個性的なルックスとi-Cockpit、ドイツ車とも日本車ともまったく違う乗り味。プジョーを選ぶ理由はそこにある。「合う・合わない」がくっきり分かれる最新プジョーの最上級車、508。ワゴン+2.0ℓディーゼルエンジンモデルにモータリングライター、世良耕太が試乗した。
TEXT &PHOTO◎世良耕太(SERA Kota)
好き嫌いはあるだろうが、筆者はとっても「好き」
3本爪のひっかき傷グラフィックはリヤコンビネーションランプにも反復されている。好き嫌いはあるだろうが、筆者はとっても「好き」である。運転中に前後のライティンググラフィックが眺められないのはなんとも残念で、信号待ちの際に前後の車両に映り込む光を眺めて楽しんだ。
最近のプジョーは、個性的であることに重きを置いているように感じる。前後ドアには窓枠がない(プジョーは「フレームレス」と表現している)が、これも個性的であろうと努めた策のひとつだろう。かつてのクルマのように、フレームレスだからといってドア開閉時にブルブル、ワナワナしたりはしない。
フレームレスのドアにしたのは「ローボディ」に貢献するためでもあるというが、乗り込んでみれば確かに、天井は低い気がする。ただし、身長184cmの筆者でも実用上の不都合は感じなかった。試乗車はパッケージオプション(66万2000円)装着車で、それゆえにパノラミックサンルーフを装備している。ルーフ中央部には、サンルーフ収納のための張り出しがある。後席に着座した際に頭部と干渉する位置ではないが、後席は前席よりも着座位置が高いこともあり、圧迫感は増す。
しかし、不快ではない。快適性は損なわれていない、と言い直したほうがいいだろうか。前席に着座した際にもあてはまることだが、ものすごく静かで、乗り心地がいい。
運転席に戻ろう。最近のプジョーにおなじみの、i-Cockpitが否が応でも目に飛び込んでくる。小径ステアリングの上からメーターを覗き込むスタイルだ。このスタイルの扱いが慣れてきたということなのだろうか、以前308に乗った際はなじまないまま試乗を終えたが、今回は「なじんだ」というより、最初から不都合を感じなかった。着座した際の目の位置とメータークラスター、ステアリングホイールの位置関係を改善することで、508はほどよいバランスを見いだしたということだろうか。
操作系で気になることがあるとすれば、ペダルの位置である。ホイールハウスの張り出しを避けるためか、アクセルペダルとブレーキペダルが左側に寄っているよう。それとも、アクセルペダルとブレーキペダルが近いのか、ブレーキペダルと一緒にアクセルペダルを踏みそうになる。実際、軽く触れてしまうことが何度かあり、注意が必要だった。
シートの柄(フルパッケージオプションに含まれるナッパレザーシート)も個性的だ。尻から腰、そして背中を深く包み込むような設計が長らくフランス車の伝統として語られてきた感があるが、508 SWのシートにステレオタイプなフランス車の伝統はあてはまらない。ナッパレザーシートは飛行場の搭乗ゲート前にあるベンチのように平板で張りが強く、よそよそしい(左右ともに電動調整式)。
しかし、クルマが動き始めると、印象は一変する。目の前で赤ん坊を放り投げられたら、腕と腰と脚の関節や筋肉をフル動員し、衝撃を与えないようにやさしく受け止めようとするだろう。508 SWの脚はまさしくそれで、たくましくもしなやかな腕で受け止められたかのような、心地いい着地感がある。ライト類のグラフィックと同様に508の個性のひとつだが、気を引くのが狙いではなく、むしろ哲学だろう。「いいクルマとは何?」という問いに対する、プジョーなりの回答と理解した。
装備表の「脚周り」の項には「アクティブサスペンション」と記してあるが、完全油圧制御でフラットライドを目指すシステムではなく、電子制御でダンパーの減衰力を可変制御するシステムである。詳細は不明だが、センサーの情報から「これから車体が動く」と検出し、先回りして減衰力を可変する(オイルの流路を広げたり、狭くしたりする)仕組みだろう。センターコンソール前方にある「ドライブモード」のスイッチを「エコ」または「コンフォート」に切り換えると、アクティブサスペンション(その実、電子制御減衰力可変ダンパー)はソフトに切り替わり、「Sport」に切り換えると、スポーツに切り替わる。
アクセルレスポンスやトランスミッション、それにパワーステアリングが「スポーツ制御」に切り替わる「Sport」は実にワインディングロード向きで、「さっきまで大人しかったのに、こんなワイルドな一面も持ち合わせているのか」と、新たな魅力を発見してお得な気分になる。変速時はシフトショックを明確に感じるが、変速時間を短縮する意図での採用ではなく、スポーティな味つけを体感させるための「演出?」と疑いたくなる(確かに、気分は盛り上がる)。
後席に乗った際に「ものすごく静か」であることは触れたが、前席でも同様だ。低速走行時も、高速走行時も、印象は変わらない。風切り音やロードノイズの遮断も行き届いている。そもそも、2.0ℓ直4ディーゼルエンジンの回転数が2000rpmを超えるシーンはほとんどない。低回転域から力があるので、上の回転まで引っ張る意味はあまりない(ただし、引っ張れば猛然とダッシュする)。だが、エンジンを掛けたまま外に出てみると、508は遮音が徹底していることに気づく。なかなか騒々しい。
プジョー508 SWの小田厚燃費は19.6km/ℓだった。過去に『手帖』で取り上げたディーゼル車の記録をいくつか引っ張り出してみると、次のようになる。
M・ベンツ220d AVANTGARDE Sports(2.0ℓ直4、1800kg) 20.0km/ℓ
マツダ・CX-8(2.2ℓ直4、1830kg) 19.5km/ℓ
アルファロメオ・ステルヴィオQ4(2.2ℓ直4、1820kg) 19.0km/ℓ
三菱エクリプスクロスG Plus Package(2.2ℓ直4、1680kg) 20.0km/ℓ
プジョー308 Allure BlueHDi(1.5ℓ直4、1330kg) 27.7km/ℓ
308の好燃費ぶりが印象に残っていたので「こんなもの?」という印象を抱くに至ったのだが、508の車格を考えれば妥当であることがわかる。508は8速AT(アイシン・エィ・ダブリュ製)を搭載しているが、小田厚で左側車線を走っている状況ではほぼ6速で、エンジン回転数は1500rpm以下だった。厚木ICで東名高速・上り(制限速度100km/h)に入り、中央車線を基本に前に詰まったら追い越し車線に出る走り方に転じると、ATは7速〜8速がメインになる。
それでも、ほとんどの状況でエンジン回転数は1500rpm以下だった。東京料金所でメーターを確認したら、平均燃費は19.6 km/ℓで変わりはなかった。ペースを上げても燃費が悪くならないのはありがたい。静かで、安定しており、移動は快適である。FOCALのオーディオは耳あたりが良く、控え目なボリュームでも音楽がしっかり楽しめる。ボリュームを上げると迫力と臨場感が増すのみで、わずらわしくならないのがいい。
顔にも尻にも特徴的な爪痕を残すプジョー508 SW GT BlueHDiは、一見クールで、その実ホット。そして、とことん乗員にやさしい。
プジョー508SW GT BlueHDi
全長×全幅×全高:4790mm×1860mm×1420mm
ホイールベース:2800mm
車重:1670kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式 Rマルチリンク式
エンジン形式:直列4気筒DOHCディーゼルターボ
エンジン型式:BLUE HDi
排気量:1997cc
ボア×ストローク:85.0mm×88.0mm
圧縮比:16.7
最高出力:177ps(130kW)/3750rpm
最大トルク:400Nm/2000rpm
過給機:ターボチャージャー
使用燃料:軽油
燃料タンク容量:55ℓ
WLTCモード燃費:16.9km/ℓ
市街地モード 12.9km/ℓ
郊外モード 16.4km/ℓ
高速道路モード 20.1km/ℓ
車両価格○526万6000円