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プラグインハイブリッドとスーパーカーの意外なマッチングを確かめた【BMW i8ロードスター】


バタフライドアを大きく開けて乗り込み、音もなく走り出せばハイブリッド・スーパースポーツの面目躍如といったところだが、いまいち存在感の薄かったi8。


i8ロードスターに乗って、オープンとiブランドについて考えた。




REPORT◉高平高輝(TAKAHIRA Koki)


PHOTO◉神村 聖(KAMIMURA Satoshi)




※本記事は『GENROQ』2019年11月号の記事を再編集・再構成したものです。

 かすかなモーターの唸りとともに密やかに滑り出した直後、予想以上に強烈なビシッという突き上げというかハーシュネスに見舞われて面食らった。こんなにハードな足まわりだったっけ?と記憶を探っても思い当たらない。というよりも、最近すっかり存在感の薄かったi8のことはほとんど覚えていないのが正直なところ。2017年末のロサンゼルスショーでデビューしたi8ロードスターに至っては、昨年には日本に上陸していたらしいが、今回が実は初対面である。




 コクピットが前進した低く幅広いフォルムに大きく開くバタフライドア、シート背後のフェアリングから連なるバットレスが「ルーフフレーム」と称するエアチャンネルを形成するリヤクォーターなど、その姿形はどこから見てもスーパースポーツながら、i8ロードスターは単なる速さを求めるのではない先進的なユーザー向けのアバンギャルドなスポーツカーである。電動化モデルであるだけでなく、製造過程もサステナブルであることを掲げた意欲的なBMWのサブブランド「i」がi3とi8を送り出したのはもう5年余りも前だが、それ以降で初めての追加モデルがこのロードスターである。




 クーペの登場からかなり間が空いたのは、マイナーチェンジの都合だったかもしれない。ロードスターの追加を機に、電動パワートレイン系に改良が加えられている。アルミ製スペースフレームにCFRP製キャビンセルを載せる基本構造はそのまま231㎰と320Nmを生み出す1.5ℓ3気筒ターボをミッドシップするエンジンも変わらないが、リチウムイオン電池の容量は33Ah(従来比+13Ah)に引き上げられて総電力量は11.6Whに拡大、それに伴って前輪を駆動するモーターの最高出力も12㎰増しの143㎰、最大トルク250Nmとなり、システムトータル最高出力とトルクは373㎰と570Nmに強化された。EV走行距離は従来の35㎞から53㎞(JC08モードでは54.8㎞)まで伸びたという。さらにクーペのプラス2の後席を省略した2シーターとなり、そこに荷物スペースを設けるとともに電動ソフトトップを格納するのがクーペとロードスターの相違点である。

 50㎞/h以下なら走行中でも約15秒で開閉する電動ソフトトップのせいでクーペに比べて1650㎏という車重は約60㎏増加したというが、クーペと比べて何かの弱点があるという印象はまったく感じられない。何しろCFRPのケージのサイドシル部分は他では見たことがないほど幅広く高く、かなり寝かされたAピラーも視界の邪魔になるぐらいの太さがある。最初からオープンモデルを予定していたと見て間違いない。




 今や500、600㎰が珍しくない昨今のスーパースポーツの中では、373㎰というシステムのトータル出力は見た目に対していささか控えめな気がするが、i8ロードスターはそもそもパワーで周囲を驚かせる類のスポーツカーではない。それでも0→100㎞/h加速データは4.6秒というから、911カレラ並みの瞬足は備わっている。




 スルスルと走り出し、電動モーターによる4WDシステムの癖もなく、まさしくオンザレールでリニアなハンドリングが特徴的なうえに、低速では気になった乗り心地も速度が上がれば不思議なことに気にならなくなり、高速道路ではピタリと路面に吸い付くように走る。乱暴に言えば、素晴らしく良くできた「BMW」である。ただし、既存の文脈にとらわれず、プラグインハイブリッドの新しい展開を形にしたスポーツカーとしては、出来の良いBMWに留まっていては世の中の新しもの好きを納得させるに十分ではないだろう。




 登場のタイミングの問題もあるだろうが、ACCなどの最新ADASが備わらないこともBMWの将来像のひとつとして物足りないのは事実だ。一般ユーザーには分かりにくい異質なクルマかもしれないが、諦めずに挑戦を続けてこそ、新しいスポーツカーと認知されるはずである。

ルーフはソフトトップだが遮音性は高く、閉めればクーペと変わらない静粛性を持つ。50㎞/h以下なら走行中も開閉可能だ。

SPECIFICATIONS BMW i8ロードスター


■ボディサイズ:全長4690×全幅1940×全高1290㎜ ホイールベース:2800㎜


■車両重量:1650㎏


■エンジン:直列3気筒DOHCターボ 総排気量:1498㏄ 


最高出力:170kW(231㎰)/5800rpm 最大トルク:320Nm(32.6㎏m)/3700rpm


■モーター:最高出力:105kW(143㎰)/4300rpm 最大トルク:250Nm(25.5㎏m)/100〜4100rpm


■システム最高出力:275kW(373㎰) システム最大トルク:570Nm(58.1㎏m)


■トランスミッション:6速AT


■駆動方式:AWD


■サスペンション形式:Ⓕダブルウイッシュボーン Ⓡマルチリンク


■ブレーキ:Ⓕ&Ⓡベンチレーテッドディスク


■タイヤサイズ(リム幅):Ⓕ195/50R20(7J) Ⓡ215/45R20(7.5J)


■パフォーマンス 最高速度:250㎞/h (電子制御) 0→100㎞/h:4.6秒 燃料消費量(JC08):15.9㎞/ℓ


■車両本体価格:2276万円(消費税10%)

iというブランドを考える 山崎 明 本誌連載「ブランドメモ」著者

 BMW iはBMW Mと並んで現代のBMWを牽引するサブブランドだ。2014年に発売されたi3とi8は、電動化だけでなくアルミシャシーにカーボンボディを採用した革新的なモデルである。BMWiは製品として革新的なだけでなく、工場での製造過程も風力発電と水力発電のみを利用しゼロカーボンとするなど、ブランド全体が未来指向、サステナブル指向で貫かれた理想主義的なものである。




 しかしながら他社が雪崩を打つように新型EVを発売する現在では、その存在感は今ひとつ感じられない。発売から約5年が経過したが、i3のバッテリー容量が拡大した以外に大きなアップデートが行われていないのがその要因であろう。その間にクルマは大きく進化し、i8にはACCやLDW、LKASといった通常のBMWでは今や常識といえる装備がオプションでも装着できず、やや取り残された感があるのだ。




 2016年には330eなど、通常モデルのPHEVをiパフォーマンスという名で括り、iブランドの一部と見えるようにしたが、通常のガソリンモデルには330iのようにiが付くのに、iパフォーマンスモデルにはiが付かないというネーミング上の矛盾を抱えることとなった。BMW iは常に時代の最先端を行くブランドでなければ存在意義がないだろう。ようやく1〜2年後に新モデルi4が出るようだが、BMWはこのブランドをどのように育てるつもりなのだろうか。

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