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ちょっとそこまで、の感覚で悪路へ誘う。KTM・390 ADVENTUREは、なかなか楽しい相棒だ。


KTMは2020年に入って2019年のEICMA(ミラノショー)で公開した話題の新型4機種を含む8モデルを新発売。中でも親しみやすい一台として注目の390 ADVENTUREは、凸凹道が無性に恋しくなるモデルだ。




REPORT⚫️近田 茂(CHIKATA Shigeru)


PHOTO⚫️山田俊輔(YAMADA Shunsuke)


取材協力⚫️ KTM Japan 株式会社

KTM・390 ADVENTURE.......759,000円

オレンジ

ホワイト

 見るからにオフロードシーンへと誘われるKTMの人気モデル。790 ADVENTUREのDNAをフィードバックし開発されている。背景にはパリダカールラリー等で名声を培ってきた、いかにもオフ系に強いKTMブランドらしいカテゴリーとして侮れない信頼性と魅力がある。


 ベースとなったのはネイキッド390 DUKEだがオフロード系を標榜する冒険ツアラーとしてのキャラクターとパフォーマンスを備えた仕上がりが新鮮。しかも価格は790の半額以下になる759,000円。単気筒エンジンを搭載したリーズナブルな設定は大いに注目できるのである。


 


 DUKEのスチール製トレリスフレームはオレンジにホワイトのリヤフレームをマッチ。前後17インチの足元にも鮮やかなオレンジカラーがあしらわれていたが、ADVENTUREは車体まわりをブラックアウト。フロント19、リヤ17インチサイズのアルミキャストホイールには、韓国産コンチネンタルのTKC 70を履く。


 タンクまでのしかかるロングシートと後方まで伸ばされたフェンダー。ヘッドランプやハンドル周辺デザインも変更。アンダーガードの装備と管長を長くレイアウトした排気系もDUKEとは異なっている。


 


 車体サイズ的にはホンダCRF250 RALLYに近いが、フロント21、リヤ18インチのスポークホイールを履くCRFと比較すると、それよりも数値的には若干コンパクト。シートも高過ぎるレベルではない。車両重量は約160kgで、この手のミドルクラスとしてはボリューム的にも適度で親しみやすいレベルにある。         


 搭載エンジンは基本的にDUKEと共通。ショートストロークタイプの373.2cc。電子制御スロットルが採用されたBOSCH製燃料噴射式DOHC水冷4バルブの単気筒は9,000rpmで43psの最高出力を発揮。ミッションやクラッチ、そしてギヤレシオも共通である。


 各種電子制御系には最先端技術が投入されており、車両状況に応じて緻密に制御されるトラクションコントロールを始め、ブレーキ系ではコーナリングABSも搭載。ABSはオフロード走行用に任意OFFすることも可能。その他スマホとの連携機能も一部オプション設定ながら充実している。


 そんな最新の装備内容を知れば知るほど、この価格にはお買い得さを感じるのである。

ツアラーとして程良い性能が魅力的

 試乗車に跨がると、車体は立派なサイズ感があり、遠くまで誘われるツアラーとしての資質を直感する。それでも手強さを感じさせないのは、約160kgに仕上げられた重過ぎない車両重量のおかげ。足つき性も両足が爪先立ちにはなるが、指の付け根で地面をしっかりと捉えることができたので、車体を支える上で不安は感じられなかった。


 サイズ的には堂々たる雰囲気の乗り味である。目線位置が高く前方の見晴らしが良い。もちろん本格的な大排気量アドベンチャー系ほどでは無いのだが、筆者の体格、体力も含めて実用上は絶妙のサイズ感が魅力的。同社ではTRAVELのカテゴリーに8機種のバリエーションが揃えられているがその中でも最も親しみやすく多くのユーザーにお勧めできる1台なのである。




 DUKEでも好評のシングルエンジンは、ショートストロークらしい軽快な噴き上がりを発揮する。その中でも柔軟な出力特性に磨きが掛けられた印象で、中低速域でのネバリ強さと高回転域まで頼れる高性能ぶりは、なかなか心地良い。


 レブカウンターのレッドゾーンは10,000rpm からでスロットルを全開にすればしっかりとその領域まで伸び上がるが、9,000rpmを超える当たりからはメカノイズがややうるさくなるので、通常は元気良く引っ張ってもせいぜい7~8,000rpm当たり。


 試乗車のレブカウンターは6,500rpmを超えると表示が点滅してシフトアップを促す設定になっていた。もちろんその回転数は任意設定でき、点滅に色の変化も加わる。またOFFする事も可能。


 日本の公道を普通に走る限りは、だいたい4,000rpm前後あたりの使用で十分事足りてしまうことも事実。しかもその付近で流す走りは実に快適なものだった。ギヤ比のマッチングも適切でダートでの極低速走行でもギクシャクしないネバリ強さを発揮。どんな場面にも対応できる使い勝手の良い柔軟性が際立ちとても扱いやすい。


 ちなみにアイドリングは約1,700rpm。ローギヤで5,000rpm回した時の速度は29km/h。6速トップギヤで100km/hクルージング時のエンジン回転数は5,500rpmだった。


 走り始めたその瞬間から制御しやすく、自分の手中に納まる程良いエンジン・パフォーマンスはスロットルレスポンスが生き生きと元気が良いので、とてもアグレッシブに感じられ、ライダーの気持ちも自然と活力が漲ってくる。


 さらに言うとフレーム剛性と前後サスペンションのセッティングも、例えばダートでジャンプするようなギャップに遭遇しても安心して飛べるだけのシッカリ感が備わっており、どんな場面でも落ち着いた気持ちで走れるのである。ちなみにサスペンション・ストロークは前が170mm、後が177mmある。本格的にオフロードを目指すわけではないので、これで十分。


 高速や峠道での操縦性は適度に落ち着きのある穏やかな挙動に終始する。ロードスポーツ然とした素直な走行性能が基本ではあるが、ホイールサイズや装着タイヤはダートもこなせる万能ぶりもカバーし、冒険心を駆り立てられるツアラーとしての魅力が感じられたのである。




 ハンドルやレバー、ブレーキやシフトレバーに至る迄、ライディングポジションや操作系のアジャスト機能が充実しているところも見逃せないポイント。車両価格がリーズナブルなだけに、オプションのスクリーンやシート。サイドバッグ等で好みに応じた充実を図る上でも楽しみやすい。


 しかも驚かされたのは150kmほどの撮影試乗で市街地から高速、峠道やプチ林道も通ったトータル実用燃費率で、なんと39.7km/Lを記録。お財布に優しい万能ミドルツアラーとしての仕上がりは魅力的である。

足つき性チェック(身長168cm)

シート高は855mmと少々高め。写真の通り両足の踵は地面から大きく浮いた状態になる。車体サイズも大きく立派な印象を受けるが、車体が軽く感じられるので、それを支える事に不安は感じられなかった。

ディテール解説

KTMブランドに統一されたアイデンティティ・デザインを主張するヘッドランプは、LED方式。ミニスクリーンはセット位置(高さ)を上下2段に変えることができる。オプションでロングスクリーンもある。

フロントのシングルディスクローターはφ320mm。リーディングアクスル方式の倒立式フロントフォークはφ43mm。ボトムにラジアルマウントされたBYBREブランドの油圧キャリパーは対向4ピストンタイプだ。

バランサー内蔵の水冷DOHC4バルブ単気筒エンジンは吹き上がりも軽快。快活なパフォーマンスを発揮する。

右サイドに出された軽量アルミマフラーは楕円断面形状の箱型タイプ。細身なデザインに仕上げられている。

アジャスタブルなWP製APEXモノショックを搭載。上側でスプリングのプリロードが、下の右側で伸び側のダンパー調節ができる。

φ230mmの6点リジッドマウント・シングルディスクローターには、1ピストンのピンスライド式油圧キャリパーを採用。スポーク部の細いキャストホイール・デザインも印象的だ。

ナックルガードも備えたハンドルまわり。アルミバーはテーパードタイプ。ライダーの体格や好みに合うよう、取り付け位置が可変可能な構造になっている。。

ハンドル左側にある4個セットのスイッチはメニューボタン。右はセット、左はリターン。あとは上下のボタンを駆使してディスプレイを動かす事で様々な操作ができる。
右側のハンドルスイッチは至ってシンプル。赤いスイッチがエンジン停止用のキルスイッチ。下の黒いのが始動用のスタータースイッチだ。
メーターは最先端フルカラーTFT5インチディスプレーを採用。メニュースイッチを駆使して多彩な情報を知る事ができる他、各種設定選択ができる。

前後セパレートタイプのクッションを持つダブルシート。好みに対応するオプションのシートも用意されている。
シート下には車載工具も搭載。キーの解錠操作で後部クッションを外すと、次に前クッションも取り外すことができる。
イグニッションキーの直ぐ上にはアクセサリー用12V10A 電源ソケットが標準装備されている。
フロントフォークのトップエンドにあるダイヤルを回すとダンパーの調節ができる。右が伸び側で左が圧側。共に標準設定は、時計回りにねじ込んでから反時計回りに15クリック戻す。
シッカリしたグラブバーを備えたテールまわり。LEDランプを採用したコンパクトなデザインでフィニッシュ。

全体的に立派なサイズ感を覚えるが、乗車感としては大き過ぎず馴染みやすいものだった。

◼️主要諸元◼️

エンジン形式:水冷4ストロークDOHC 4バルブ単気筒


排気量:373.2cm³


ボア×ストローク:89×60mm


最高出力:32kW(44ps)/9,000rpm


最大トルク:37Nm/7,000rpm


圧縮比:12.6対1


潤滑方式:トロコイドポンプ2台による圧送式


燃料吸気方式:Bosch製EFI(スロットルボディφ46mm)


始動方式:セルスターター


バッテリー:12V 8Ah




トランスミッション:6速


1速:2,667(12:32)


2速:1,857(14:26)


3速:1,421(19:27)


4速:1,143(21:24)


5速:0,957(23:22)


6速:0,840(25:21)


1次減速比:2,667(30:80)


2次減速比:3,000(15:45)


クラッチ:PASC™ アンチホッピングクラッチ、機械操作式


点火方式:Bosch製EMSライドバイワイヤー with RBW


燃料消費率:3.46 L/100km(28.9km/L)




フレーム:スチール製トレリスフレーム、パウダーコート塗装


ハンドルバー:アルミニュウム・テーパード(φ22~26mm)


フロントサスペンション:WP APEX φ43mm


リアサスペンション:WP APEX Monoshock


サスペンションストローク(前/後):170mm/177mm


ブレーキ(前/後):4ピストンラジアルマウント固定式キャリパー/1ピストンフローティングキャリパー


ブレーキディスク径(前/後):φ320mm/230mm


ABS:Bosch 9.1MP Two Channel ABS(incl.Cornering-ABS and offroad mode)


タイヤ(前/後):100/90-19/130/80-17


チェーン:520 X-Ring


キャスター:63.5 °


トレール:98mm


ホイールベース:1,430mm


最低地上高:200mm


シート高:855mm


燃料タンク容量:(約)14.5L(予備3.5L)


乾燥重量:158kg




生産国:インド

ライダープロフィール

元モト・ライダー誌の創刊スタッフ編集部員を経てフリーランスに。約36年の時を経てモーターファン バイクスのライターへ。常にオーナー気分になり、じっくりと乗り込んだ上での記事作成に努めている。

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