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「4H」と「4L」はどうやって使い分ける? 4WD使いこなし講座【スズキ・ジムニー偏愛連載・第5回】


パートタイム4WDを採用するジムニーは機械式の副変速機も備えており、トランスファーレバーによって2H(2WD)、4H(4WD高速)、4L(4WD低速)を選択可能だ。しかし、その使い分けにはある程度の経験が必要。どんな場面でどどの駆動方式を選択すればいいのか、その基礎知識をお伝えしよう。




TEXT:山崎友貴(YAMASAKI Tomotaka)

後輪駆動の「2H」、直結4輪駆動の「4H」、その駆動力を高めた「4L」を切り替えられるジムニー。

自分で2WDと4WDを選択できるパートタイム4WD

初めてジムニーを買った、というよりは「初めてパートタイム4WDに乗った」という人には、トランスミッションのレバーの横にある『トランスファーレバー』というものに戸惑いを感じるのも無理はない。

ジムニーのトランスファーレバー。

現在、各メーカーから数え切れないクルマが発売されているが、ジムニーは「パートタイム4WD」という非常に珍しいシステムを持った希有な存在だ。同一のシステムを有する乗用車は、他にジープ・ラングラーしかない。トヨタ・ランドクルーザー・シリーズや英国のランドローバーにもトランスファーは付いているが、あちらは「フルタイム4WD」の副変速機付きというややこしい言い方になる。

頑なにオフロード4WDの伝統を守るジープ・ラングラー。
サイドブレーキレバーの奥にあるのがトランスファーレバーだ。

パートタイム4WDというのは、2輪駆動(パートタイム式はFR)と4輪駆動(4WD、4×4、AWDとも)を任意で選べるから、パートタイムと名が付いている。一方のフルタイム4WDは、自分で前後輪の駆動を選ぶことができない。通常は2WD(大抵はFFだが、FRのモデルも。もしくは完全に前後駆動力50:50)で走っており、駆動輪が空転し始めると、自動的にもう一方の軸輪に駆動力を送る。

この駆動力を送る方式にも、「パッシブトルクスプリット式(スタンバイ式とも)」と「アクティブトルクスプリット式」があるのだが、話が長くなるのでそれは別の機会にしよう。

2WDと4WDが切り替えられるようになっているのはなぜ?

話はパートタイム4WDに戻るが、そもそもなぜ自分で2WDと4WDの切り替えができるかというと、主な理由は2つある。




まずは燃費の向上のためだ。エンジンが出力する駆動力を4輪に振り分け、さらにそれぞれの駆動輪が空転せずに抵抗になるわけなので、当然燃費が悪くなる。そこで4WDである必要がない時は、2WDで走るようにしてある。これはフルタイム式でも基本的に同じ考え方で作られている。

もうひとつの理由は、パートタイム4WDの弱点である「タイトコーナーブレーキング現象」のためだ。例えば、クルマが曲がる時に、内輪と外輪は別々距離を走るため、どうしても回転数に差が出てしまう。ミニカーを手で押すと分かるが、曲がる時にギクシャクしてしまう。それを解消してくれるのが、「ディファレンシャルギア」という装置だ。左右輪の回転差を歯車で吸収して、同じスピードで違う距離を回ってもギクシャクしないようにしてくれる。

副変速機付きパートタイム4WDを採用するジムニー。

さて今度は4WDの時。4WDにシフトすると、前輪軸と後輪軸はプロペラシャフトという1本の軸(実際は2本だが)で結ばれることになる。これを「直結状態」という。曲がる時に左右輪に回転差が起こるわけだけだから、当然前後輪にも回転差が発生する。いわゆる「内輪差」というものだ。しかしパートタイム4WDはプロペラシャフト上にディファレンシャルギアを持たないため、曲がり角などを右左折しようとすると、前輪はまゆっくり回りたい、後輪は早く回りたいということで、ギクシャクとしたタイヤの動きと振動が発生してしまうのである。これを、タイトコーナーブレーキング現象というのだ。

ちなみにフルタイム4WDは前後輪間に差動吸収装置を持っているため、このような現象は起こらない。その代わり、フルタイム4WDは1輪でも空転してしまうと、全輪が止まってしまうという弱点があるため、前後輪間にディファレンシャルギアにビスカスカップリングなどの差動制限装置を付けているクルマもある。

4WDを選択するのはどんな場面?

この厄介な現象が煩わしいので、パートタイム4WDは2WDへの切り替えができるということもあるのだが、ではどうやって4WDで走ればいいのか?と思うだろう。実はこの現象は、乾燥した舗装路でしか基本的には起こらない。オフロードでも実際は発生しているのだが、タイヤが適度に滑ることで上手く力が逃げているのであまり気にならないだけだ(フルステアで曲がろうとした時は別だが)。それに悪路では、直結状態だからこそ3輪以上のタイヤに駆動力が伝わり、優れた走破性が発揮できるのだ。

絶対に覚えておいていただきたいのは、「パートタイム4WDでは、乾燥した舗装路では四輪駆動にしない」ということ。タイトコーナーブレーキング現象のために、駆動系に大きなダメージを与えることになる。また、悪条件が重なってこの現象が起きると、横転する場合があるので注意したい。

パートタイム4WD車で舗装路を走行する際は、四輪駆動にしないように気を付けたい。

意外と認知されていないのだが、2WD↔4WDの切り替えは走行中に可能だ。2WDと4WDの切り替え歯車は等速ジョイントなので、 100km/h以下であれば、レバーを前後するだけで切り替えられる。例えば、高速などを走行中に、急に豪雨や吹雪に見舞われるというシーンに出くわす。こんな時は少しだけ速度を落として、4Hにシフトしよう。安定した走りになるはずだ。ちなみに、走りながらだと4Lには入れられない。その話は後ほど。

駆動力をさらに高められる副変速機

では、今度は副変速機についてお話したい。トランスファーレバーに4Hと4Lと記されているが、これは「4WD High」と「4WD Low」の略。カタログの変速比/トランスファーの項目をご参照いただきたいのだが、高速比というのと低速比というのがあると思う。ジムニーJB64の場合は、高速比:1.320、低速比:2.643に設定されている。周知の通り、4Lの方がローギアーということになる。

ジムニーの変速比。左側が5MT車、右側が4AT車だ。

これがどういう役割なのかを知るには、自転車の変速ギアを思い出すといい。ロードスポーツやMTBなどの自転車になると、後輪軸上のギアに加えて、ペダルの横にもギアが付いている。後輪軸上のギアはクルマでいうところの「トランスミッション」。ペダル横のギアは「副変速機」に相当する。漕いでいて、なんだか力が余ってしまっていると感じたら、後輪軸ギアを変えていくと思うが、さらにスピードを出したいとか、坂道でラクに走りたいという場合は、ペダル横のギアを変速すると思う。

パートタイム4WDの副変速機も、基本は一緒だ。オフロードの凹凸がハード過ぎてゆっくりと走りたいとか、砂地走行でもっと駆動力が欲しい、自車よりも大きなクルマを牽引するので力が欲しい時など、4Lに入れてエンジンから駆動力をさらに有効に大きな力に変えて、駆動力・牽引力を高めることができるのである。

数年前に東日本が大雪に見舞われた際、山道で小さなジムニーが大きな10tトラックを牽引している動画が話題を呼んだ。たった660ccしかなくても、4Lを使えば大きなトラックをスタックから脱出させることができるのである。まあ、ビギナーがいきなりトライするのは止めた方がいいが...。

また、荒れた悪路を走る場合は、4Lに入れることで駆動系のメカニズムをダメージから守ることもできる。砂地や泥濘路、岩場などを4Hのままで走り続けてしまうと、クラッチやATに悪影響を与えてしまうことがあるのだ。

「4H」と「4L」はどうやって使い分ける?

ジムニーやジムニーシエラの取り扱い説明書を見ると、4Hと4Lに適した路面の解説が少々曖昧だ。 4Hは「悪路、砂地、積雪路など滑りやすい路面」に適していると書かれている。一方の4Lは「急な坂道、砂地、ぬかるみなど特に大きな駆動力を必要とする時」となっている。

ジムニーの取扱説明書より。

この曖昧な表現ゆえに、4Lに入れたことのないオフロード4WDオーナーが多いのだと思う。概念としては簡単だ。どんな路面でもタイヤのトレッドが路面に埋まらない場合は4H、埋まってしまったら4Lに入れればいい。圧雪路や凍結路、浅い砂利道、固い砂地などはすべて4Hで走れる。深雪(新雪)路、大きな石が転がるダート、柔らかい砂地、深い泥濘地、岩場、凍結した坂道は4Lだ。

大きな石が転がっているような場面では「4L」を選択したい。

ただし、4Lは大きな駆動力を発揮するため、柔らかい砂地や深雪ではかえってタイヤが路面に潜ってしまうことがある。ここは4Hの方がいい...と判断するのは経験値なので、徐々に積み重ねていくしかない。

よく整備されたフラットダートでも、4Lに入れた方が走りやすい場合がある。ジムニー(JB64)の場合は、現行型になってからさらに3速と4速のギアレシオが離れてしまい、4Hで運転していると「3速では低いし、4速では駆動トルクが足りない」なんてことがよくある。そのため、やたらとシフトチェンジを行わなければならない。かえって4Lに入れて、3速固定で流して走る方が楽だったりするのだ。これも経験なので、とにかく積極的に4Lを使っていただきたい。

ちなみに4Lにシフトする場合だが、今度は完全に停車しなければギア比が違うので入れられない。MTもATもトランスミッションをN(ニュートラル)に入れて、MTの場合はクラッチをしっかりと踏んでレバーを引こう。インパネのインジケーターが付けば、4Lに入っている。

燃費向上に貢献するオートフリーハブ機構

最後になってしまったが、「オートフリーハブ」というメカについてもお話しておきたい。ジムニーなどのパートタイム4WDにほぼ付いている機構なのだが、FRで走る時に前輪をドライブシャフトなどの駆動系から切り離して抵抗を抑え、少しでも燃費を良くするためのものだ。前輪のホイールのセンター部にある。

ジムニーの場合は、4Hに入れた時にエンジンの負圧を使ってフリーハブをロックさせて、前輪とドライブシャフトを繋ぐ。4WDにした時に「カチッ」という音が聞こえてくるはずだ。2WDに戻した時もまた、同じ音がして解除される。




ジムニーに限らず、このオートフリーハブは意外とくせ者だ。というのも、こうした自動でロック・解除できるフリーハブは、前輪に強い衝撃が加わったり、前進と後退を短時間に繰り返すと外れてしまうのである。つまりトランスファーを4WDに入れていても、前輪はフリー状態だから2WDになっているのだ。困るのは、こうしたことが起きるのは大抵ハードなオフロードにおいてが多い。しかし、外れてしまったら慌てず、一度2WDに戻して、再度4WDに入れればフリーハブはロックされる。




オフロードのエキスパートはこういう状態を嫌って、手動でロック・解除を行う機械式フリーハブにすることが多い。

ジムニーの4WDシステムを使いこなせば、このような悪路も怖くはない。

というわけで、今回はジムニーの4WDシステムの基本をお話してきた。オフロードを走るには独特の運転技術を覚える必要があるが、まずは河原でもどこでもいいので4Lまでシフトしてみてほしい。愛車の凄さを垣間見ることができるだろう。そして、できれば運転を覚えて本格的なクロスカントリードライブを体験して欲しい。その時にこそ、ジムニーがなぜこんなデザインとメカニズムを持っているのかがよく理解できるはずだ。

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