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GVCにも利用されるマツダのM Hybrid、じつは世界初の技術だった!!


2019年12月、マツダが開催するCXシリーズによるオフロード試乗会(報道関係者向け)を目前に控えた我々のもとに、同社より興味深い一報が届いた。聞けば、広くインフォーメーションされてはいないものの、SKYACTIV-Xを搭載するMAZDA3のGVC(Gベクタリングコントロール)では、エンジントルクの抑制にBSG(ベルトドリブン・スターター・ジェネレーター)を利用しているというのだ。


TEXT:髙橋一平(TAKAHASHI Ippey)

 MAZDA3のSKYACTIV-XパワートレーンにはM Hybridと呼ばれる、システム電圧24Vのマイルドハイブリッドシステムが採用されている。このシステムでは一般的なオルタネーターに替えるカタチで搭載するBSGを、ハイブリッドシステムの核となるモータージェネレーターとして利用しているのだが、BSGによるトルク抑制は、SKYACTIV-Xの特徴であるSPCCI(Spark Controlled Compression Ignition:火花点火制御圧縮着火)運転時、それも超リーンバーンの運転モードの時のみだという。




 ちなみにSKYACTIV-XのSPCCI運転には、空燃比30(λ=2.0)以上の運転と、空燃比は14.7(λ=1.0)付近とし、大量のEGRガスを導入する運転モード(空気とEGRを合わせたガスと燃料の比率、G/Fは14.7以上となる)のふたつがある。なかでも本命ともいえるのが超リーンバーンの運転モード、最も高い燃費効率を発揮するのもこの部分だ。

 BSGによるトルク抑制がこの超リーンバーンの運転モードのみとなっているのには、当然ながら理由がある。というのも、空燃比30以上という超リーン状態で予混合圧縮着火を成立させるためには、極めてシビアな条件制御が必要であり、それゆえにSPCCIという手法(ちなみにこれは一種の可変圧縮機構でもある)が用いられたのだが、それでも困難が伴うことには変わりなく、非常に緻密な制御により、ようやく成り立っているといっても過言でない。GVCではエンジントルクを微妙に変化させることで姿勢変化とそれに伴う荷重移動を促しているのだが、エンジントルクの変化は燃焼状態に少なからず影響を及ぼす。ようやく燃焼が成り立っているSPCCIの超リーンバーン運転時には、エンジン本体のトルク制御は避けたい、そこで用いられたのがBSGを回生発電状態とすることで、エンジンで発生したトルクの一部をBSGに流すという手法。わかりやすく言うなら、BSGでブレーキをかけるというわけである。



 M Hybridにはバイワイヤ式のブレーキとの協調制御により、ブレーキ操作に合わせて回生発電を行う機能が盛り込まれている。これはハイブリッドである以上当然だが、回生を担うのはBSGである。そういう意味ではBSGを使ってブレーキをかけるというのも自然な流れだ。しかし、これは言うほど簡単なことではない。




 BSGはその名前が示すように、ベルトとプーリーを介してクランクシャフトに接続される。ご存知のようにベルトには伸びもあれば遊びもあるわけで、協調回生にはそれらの要素を見越した制御が必要となってくる。そして、じつはメカブレーキの制動力を発電抵抗による制動力にすり替えながら協調回生を行うという、BSGを用いたマイルドハイブリッドは世界初なのだ。

 ベルトには伸びとそれに伴う遊びがついてまわるため、そのままではBSGの動作に意図せぬ遅れとトルク変動が生じてしまう。ただでさえ制動トルクのすり替えは緻密な制御が必要とされるうえ、GVCでは高い応答性と高精度なトルク制御が要求される。とくに路面μの低い雪道などでは、トルクのすり替えがうまく噛み合わないと、危険な状態も生みかねないという。トルク制御に求められる精度は1Nm以下だ。




 そこで採用されたのが、BSGの発電抵抗を利用して、予めベルトに制動方向に張力をかけ待機しておくという手法だ。当然ながらエンジンにはわずかながらとはいえ常にブレーキがかかる状態(ただし回生発電も伴う)となるわけで、ここだけ見ると損失にはなるが、GVCの動作時やブレーキの操作時にメカブレーキで熱として捨てるエネルギーを抑制、より多くの回生エネルギーが得られる(回生の取り幅が増える)ことで、トータルとしてはプラス収支となるのだという。いわば「損して得を取る」この技術は特許申請中だ。




 なお、BSGを用いたGVCの制御がSPCCI運転の一部のみにとどまるのは、24Vで運用されるBSGの出力と、ベルトのトルク伝達能力によるところもあるという。そしてこのことは、欧州を中心に48Vが普及しつつあるなか、同社があえて24Vを選択した理由にもなっている。

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