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〈試乗記:新型ダイハツ・タントカスタムRS〉DNGAの高い潜在能力を感じさせるハンドリングとシートの一体感。だがパワートレインと快適性、ADASの制御には今後の洗練を期待


ダイハツの最量販車種へと成長した、左側Bピラーレスボディが特徴の超背高軽ワゴン「タント」が2019年7月、車種横断的な一括開発企画の手法を採り入れるとともにパワートレインを含むすべてのプラットフォーム構成要素を刷新する「DNGA」(Daihatsu New Global Architecture)を初採用する四代目へと世代交代した。その最上級グレード「カスタムRS」FF車に乗り、東京都内および神奈川県内の市街地を中心としつつ、首都高速道路も交えて3日間試乗した。




REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu)


PHOTO●遠藤正賢、ダイハツ工業

軽自動車とそのユーザーを知り尽くしているがゆえの割り切りを随所に感じさせる

 登録車のミニバンがそうなったように、軽自動車も今や、背の高い1BOXタイプが主役の座に就いている。




 全国軽自動車協会連合会が発表した2018年4月~2019年3月の「軽四輪車通称名別新車販売確報」によれば、ホンダN-BOXが23万9706台で1位、スズキ・スペーシアが15万8397台で2位、そしてダイハツ・タントが14万2550台で3位と、トップ3を超背高軽ワゴンが独占。




 4位にも日産デイズ(ただしデイズ(軽ワゴン)とデイズルークス(超背高軽ワゴン)の合算)が付けており、かつて首位を争っていた軽ワゴンのスズキ・ワゴンRとダイハツ・ムーヴはそれぞれ10万2553台で7位、13万2320台で5位という状況だ。

【新型ダイハツ・タントカスタムRS】全長×全幅×全高:3395×1475×1755mm ホイールベース:2460mm

 だからこそ、新型タントにいち早くDNGAが採り入れられ、最新技術が満載されるのは必然と言える。しかしながら、変わったのはメカニズムだけではない……というのが、タントカスタムRSの実車を見た時の第一印象だ。




 軽自動車では「カスタム」とサブネームが付くことが多いエアロ系モデルは1BOXミニバンのそれと同様、装飾過多で威圧感に満ちたデザインのものが多いのだが、それらは要素が少なくシンプルで美しく整ったデザインを至上とする私の評価基準と真っ向から対立する。そしてダイハツの軽自動車は、そんな「カスタム」のパイオニアにして最右翼だった。




 しかし新型タントカスタムのエクステリアデザインは、そうした従来の「カスタム」とは明らかに一線を画している。今回試乗した車両のボディカラーがシャイニングホワイトパール(正確にはブラックマイカメタリックとの2トーン)だったこともあり、実車は写真で見る以上にモダンで穏やかなものに見受けられた。

黒とグレーを多用した新型タントカスタムRSの運転席まわり

 インテリアもメッキ類やシルバー塗装、ピアノブラックなどの加飾パネルが減り、よりシンプルな仕立てへとシフトしているが、こちらは必ずしも上手くいっていない。黒とグレーの樹脂パネルが素材感剥き出しのまま室内を埋め尽くしており、ただただ暗く安っぽいのだ。




 それは、コンパクトカーすら凌ぐほどの質感あるいは明るい雰囲気を軽自動車に与えている競合他社とは正反対の、明確な割り切りを感じさせるものであり、長く乗るにつれて気分まで暗く貧しいものに沈んでいくことを予感させた。

新型タント標準仕様の運転席まわり

 こうした見た目に関してはやはり、標準仕様の方が好印象。素材の安っぽさは拭えていないものの、明るい色使いでそうした割り切りをむしろ潔いものとポジティブに捉えられるものになっている。

新型タント標準仕様のエクステリア
初代タント標準仕様のエクステリア


 なおエクステリアも、単にシンプルなだけではなく、初代タントのモダンさに回帰しつつも進化したような仕上がり。超背高軽ワゴンの中ではトップクラスの秀逸なデザインと、私には感じられた。

1490mmもの開口幅を確保した「ミラクルオープンドア」。ステップ高は359mm。写真は運転席を最後端、助手席を最前端にスライドさせた状態

 そして車内に乗り込むと、その初めの一歩からDNGAの恩恵を少なからず体感できる。フロア高が16mm下げられたうえ、サイドシルとの段差もほぼゼロに抑えられているうえ、1755mm(FF車。4WD車は1775mm)の全高を利して1370mmの室内高が確保されているため、乗り降りはBピラーのない助手席側の「ミラクルオープンドア」をフル活用せずとも極めて容易だ。




 確かに特段の事情がない男性ならば、これほどの全高と室内高、乗り降りのしやすさは必要ないだろう。だがこれは、子供をチャイルドシートに座らせたり下ろしたりしなければならない主婦や、足腰の不自由なお年寄りには、必要不可欠なものだ。




 さらに新型タントには、助手席380mm、運転席540mmのロングスライド機構もある。ダイハツはこれによって、運転席から後席にいる子供へ手が届きやすくなるとともに、助手席側からも安全に乗り降りできることをメリットとして掲げているが、助手席を最前端までスライドすれば送迎される乗員は足を伸ばして移動でき、運転席を最後端までスライドすればドライバーが極めて快適に仮眠を取れるだろう。

座面高が上がりクッションの厚みが増したため後席の掛け心地も良好。ヘッドクリアランスは約20cm、ニークリアランスは約10~50cm
カスタムRSおよびX系グレードの前席にはベンチシートが装着されるが、ホールド性はセパレートシートと遜色ないほどのレベル


後席背もたれはワンタッチで格納可能に。ただしその際の荷室床面は凹凸があり傾斜も強め
バックドアは先代に続き樹脂製で、極めて軽量なため開閉が容易。荷室フロア高は580mm


 だが、そうした特別な機能を用いずとも快適に過ごせるだけのシートに、新型タントは前後席とも進化している。身長176cm・座高90cmの筆者にはやや小ぶりであるものの、身体を面で支えるよう骨格・クッション・サイズ・ヒップポイントなどが見直され、かつプラットフォームの刷新に伴いシートを支えるフロア骨格の剛性も高められたため、フィット感は極めて良好。身長170cm以下の人であれば、まず不満を抱くことはないはずだ。

新型タントに採用されたDNGAのプラットフォーム

 では、肝心の走りはどうか。車庫を出た瞬間に感じ取れるのは、超背高軽ワゴンとは思えないほどの安定感と、レスポンス良くリニアなハンドリングを、高いレベルで両立していることだ。

従来モデルのアンダーボディ。リヤサスペンション周辺の骨格が直線的で、かつ部材が分かれている
DNGAのアンダーボディ。サスペンションからの入力を受けるフロントとリヤの着力点間をスムーズに結合し剛性を高めている


 DNGAのアンダーフロアは、着力点間の断絶をなくしスムーズにつなげることで、ボディのねじり剛性を高めつつ、高張力鋼板の使用部位を拡大し、さらにボディ・サスペンションとも構造を合理化して軽量化するという、スズキの「ハーテクト」と同様の考え方に基づいて設計されている。




 その結果、タントでは先代に対しねじり剛性が30%アップしながら、車両全体で80kg軽量化。装備増加分を相殺してもなお40kg軽量に仕上がっている。そしてロール慣性モーメントは約12%、ボディの上下曲げ変位量は約22%、シートロール角は約9%低減された。またサスペンションも、安定感と乗り心地を最優先にしたジオメトリーを新たに設計し直している。

フロントサスペンションはストラット式。ロールセンター高を下げつつアンチダイブの変化率を増すことで、操縦安定性と乗り心地の両立を図っている
リヤサスペンションはトーションビーム式。斜めブッシュ採用で横力オーバーステアを低減、ビーム位置の前方移動でロールアンダーステアを増加させた


 これらの効果は絶大で、従来の超背高軽ワゴンでは無意識に強いられていた、急激な挙動変化が起きないようすべての操作をゆっくりと行い、かつその先に遅れて現れる挙動を先読みして身構える必要が、この新型タントカスタムRSではほぼ必要ない。




 だからタイトなコーナーが続くワインディングや首都高で旋回しても恐怖感は皆無。そのうえ、首都高速湾岸線のように海風の直撃を受ける場所でも直進性は極めて高い。この点に限っては、超背高軽ワゴンという前提を抜きにして見ても秀逸なホンダN-BOXを凌駕しているとさえ言える。

テスト車両は165/55R15 75Vのブリヂストン・エコピアEP150を装着

 だが、乗り心地や静粛性もN-BOXを超えているかといえば、さにあらず。特に低速域では路面の凹凸や荒れを拾い、突き上げとロードノイズを少なからず乗員に伝えてくる。高速域ではさらに、Aピラー頂点付近から発生する風切り音も盛大になるため、快適性ではN-BOXに一歩譲る印象だ。

新型タントカスタムRSのKF-VET2型エンジン
スプリットギヤを採用した新開発の「D-CVT」


 しかしそれ以上に気になったのは、大幅に改良されたKF-VET2型エンジンと、スプリットギヤを用いた新開発の「D-CVT」、そして「次世代スマートアシスト」のマナーである。




 D-CVTには高速域でエンジントルクをベルトと伝達効率の高い遊星ギヤとの双方に分割しタイヤに伝えるスプリットギヤを採用したことに伴い、変速比幅はロー側、ハイ側ともワイド化。全体では従来の5.3から6.7(タントの場合。他の車種では7.3まで拡大可能)にまで拡大している。




 これが燃費には有効でも、加速のリニアリティには少なからず悪影響を及ぼしている。発進時は、レスポンスに優れると言えば聞こえは良いものの率直に言えば過敏で、ギクシャクしやすいのが目に付いた。




 その後負荷を上げ回転を高めていくと、今度はトルクが急激に立ち上がる。このドッカンターボ的なフィーリングは、先代のターボエンジンに対し圧縮比を下げる(9.5→9.0)一方で過給圧を上げ、最大トルクを92Nmから100Nmに高めたことによるものだろう。




 そして最大の難点は、高速域でアクセルオフから再加速した瞬間、決して小さくないショックが乗員にもたらされることである。この際にD-CVTが、ベルトのみでエンジントルクをタイヤに伝える「ベルトモード」から、ベルトと遊星ギヤを併用する「スプリットモード」に切り替わるようだが、トルクの伝わり方が全くシームレスではない。




 それは副変速機付きCVTが変速する時のトルク切れというよりもむしろ、パラレル式ハイブリッドがモーター単独走行からモーターとエンジンの併用モードに切り替わる際にクラッチがつながることで「ドン」と伝わってくる衝撃によく似ている。




 なお、個体差による不調を疑い、ダイハツ広報を通じて開発部門に確認してもらった所、「スプリットギヤによりこうしたショックが発生することは把握しており、今後改善を図っていきたい」という回答が得られた。

「次世代スマートアシスト」も「スマートアシスト3」に続きデンソー製超小型ステレオカメラを採用

 また、新型タントよりADAS(先進運転支援システム)が「次世代スマートアシスト」へと進化しているが、今回ターボ車に「スマートクルーズパック」としてメーカーオプション設定された、全車速追従機能付きACC(アダプティブクルーズコントロール)とLKC(レーンキープコントロール)についても言及しておきたい。




 今回は晴天に恵まれ見通しが良く、白線もキレイな湾岸線で試したものの、ACCは車間距離を取り過ぎるうえに加減速のタイミング・量ともに遅く、これに任せて運転するのはかえって危険なレベル。LKCもほとんど仕事をしておらず、白線をはみ出しそうになって初めて車線中央へ戻るよう操舵アシストする車線逸脱抑制制御機能とほぼ変わらない印象だった。




 ダイハツは2002年10月発売の3代目ムーヴカスタムRSにレーダークルーズコントロール、2006年10月発売の4代目ムーヴカスタムRSにプリクラッシュセーフティシステム、2012年12月発売の5代目ムーヴ後期型より「スマートアシスト」を採用するなど、ADASの展開にはかねてより積極的だ。




 しかしながら、ことこうした高速道路向けの運転支援技術に関しては、制御の進化が17年前より止まってしまっているように見受けられる。本来こうした技術は非力なNA(自然吸気)エンジンを搭載する軽自動車にこそ欲しいものだが、この出来ならばターボ車のみメーカーオプションで正解、そして装着する必要はないだろう。




 なお、市街地を中心とした今回の試乗での総合燃費は14.8km/L。限りなく実燃費に近い傾向にあるWLTC市街地モード燃費17.5km/Lとの乖離は大きく、それだけ加減速のコントロール性に難があることの傍証と言えそうだ。




 新型タントカスタムRSは、初採用となったDNGAの高いポテンシャルを随所に感じさせてくれたものの、まだまだブラッシュアップが必要な点は多い。そして、「良品廉価」の御旗の下、コストカットのため明確に割り切ったと思われる所も散見される。




 これはスズキにも共通しているが、ダイハツは軽自動車とそのユーザーを知り尽くしているが故に、従来の価値観のまま「この辺は頑張る必要はないだろう」と割り切ってしまう傾向にある。だがそれは、その点を頑張ったホンダや日産との差を自ら広げ、首を絞める結果につながっている。




 今後タントが進化していくうえでまず必要なのは、技術の研鑽ではなく、企画・開発・販売・宣伝に携わる人の意識改革なのかもしれない。

【Specifications】


<ダイハツ・タントカスタムRS(FF・CVT)>


全長×全幅×全高:3395×1475×1755mm ホイールベース:2460mm 車両重量:920kg エンジン形式:直列3気筒DOHCターボ 排気量:658cc ボア×ストローク:63.0×70.4mm 圧縮比:9.0 最高出力:47kW(64ps)/6400rpm 最大トルク:100Nm(10.2kgm)/3600rpm WLTC総合モード燃費:20.0km/L 車両価格:178万2000円
ダイハツ・タントカスタムRS

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