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「一発タイムはDCT、ロングランならMT」ニュル最速男、ロラン・ウルゴンが明かすルノー・メガーヌR.S.トロフィーのすべて


驚異の走りと快適な日常遣い。この二律背反の両立がR.S.モデルの真髄といえる。サーキット志向を強めたトロフィーや、最強版のRでも、そこに目をつぶりはしなかった。その開発の過程を、メガーヌR.S.シリーズの味付けを担うトップガン、ロラン・ウルゴン氏に語ってもらった。




TEXT : 佐野弘宗 (SANO Hiromune)


PHOTO : 花村英典 (HANAMURA Hidenori) / Renault

3世代続くメガーヌR.S.のうち、先代と現行の2世代の開発に携わったウルゴン氏。その目利きもさることながら、ドライバーとしても、ニュルブルクリンクでのレコードラップを塗り替え続けている凄腕だ。

トロフィーの要件も満たしたシャシー・カップの完成度

〈ロラン・ウルゴン〉ルノー・スポールの開発・車両評価を手がけるテストドライバー。ニュルブルクリンクでのタイムアタックで、たびたび量販FF車の世界最高記録を更新しているトップガンであり、ワールドシリーズ・バイ・ルノーのレースディレクションや、クリオ・カップのセーフティカードライバーなど、モータースポーツ分野でも活躍する。

 ルノー・スポール(以下、RS)でテストドライバーをつとめるロラン・ウルゴンは、先代から2世代にわたるメガーヌRSの開発(と、同車によるニュルブルクリンクでのすべてタイムアタック)を担当してきた。メガーヌRSに新たに追加されたトロフィーと、聖地ニュルブルクリンク北コースで量販FF最速の称号を奪還した限定モデルのトロフィーRは、ともに彼の仕事である。




 2019年11月下旬に行った今回の取材は、タイムアタックを兼ねたトロフィーRの鈴鹿テストのために来日したタイミングだった。彼はテストやプロモーションなどで頻繁に来日しており、19年は日本で限定販売(本国ではカタログモデルだが)されたメガーヌRSカップの発売に合わせた2月に続き、今回が2度目の来日だった。




「トロフィーはメガーヌRSでも最も多用途なスポーツカーです。シャシー・カップをベースとしながら専用の300㎰エンジンを搭載して、よりサーキット向けの位置づけですが、公道での乗り心地にも配慮しています。現在のRSにおけるフラッグシップということになります」。




 弟分のルーテシアRSトロフィーは専用サスペンションを与えられていたが、今回のトロフィーのシャシーはウルゴンもいうようにシャシー・カップと基本的に共通だという。そこにバイマテリアル・フロントブレーキや19インチタイヤなど本国ではオプションの装備を標準化した点がトロフィーの特徴なのだが、結果的には先に日本で限定販売されたカップとほぼ同じ内容でもある。




 「トロフィーのシャシー内容を最初から決めていたわけではありません。現行メガーヌRSではまずシャシー・スポール(=日本での標準仕様)とカップを明確に差別化することを意図して開発しました。




 その結果として、今のシャシー・カップはサーキット走行でも十分使えるものになって、トロフィーでもエンジンとタイヤのグレードアップだけで対応できたと理解してください。その前のルーテシアRSではスポールとカップの差が小さかったので、トロフィー化にあたってチューニングの余地があったんです」

サーキット志向のマシンでも快適性を確保するのがRS流

 先ほどのウルゴンの言葉にもあるように、サーキット志向モデルであるトロフィーであっても、一般道での快適性に配慮するのがRSの流儀である。




「トロフィーRを例外として、メガーヌRSの開発では6〜7割の比率をオープンロードで行いました。細かく言うとスポールが7割、カップ/トロフィーが6割です。この比率は開発前の仕様書段階で基本的に決めます。いずれにしろ、日常域でも使えるスポーツカーが、RSのコンセプトですから」




 というわけでトロフィーのシャシーは、結果的にシャシー・カップのフルオプション仕様といえる内容になっている。だが、実際の走りに多大な影響を与える変更点も見られる。デュアルクラッチの6速EDCにもトルセンLSD(6速MTはカップでもトルセンLSDが標準装備)を備えるのが、トロフィーのドライブトレインの大きな特徴だ。




「サーキット走行が頻繁ではないと想定するシャシー・スポールでは、日常の使い勝手に優れるRSデフ(電子制御トルク配分システム)で十分と判断しました。ただ、出力が300㎰になり、サーキット志向を強めたトロフィーでは、やはりトルセンLSDは不可欠でした。




 そのトルセンLSDですが、MTとEDCでトルクバイアスレシオも微妙にちがいます。というのも、両者で最大トルクが異なりますし、また変速スピードも大幅に差があるからです。EDCはMTより20㎏ほど重いですが、最大トルクが20Nm大きく、トルセンLSDも専用セッティングにできたことで、サーキットでの純粋なパフォーマンスはEDCのほうが高いと言えます」




 ウルゴンには19年2月のカップ限定車の発売時にもインタビューしているが、そのときは「シャシー・カップではコースや状況によってMTとEDCの優劣は変わります」と語っていた。




「対するトロフィーはどのサーキットでもEDCのほうがラップタイムは速いです。ただ、同じコースでも周回を重ねるごとに20㎏の重量差が効いてきます。タイヤやブレーキへの負担はEDCのほうが大きいのは事実なので、周回数が増えるにつれて、MTとのタイム差が縮まり、周回数によっては最終的にMTが上回ることもあるでしょう。ただ、一発のラップタイムは変速スピードが速いEDCが明らかに上です」

街乗りやロングツーリングでは快適で、峠道やサーキットではめっぽう速いメガーヌR.S.だが、トロフィーはその延長線上で速さのレベルをさらに引き上げている。では、トロフィーRは?「工場出荷状態であれば、普通のトロフィーと大差ない乗り心地が確保されていますよ」。

走りを極めたRSモデルにはトップガンの意見が随所に

 ウルゴンが直接担当する開発分野はシャシー部分である。エンジンやその他の装備品の開発は別部隊が責任をもって行っている。




「例えばエンジンサウンドについても私に責任があるわけではありません。ただ、開発初期段階で実際にドライブするのはほぼ私だけ(笑)なので、当然ながら意見は聞かれます。今回は新しいアクティブバルブ付スポーツエキゾーストが装着されたので、どういう場面でどういう音がほしいのかは私も意見を出しました。最終的なサウンドマッピングは私も満足のいくもので、高速巡航ではほどほど静かで、本当に必要なときだけスポーツカーサウンドが楽しめるようになっています。




 アルカンタラを使ったステアリングホイールやレカロシートについても同様で、これらの部分は試作品もないデザイン段階から私も意見を出しています。ステアリングなら直径からグリップの素材、太さ、形状、握り心地、剛性にいたるまで細かく意見を出します。シートも同じで、私たち開発ドライバーの意見は実際にもかなり反映されています。




 こうした部分は私が最終的な決断を下すわけではないですが、どんな細かい改良についても、開発のすべてのマイルストーンごとに私も呼ばれて、意見を求められます」

ウルゴン氏の担当はシャシーだが、ほかの箇所についても意見を求められ、それが市販車に反映されることも少なくない。「初期段階でドライブするのはほぼ私だけなので(笑)」とおどけるが、開発陣からの厚い信頼ゆえのことだろう。

ニュル最速レコード奪取は至上命題ではなかった?

 繰り返しになるが、聖地において日本のホンダ・シビック・タイプRのタイムを更新してニュル最速の称号を奪還したトロフィーRの開発も、ウルゴンが担当した。その詳細な技術内容については別項にゆずるが、EDCや四輪操舵の4コントロールといった特徴的なメカニズムまで省略するという、壮絶かつ容赦ない軽量化が、トロフィーRではなによりも目を引く。




「トロフィーRの開発にあたって、目指す性能を達成するシミュレーションをしたところ、130㎏の軽量化が必要と判明しました。それがすべての出発点でした。130㎏という数字を見て最初に思い浮かんだのが、このクルマのコンポーネントで最も重い4コントロールでした。




 EDCや4コントロール以外の部分で130㎏の軽量化ができたなら、それらを残したほうが明らかに速く走れたでしょう。我々としてもそれが理想的なソリューションだったはずですが、今回はそういうアプローチは不可能でした」




 しかし、そこには開発陣の中にも葛藤があったという。




 「そのメリットを訴えてきたアイテムを外すことは、メガーヌRS全体の商品企画としてどうなのかという議論はありました。さらに、4コントロールを外すことでリヤが一気に軽くなりますから、それを操れるのは、かなりのエキスパートドライバーに限られるであろうことも予測されました。まあ、その後の開発で、当初の予想よりはドライバーのレンジは拡大できましたが」




 意外だったのは、トロフィーRの最初の仕様書ではニュルの周回タイムは必達項目でなかったということで、ウルゴンも「そういえば隅に小さく書いてあったかなあ」と笑いながらうそぶく。彼は標準モデルに近い状態であのタイムを叩き出したシビックへのリスペクトを今も強く抱き「このクラスであれ以上のエンジンは存在しないし、変速機のフィーリングも最高。最初は、あのタイムはとても抜けるとは思っていませんでした」と振り返る。




 「今回のトロフィーRの開発目標は、あくまで先代トロフィーRの性能をあらゆる要件で超えることでした。加速、減速、旋回速度、ストレートのすべてです。ニュルブルクリンクのラップタイムの優先順位は、決して高くありませんでした」

軽量化の弊害を担保したのは歴代最高のエアロダイナミクス

 重量削減を最優先に、看板技術までもあえて削除したトロフィーR。しかし、それでも容易に達成できないほど、目標はあまりにも高かった。




「軽量化のためにEDCと4コントロールを外すことは否応なく決まりましたが、実際にはそこから先の軽量化が大変でした。カーボンパーツやチタンマフラーまでは比較的簡単なアイデアでしたが、それでも足りません。現在は先々代のR26Rのようなプレクシガラスは使えませんのでガラスそのものを薄くして、後席を取り去りました。最後は本国のメガーヌRSで標準装備の縦型の8.5インチディスプレイを横型の7インチ(=日本仕様はこれが標準仕様)に変更して250g減らしたり、といった地道な作業の積み重ねでした。




 パワートレインは基本的にトロフィーと共通ですが、1カ所だけトロフィーR専用の部分があります。それはシフトレバー下のウェイトを外したことです。これによって変速がわずかにスピーディになることは事実ですが、振動などの日常フィーリングは悪化します。その目的は……もちろん軽量化ですね(笑)」




 4コントロールの省略によって低下したリヤのグリップは、歴代RSで最大のダウンフォースを発生するという空力、後輪操舵を省略することで専用設計となったリヤトーションビームの高剛性化、そして専用コンパウンドのブリヂストン・ポテンザS007によって補ったという。




 この取材時点では残念ながらトロフィーRの試乗はかなわなかったが、専用スプリングやオーリンズ製の調整式ダンパーによる乗り心地はさぞやガチガチなのでは……と、最後にツッコミを入れてみた。




 「いいえ、いかにトロフィーRであっても、オープンロードでも走れるのがRS製品の大前提。ダンパーを調整式としたのもそのためです。車高の調整幅は16㎜あり、工場出荷時は最も高い位置にセッティングされています。その状態であれば、普通のトロフィーと大差ない乗り心地が確保されていますよ」


(文中敬称略)

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