広大な土地で淡々と牽引を続けるピックアップトラック。このような事情がアメリカに特殊なエンジンを生み出すことを求めた。加えて、世界的な低燃費傾向に即した、次々と投入される直3/4気筒のダウンサイジングターボ。アメリカン・マーケットは何もかもをひっくるめた非常にユニークなエンジンラインアップが存在している。



TEXT●三浦祥兒(MIURA Shoji)

ブランド整理を急速に進めるGM、そのエンジンラインアップ

 さて本題であるアメリカ製(欧州製もあるけれど)エンジンの俯瞰図である。



 例えばトヨタと日産、ベンツとBMWという日欧のフルラインアップメーカーのエンジンラインアップは似たような傾向になる。お互いに競合の車種を用意しているからだが、アメリカではGMとフォード、クライスラーの三社の傾向がはっきりと違っているのに気付く。

 極端なのはGMだ。リーマンショックでチャプター11の適用を受ける以前から、GMは互いにマーケットを食い合い、煩雑になるばかりのブランドの統合整理を進めてきた。オールズモービルとポンティアックは消滅し、キャデラックはBMW&ベンツの対抗馬として位置づけられ、高性能FR専門ブランドになった。旧き佳き中型アメ車の宝庫であったビュイックは継子扱い状態で、総合ブランドとしてのシボレーだけがフルラインアップとなっている。そのシボレーにしても小型車は後退に次ぐ後退で、おかげで北米GMの直4エンジンは実質3機種になってしまった。直4ばかりの日本メーカーやVWとは大違いである。HEVについても、トランプ政権の無茶苦茶な発言を受けて現状では大きな動きを見せておらず(後述)、GM直4の設計を担ってきたオペルの離脱で、小排気量の小型車は停滞状態にあるといえる。

GMの2.7ℓ直列4気筒ターボ「L3B」(ILLUSTRATION:GM)

 今やGMエンジン技術のイメージリーダーとなったキャデラックは、車種を大幅に整理したもののなかなかに活発な動きを見せている。昨年完全新設計のDOHC・V8を投入したと思ったら、PUTやSUV用と思われた2.7ℓ直4のL3Bをブーストアップして載せてきた。このエンジンはVVLや排気脈動を活用したツインスクロールターボといった新技術を採用し、相当気合いの入った内容となっている。ストローク長102㎜、S/B比1.105という強烈なオーバーストロークによって投影面積を減らした成果か、中型セダンのエンジンコンパートメントに押し込むことができたようだ。経営的にはV6を完全に置き換えたいところだろうが、SUVに広範なエンジンラインアップを必要とすることから、V6が結構残っている。残っているどころか、キャデラック用には2~3年に一度の頻度で新仕様が登場しており、如何にGMがキャデラック・ブランドを重視しているかが分かろうというもの。



 所謂スモールブロックの新世代・直噴仕様であるLT系にV8はほぼ統一された。キャデラック以上のイメージリーダーであるコルベット用にはまたもやスーパーチャージャー過給の765ps高性能版が昨年から登場。それに呼応して自然吸気仕様も圧縮比を上げてパワーアップを図ってきた。旧態依然としたOHVでも、カウンターフローならではのスワール生成と直噴の活用によって、GMは生きる道を見つけたようだ。とはいっても他のメーカーが模倣することはないだろうが。



 メシの種ともいえるPUT用には、6.2ℓのストロークアップ版である6.6ℓのL8Tが登場した。フォードは更に大きな新V8を投じているのだが、両者については後述する。



 乗用車用ディーゼル不毛の地ともいえる北米に、手ぐすねを引いたかのように現れたのが、完全新設計の3ℓ直6ディーゼルだ。

 ダウンサイジングターボの進捗で、中型FF車のエンジンが直4ターボに統一されるようになって、V6エンジンの必要性が薄れてきた。というより、横置き搭載しないなら、動弁系部品が2倍必要でクランクシャフトも特殊なV6はコストがかかって仕方がない、ということなのだろう。以前関係者に訊いたハナシでは、日産のVQエンジンの原価は30万円では済まないらしく(自動車の部品としては高額もよいところ)、電動化や自動運転でいくらカネがあっても足りないご時世に、製造コストの高いV6は忌避される傾向にある。

 代わって再浮上したのが直列6気筒で、ベンツを皮切りにジャガーが投入。アルファロメオ、マツダも近々導入予定。一時期衝突安全性の強化でクラッシャブルゾーンを確保できないという理由から廃れた直6だが、量産直4と製造設備を共用できる上、振動に有利、吸排気レイアウトに余裕があると、性能面ではよいことづくめ。あるエンジン技術者は「できることならV6を突き詰めるより新たに直6を設計したい」と言うくらいだから、経営的にも技術的にもWin Winなエンジン形式ということになる。GMの新ディーゼルの場合、生産設備の共用というメリットは薄いものの、性能向上が容易で何より軽くできることが大きいと、公式にコメントしている。

GMの3.0ℓ直列6気筒ディーゼル「DURAMAX」(ILLUSTRATION:GM)

OHVを新規開発し再投入したフォード、その思惑とは

 オペルを切り離したGMと違い、フォードは未だにフォードEUとの二頭体制。それだけではなく、エンジンのラインアップもGMとは様相が異なる。1980年代に旧式なエンジンを次々に新しくしていったフォードの頂点は、ジャガー、ランドローバー、ボルボ、マツダにアストンマーティンを傘下に収めていたPAG時代。現行エンジン、特に3~4気筒はすべてこの当時90~00年代の原設計だ。その後にPAGグループは解体され、リーマンショックをトヨタも斯くやという内部保留で乗り切ったフォードには、エンジンを新規開発する余裕などない。特に90年代後半にPSAと組んだディーゼルエンジンはカネを喰ったようで、次に控えたダウンサイジングターボは、ほぼすべて既存エンジンの改変で間に合わせている。

 そうした辻褄合わせのエンジンも、元の設計が優秀だったのか(マツダの貢献度は特に大きいといわれる)20年経っても現役でいられたのだが、そろそろ次世代エンジンが必要になってきたようだ。



 目立つ改良策は、高性能ターボエンジンに直噴インジェクターに加えてポート噴射を加えてきたことだ。畑村耕一氏をはじめ棋界の識者が「直噴のメリットはノッキング防止だけ」と言うように、高負荷大出力以外ではポート噴射の方が燃費も良くなる傾向にある。本音ではすべてのガソリンターボをDI+PFIにしたいのだろうが、燃料インジェクターは高価な部品故に、とりあえずコストを吸収できる高額な車種のエンジンに施してきたのだろう。

フォードの1.5ℓ直列4気筒ターボ「1.5 EcoBoost “Dragon”」(PHOTO:GM)

フォードの5.2ℓ V型8気筒SC過給「Predetor」(PHOTO:GM)

 BMWやPSAの直3ターボの成功を受けて、フォードも1.5ℓ直3ターボを新規に開発してきた。元祖直3ターボである1ℓのEcoBoostは旧い鋳鉄ブロックのままであり、排気量アップの余地はないだろうから、ここぞとばかりに資金を投入して、今後2ℓまでの直4を集約すると思われる。



 GMのコルベットの対抗馬であるマスタングの高性能版Shelbyには、フェラーリもビックリというフラットプレーンV8・Voodooを投入して業界を驚かせたが、さらなる高出力施策としてスーパーチャージャー過給を施すにあたり、フォードの設計陣はクランクシャフトをクロスプレーンに戻す決断を行った。

 海外メディアのインタビュー記事を読むと、過給によって燃焼圧力が高まるとクランクの捻り振動がシャレにならなくなり、フラットプレーンをあきらめた、とある。「それならフェラーリのV8ターボはどうなる」という突っ込みは当然入れたくなるが、フェラーリの4ℓ・ストローク83㎜に対し、フォードのPredetorは5.2ℓ・ストローク93㎜だ。フラットプレーンでは上下死点でピストン速度が片バンク同時にゼロになる瞬間があり、そこから長いクランクアームを動かす強い力が働くと、固有の二次振動の問題が増長するのだろう。気筒あたりの排気量が大きい故の事項であり、同様なS/B比となるベンツのM176より約2000rpmも余計に回して馬力を出す特殊事情と思う。

フォードの7.3ℓ V型8気筒「Godzilla」。プッシュロッドがご覧いただけるとおり、OHVである。(PHOTO:FORD)

 フォードの新エンジンで何より魂消たのは、7.3ℓのプッシュロッドV8「Godzilla」だ。ネーミングにではない。90年代に早々とOHVを撤廃したメーカーが、今更OHVの新エンジンを出してきたことにだ。先記したように少々排気量は少ないものの、GMも新しいOHVのV8を投入している。この期に及んでこんなローテクエンジンが登場するのには、アメリカ特有の事情が絡んでいる。

情報提供元:MotorFan
記事名:「 ワールド・エンジン・データブック 2019-2020:from inside(6:最終回)