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空気とクルマの関係——ときには邪魔に、ときには味方に


クルマが地球上を走るなら空気とは否が応でも付き合わなければならない。エンジンが上手に燃料を燃やすために空気をうまく使っているのと同様に、静かに速く滑らかにクルマを走らせるためには空気と折り合いをつける必要がある。ある面では高効率化の助けとなり、いっぽうでは性能の限界を痛感させられる。人間の都合でどうこうできる相手ではない。敵は厄介である。

 近年は空調の性能も著しく向上し、一年を通して飛散する花粉などの塵芥や悪臭の流入を嫌うこともあり、外気を直接室内に取り込みながら走るクルマを見かけることは少なくなった。高速道路に入ると窓を閉めるように、走行中にサンルーフから顔を出すと息ができないように(危険だからやってはいけない、念のため)、カウルなしのバイクで100km/hで走ると身をかがめたくなるように、高速で走行する移動体への空気の影響は大きい。その存在をなくすことはできないので、ならば影響を最小限にとどめて高効率をねらうのである。




 容易に想像できるように、空気を切り裂くように進むためにふさわしいのは砲弾のような形状である。空気の流れやすさを示す抗力係数において、よく言われるのが流線型。フールマン(独)によれば、流線型回転体において先端形状が尖っている/丸まっている、後端形状が尖っている/丸まっている、横から見たときの最大径が前寄り/中間部という形状検討では、先端が丸く後端は尖り、前寄りの最大直径形状のものがCD0.0220と、もっとも抗力係数が小さかった。同様に、アボット(米)の風洞実験によれば、全長/直径=4.5の値が抗力係数にもっとも優れている形状という。

いろいろな形と抗力係数(CD)の例。流れの中に物体を置いたときにどれだけ空気が沿いやすいか、剥離を起こしにくいかを示す値が抗力係数。したがって、大小や速度には関係なく、単位もない。数値が大きいほど剥離が大きいことを示す。実際の空気抵抗を算出するときは、先述のように速度や前面投影面積を乗じる必要がある。ちなみにCDのDは下付きで表すが、大文字を用いるのが日英。Cdと表記するのは米式で(Cd/Cs/Cl)、独はCW/S/A、伊仏はCX/Y/Zで表す。

有史以来、クルマは速く走ることを追求し続け、たとえばアルファロメオの前身・ALFA社の40/60HPアエロディナミカなどは紡錘型のボディを当時のシャシーにそのままかぶせた格好をしているが、その後それらのようなクルマは定着することはなかった。クルマを速く走らせるためには形に工夫が求められるわけだが、ただし決定的に異なるのが、自動車は鉛直方向への移動がほとんどなく、むしろ駆動力をきちんと発揮するためには地面に押し付ける力が必要だからである。浮いてしまっては性能を発揮するどころではなく、危険きわまりない。

走行中のクルマを持ち上げようとする力が揚力(=CL)。クルマにとってはありがたくない力であり、もっぱら負の揚力=ダウンフォースが追求される。前輪揚力と後輪揚力の合計の値であり、CL=揚力係数とはその物体が備える形状においていかに持ち上がりやすいかを示す値。床下に空気を積極的に流すことで車体上面との通過速度差を生み、下方にクルマを押し付けるのが大まかな仕組み。床下に速い空気を流し、エンジンルーム内の熱気を吸い出す効果もある。(FIGURE:PORSCHE)

 そこで、たとえば理想の形状として流線型を水平方向で二分割した上半分を定義したとしても、実際のクルマには機械構成や乗員配置を考慮する必要がある。ぺちゃんこにすればいかにも空気はきれいに流れそうだが、人が座る高さが稼げずエンジンも収められなければ本末転倒。実際には、現有のプラットフォームやシャシー部品、パワートレーンを用いながらそれらをうまく納める必要がある。全体としての形状を、技術と生産の都合を勘案し、効率と美しさを兼ね備えながら仕立てていかねばならない。パッケージングとデザインの両立である。

販売される自動車というくくりで見れば、抗力係数がもっとも小さいのがフォルクスワーゲンXL1(2017年3月当時)。CD値は0.189という途方もない数値である。前面投影面積はポロに対して2/3、ボディ表面は平滑で後部が大きく絞り込まれている。

 いっぽうで、いかにも邪魔者扱いされる空気の存在を味方として引き入れることもある。最たる例が揚力のコントロールで、先述の駆動力確保のための下に押し付ける力を、空気の力を借りて増強するのである。方策もさまざまだ。黎明期には葉巻型だったF1がウイングを備えることで、ダウンフォースによってエンジン出力を余さず駆動輪に伝え、旋回性能を著しく高めることに成功しているのはご存じのとおりである。ただし、これらは抗力係数の悪化につながるのも事実で、どこに効果を発揮させるかを考えた、バランスをとった設計が求められる。

フロントリフトの解消はスポイラーやアンダーパネルで講じやすく、ドラッグへの影響も少ない。しかしリヤリフトの解消は一般的に難しく、ご覧のような大掛かりな空力デバイスの付与をともなうことが多い。(PHOTO:SUBARU)

 かたちが材料の仕込みだとすれば、各部のリファインは調理の仕方である。ぶつかってくる空気を、形状の工夫によっていかに上手に流すかを考える。沿わせ、はがさず、うしろへ抜く。ちょっとした角度の違い、付加物の有無、曲率の多寡によって空気の流れは大きく異なってくる。長年の経験則と、可視化技術と、風洞などの実験などを繰り返しながら、形状を煮詰めていく。




 当然ながらフロントグリル周りからはエンジンの燃焼のために新気を可能な限り取り入れたいし、熱交換器には効率良く空気を当てて冷媒を冷やしたい。しかし開口部を大きくしてしまえば空力性能は大きく損なわれ、走行性能に支障を来してしまう。




 近年、ハイブリッド化が進むことで中低速域でのEV走行の機会が増えている。最大の騒音源のひとつであるエンジンが休止していれば、それまで耳に届かなかった騒音が聞こえてくるのは当たり前で、それゆえ振動騒音対策は新たな次元に突入。風切り音や笛吹き音、吸い出し音といった走行にともなう空力性能の改善がいっそう求められている。車体下周りの対策が進むのも特徴のひとつで、下面が軒並みパネルによって覆われているクルマも珍しくなくなってきた。下周りへ積極的に空気を流し、早く抜くことで先述の揚力コントロールにも効果がある。空力において最大の難関のひとつであるホイール周りの乱流制御にも少なからず寄与する部位だ。

空力騒音は、笛吹音やウィンドスロップなどの狭帯域音、および風切音や吸出音などの広帯域音に大別される。前者は周波数が狭いことから発生の仕方や把握も比較的容易なのに比べて、後者の、とくに風切音は対処が基本的に難しい性質を持つ。段差の解消や断面形状の工夫などで、シミュレーションや実車風洞で対処する。(PHOTO:GM)

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