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1960年代末のライダーの気持ちになって、ホンダCB750フォアに接してみた。|①の2


1969年のデビューと同時に、世界中で爆発的なヒットモデルとなり、2輪市場の勢力図を塗り替えたCB750フォア。もっとも当時は一部のライダーから、“バイクらしくない”、“エンジンの回り方がモーターみたいで味気ない”などという異論も挙がったらしい。その評価をどう感じるかはさておき、量産初の並列4気筒を搭載するCB750フォアが、既存の2気筒車では絶対に実現できない、圧倒的なパワフルさとスムーズさを備えていたのは事実だ。




REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)


PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

 世の中には単気筒好きや2気筒好きが大勢いるし、3気筒や6気筒に魅力を感じる人、いやいや、2ストこそが最高だと感じる人もいる。とはいえ、1960年代末のライダーの気持ちになって、CB750フォアに接してみたら……。誰だって圧倒的なスムーズさとパワフルさに驚くはずだ。従来の大排気量車の主役だったツイン勢は、高回転域で強烈な振動が発生するのが普通で(BMWのフラットツインとモトグッツィV7系は除く)、トップスピードはどう頑張っても180km/h前後だったというのに、並列4気筒を搭載するCB750フォアは、最高出力発生回転数の8000rpmまでスムーズかつ軽やかに回り、条件さえ整えば、200km/hのトップスピードをマークできたのだから。1970年代以前のホンダは、多くのバイクの車名に“ドリーム”という言葉を使い、CB750フォアの正式名称にもその言葉が含まれていたのだが、ライダーに未知の世界を見せてくれた量産初の並列4気筒車は、本当にドリームなバイクだったのである。




 スムーズさとパワフルさに加えて、当時のライダーがCB750フォアで驚いたのは排気音だろう。既存の大排気量ツインの排気音が、ドコドコやズバババッ、シュタタタッだったのに対して、CB750フォアは1960年代の世界GPで大活躍したRCレーサーを彷彿とさせる、ズヴァッ‼である。酸いも甘いも知り尽くしたベテランはさておき、血気盛んな若者なら、十中八九以上の確率でこの豪快な排気音にシビれたに違いない。ただしCB750フォアの排気音は、仕様変更を重ねるごとに控え目になっていくのだが、最終型のK7でも本質は不変だったのだ。

 もっとも車両をトータルで見た場合の動力性能、ハンドリングに関しては、CB750フォアの評価は必ずしも高くはなかった。具体的には、それ以前の大排気量車市場をリードしていたブリティッシュインや欧州勢のほうが、軽快感や旋回性では上ではないか、という意見が存在したのだ。事実、1970年代の欧米で開催されたプロダクションレースでは、BMWやモトグッツィ、ドゥカティ、ラベルダといった2気筒勢が、パワーに勝る日本製並列4気筒車と互角以上の戦いをしていたのである。ただし、1990年代になってから初めてCB750フォアを体感した僕は、このバイクに重いとか曲がらないなどという印象を持ったことはない。もちろん、エンジンが重くて大きい分、前述した2気筒勢ほど軽快ではないけれど、全高を抑えるSOHCヘッドとドライサンプの潤滑方式、全幅を抑制するロングストローク指向のボア×ストロークのおかげなのか、気筒数が多いことのマイナス要素はそんなに感じられない。ではどうして、現役時代のCB750フォアのハンドリングの評価があまり高くなかったと言うと……。




 個人的にはタイヤだと思う。と言っても、ホンダは量産初の並列4気筒車を世に送り出すにあたって、タイヤを専用設計していたのだ。とはいえ、当時の最重要課題だった最高速域の直進安定性を重視した結果として、CB750フォアの純正タイヤは柔軟性がいまひとつだったのではないだろうか。ちなみに最近のCB750フォアの定番タイヤは、ダンロップF11/K87、TT100GP、ブリヂストンBT-45などで、少なくともその3種を履いていれば、ハンドリングに不満を感じることはないはずだ。

 さて、冒頭では1960年代末のライダーの気持ちになってと記したが、現代の感覚でCB750フォアに接した場合、誰もが驚きそうなのは、今から半世紀前以上に生まれたバイクとは思えない、乗りやすさだろう。とはいえ、そもそもの話をするなら、世間の一部でまかり通っている旧車=乗りづらいという説は間違いで、たいていの旧車はきちんとした整備が行われていれば、現代の路上を過不足なく走れるのだ。とはいえ、1970年前後の基準で考えると、やっぱりCB750フォアの乗りやすさは群を抜いていたと思う。僕自身がこのバイクの試乗でいつも感心するのは、クラッチの軽さとシフトタッチの確実さだが、親しみやすいライディングポジションや、スロットル操作に対するエンジンの反応のよさ、十分以上の安定性を備えた車体なども、乗りやすさに貢献する要素。現行モデルのCB1100やCB1300SFのオーナーが乗り換えたとしても、利きがいまひとつのブレーキを除けば、ほぼ違和感ナシで走れるんじゃないかと思えるほど、CB750フォアは乗りやすいバイクだったのである。



ライディングポジションは、いわゆる殿様的。大アップタイプのハンドルに手を伸ばすと、背筋が自然に真っ直ぐ伸びる。ステップ位置は現代の基準で考えるとかなり前方なので、ヒザの曲がりは緩やか。なお初代K0は猛烈に足つき性が悪かったものの、サイドカバー/オイルタンク形状を刷新したK1で、その問題は解消された。

メッキ仕上げのハンドルバーは、当時の大排気量車の定番だった大アップタイプ。スロットルワイヤが強制開閉式になったのは1970年のK1から。トップブリッジ上の警告灯は、K0/K1ではメーター内に設置されていた。

日本電装のメーターはシンプルなセパレート式。スピードメーターの80km/h以上の目盛りが赤になっているのは、国内仕様ならではの特徴だ。タコメーターのレッドゾーンは、K0:8500rpm、K1以降:8000rpm~。

C70/CB92のドクロタンクやCB450K0のドクロタンクなど、1960年代中盤以前のホンダ車は斬新な形状のガソリンタンクを採用することが多かったものの、CB750フォアは北米市場の定番だったティアドロップ型を採用。

ダブルシートは初代K0の時点で数回の仕様変更が行われ、以後に登場したK1、K2、K4でも改良を実施。K0/K1では右側のみが標準装備だったアシストグリップが、左右一体型のグラブバーに変更されたのはK2から。

右側サイドカバー内にはドライサンプ用のオイルタンクが収まる。現行車で同様の構成を採用するのはハーレーくらいだが、かつてのブリティシュツイン勢はほとんどがドライサンプで、カワサキW1シリーズも同様だった。

1960年代の世界GPを席捲したRCレーサーではDOHCヘッドを標準としたホンダだが、CB750フォアは全高を抑えるため、SOHCヘッドを採用。キックアームの折りたたみ方には、左右幅に対するこだわりが感じられる。

ドライサンプの潤滑方式は全高、61×63mmというボア×ストロークは左右幅を抑えることを重視して選択。当初のクランクケースは砂型鋳造で製作されていたが、量産性を考慮した結果、K0の後期から金型鋳造に変更。

ピストンバルブ式のキャブレターはケーヒンPW28。K0は1本のワイヤが途中で4本に分岐するディバイダー式だったものの、発売後に“操作が重い”という意見が数多く寄せられたため、K1からはリンク式に刷新された。

フロントブレーキはホンダ初にして量産車初の油圧式ディスク。当時の2輪業界では、絶対的な制動力はドラムのほうが有利と言われていたのだが、新しいモノ好きの本田宗一郎の意見を取り入れる形で、ディスクの採用が決定した。

ロッド作動のリアブレーキは、CB450と同じφ180mmドラム。ホイールサイズは以後に登場する日本製大排気量車のほとんどが追随した、フロント:1.85×19/リア:2.15×18。スイングアームは当時としては珍しい角型だった。

後に登場したカワサキZ1/2やスズキGS750のドライブチェーンが630だったのに対して、CB750フォアは530を採用。マフラーは大別すると、極初期の無番、K0/K1のHM300、消音対策が施されたHM341の3種が存在。

エンジン:空冷4サイクル並列4気筒 SOHC2バルブ


ボア×ストローク:61×63mm


総排気量:736cc


圧縮比:9.0:1


燃料供給装置:ケーヒンPW28 


点火方式:バッテリー 


始動方式:セル&キック併用式 




最高出力:67ps/8000rpm


最大トルク:6.1kg-m/7000rpm


変速機:5段リターン式 


クラッチ:湿式多板コイルスプリング式・ワイヤ作動




全長×全幅×全高:2160×885×1155mm


乾燥重量218kg


ホイールベース:1455mm


キャスター:27°


トレール:85mm 


フロントタイヤ: 3.25-19


リアタイヤ:4.00-18 乾燥重量218kg


ガソリンタンク容量:19L


オイルタンク容量:3.5L

ライター:中村友彦

これまでに10台以上のCB750フォアを試乗している、2輪雑誌業界23年目のフリーランス。若い頃から旧車は大好きで、現在は1974年型モトグッツィV850GTと1976年型ノートンコマンド850を愛用。かつては1974年型トライアンフT140ボンネビルや、1979年型カワサキZ1000MkⅡなどを所有していた。

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