へいって『SUVってどんなイメージですかっていう調査をしました。そうすると『ボンネットが分厚くないとSUVに見えない』『ボンネットが分厚くて守られている感じがする』ということだったんです。


Q:ヤリスとの顔(フロントフェイス)を作り分けっているのはどう考えたのですか?


「見える部品でヤリスと共通の部品はアンテナとドアハンドルくらいしかありません。デザイナーも違いますし。デザインはまったく別のチームでやりました。少なくとも外板は。内装は、少なくともこの部分は共通で、ほかは分けようねっていうのは最初に決めて開発しました。たとえばインパネアッパーは揃えましょう、でもインパネロワーは分けましょう、とか。ドアトリムは基本的に一緒なのですが、ベルトラインの高さ違うので、そこだけ作り替えましょうとかは最初に決めています。




MF:名前はヤリスクロスじゃなくてはいけなかったんですか?


「名前は我々エンジニアが決めないので。『あ、そう決まったのね(笑)』という感じです。

MF:ルーフの形状が特徴的ですが? 機能的には?


「薄板にして強度を確保してかつ前面投影面積をミニマムにするには、ということです。ドライバーの頭部がくるところは膨らんで、そうでないところは凹ませてみたいな工夫をしています。補強がまっすぐでないのは、真っ直ぐにするとちょっとかっこ悪いので、こうしました」




MF:欧州では高速走行のシーンも多いですよね。アウトバーンもオートルートもあるし。高速性能はどの速度域まで見ているのですか?


「ハイブリッドの最高速度が170km/h、ガソリン仕様は180km/hですから、そこまではちゃんと見ています」




MF:じつは昨年RAV4が国内登場したときに、『アメリカでは大ヒットだけど、こんなに大きくてごついRAV4が日本でそんなに売れるはずがない』と思ってのですが、結果的に大ヒットしました。でも、今日、横浜の街をヤリスクロスで走ったら、『やっぱりこのサイズがちょうどいい』と感じました。


「じつは、初代RAV4(5ドアモデル 全長4115mm×全幅1760mmGタイプ)とヤリスクロスはボディサイズ(全長×全幅)がほぼ同じなんですよ。偶然ですが」




MF:RAVがあれだけ売れているんですから、ヤリスクロスも大ヒットしそうですね。そういう意味では4500台/月というのは控えめな販売目標なのではないですか?


「目標はモデルライフを通じての平均ですからね。9月頭で2万台の注文をいただいています」

ハイブリッドのAWDモデル。AWDのリヤはダブルウィッシュボーン。FFとAWDの重量差は約80kg。 ハイブリッドとコンベの重要差は約60kg。つまり、コンベのFFとハイブリッドのAWDの重量差は約140kgということになる。

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