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プジョー508の開発コンセプトをひもとく「トラッドではない、着崩し自在なジャケット」


上質なジャケットでありながら、着こなし自由自在なのが魅力。フォーマルだけでなく、思いっきりカジュアルにも似合うそのスタンスが、気さくな存在感を主張する。そんな新型508に開発陣が込めた思いとは? ニューモデル速報インポート編集長が、取材を経て浮かび上がってきた508の魅力を綴る。




TEXT●松永大演(MATSUNAGA Hiro/MOTORFAN)




※本記事は2019年9月発売の「プジョー508のすべて」に掲載されたものを転載したものです。

今や欧州Dセグメントは、個性派がひしめく。メーカーによってはミドルクラスなのだが、プジョーにとってはハイエンドとなるだけに、他を凌ぐ標準装備の多さなども注目されるところ。

オールマイティではないことの魅力

 とっておきのジャケットである。こう言い切ってしまおう。"いくつもポケットはあるが、ラインが崩れるのでできるだけ何も入れたくない。これだけでは、防寒にもふさわしくない。" そう、実用性を重視して選ぶかというと、決してそれだけではないのがジャケット。




 本当にオールマイティの実用性を重視するならば、別の選択がある。




 ジャケットは、それが必要な、とっておきのシーンがあるのだ。




 またその風合いの良さを嗜み、生地を楽しむ。絶妙のフィット感を味わいながら、鏡に映る自分をふと見たりする……。




 機能的ということばは、そのプロダクトのどこまでを定義するのかわからないが、素材の良さを楽しめる人々にとって、味わいもまた機能である。




 そんな、とっておきのジャケットのよさ、それを車に見出すなんて無茶なことだろうか。




 ジャケットやスーツには、ロンドン、ニューヨーク、ミラノ、パリといったようにそれぞれの特徴が備わっているが、クルマもまさに同様。国柄がひとつの特徴となることは間違いない。そしてさらに、ブランドごとに魅力を持っているのも当然のこと。さしずめプジョー508はフレンチ・ジャケットの最先端である。




 プジョー508の属するDセグメントのサルーンといえば、ハイエンドのセダンを中心とする、どちらかといえばフォーマルな装いのモデルたちがひしめく。しかし、その価値観も微妙にだが変化を果たしている。いや、正確にいうならば、否応なく変化・進化を求められている。




 その大きな要因は、ひとつにはクロスオーバーSUVの台頭だ。フォーマルまで視野に入るほどの装いを持ちつつも、広い室内空間、十分以上の荷室、そして快適な乗り心地を備えた点においては、この上ないセダンの進化型といえなくもない。ヘビーデューティなアウトドアギアをファッショナブルにストリートダウンした感覚とうまく融合した一種のトレンドだ。また昨今、ショーファードリブン・モデルが、ハイエンドセダンからハイエンドミニバンに移行しつつあることも、そのひとつの時代の流れとなっているともいえる。とはいえ、荷室との仕切りがないことに、やや生活感が滲み出る点は如何ともしがたいが……。

この佇まいでハッチバック、というのも驚き。荷室空間を大切にするプジョーだが、これまでの歴史の中で80年代に登場した309以来の5ドアハッチ。

サルーンであること、セダンの価値

 ならば、サルーンに求められるものは何なのか? 新型508の開発はここから始まった。考え方のすべてを新しくしたというその開発は、これまでのセダンの価値を研ぎ澄ます、あるいは大きく抜け出すものだった。




 基本的にエンジンルーム、キャビン、トランクを分けた3ボックス=セダンの魅力とは何なのか。未だ世界の多くのメーカーがハイエンドモデルとしてセダンを擁する。




 かつてのセダンの利点は、快適性にあった。キャビンとエンジンを分離することでの静粛性。そして、トランクを分離することでの静粛だけにとどまらない静謐さを手に入れた。また、ミニバンやSUVと異なり、ヒップポイントを下げた着座位置は、アップライトに腰高に座るダイニングの椅子ではなくリビングのソファに座る感覚を実現できる。また、このパッケージでのスペース効率は良くないが、低重心に大いに貢献する。これは走行性能を高めるだけでなく、走行中の揺れを抑えることにもなる。




 車のあらゆる性能の中で、過大な要求は取り込まず必要にして十分な要素でまとめる。そこがまた、セダンとしての立ち位置として重要なポイントでもあったと思う。




 この価値観をしっかりと見据え、どこを特化させどこを我慢してもいいのか、それをこれから先のセダン像という指針に当てはめて生まれたのが、新型508だ。




 その特徴をハードウエアから見ていこう。まず注目されるのは、先代からコンパクトとなったとされるその寸法だ。先代モデル最終型セダン(SW)の3サイズL×W×Hは4790(4815)×1855×1455(1505)㎜、ホイールベースは2815㎜。そして重量が1520(1560)㎏(1.6ℓガソリン仕様)だった。対する新型ファストバック(SW)は4750(4790)×1860×1420㎜、ホイールベースは2800㎜。重量1500(1540)㎏(1.6ℓガソリン仕様ベースモデル)となっている。




 やや短く、低くなり、少しだけ幅広になったのが新型だ。ホイールベースまで短くなっている点もポイントで、パッケージの狙いは運動性能の向上にある。また、注目なのはサッシレス・ドアを採用したことだ。サッシレスとは、ドアにある窓枠がない構造のことで、主にスポーツカーやクーペに用いられる手法。ルーフを低くし、サイドウインドウのラインを綺麗に見せることができる。また室内からは窓枠がないので、ウインドウのサイズのわりに風景も広く見せることができるというメリットを持っている。



全高を抑えるなど、現代ではあまり主張されないポイントを突いてきたのも痛快。乗降性はともかく、乗ってしまえばヘッドクリアランスも十分。

走りの楽しさのベンチマークを目指して

 プジョーのプロダクト・ディレクター、ローラン・ブランシェは「プジョーにおいて、ドライビング・プレジャーは必須の要素となっています。さらに新型508の狙いは、模範的なハンドリングを実現するだけでなく、このセグメントの中でドライビング・プレジャーのベンチマークとなることなのです。そのために、最新のEMP2プラットフォームとプジョー・iコックピット(PEUGEOT i・Cockpit R)を最大限駆使しました」という。




 原来プジョーにとってその特徴は、「ネコ足」と言われるしなやかな乗り味。そ


の快適さや運転の楽しさは、最大の魅力とされてきた。その特性は時代なりに進化してきたが、さらなる進化が果たされたのだという。




 サスペンションは、フロントがストラット式で、リヤがマルチリンク式を採用。プジョーのハイエンドモデルがFF化されたのは、1989年登場の605からだったが、当時のリヤサスペンションはダブルウイッシュボーン式を採用。その後継となった607でもダブルウイッシュボーン式を継承した。ある意味プジョーの技術的ハイライトはリヤサスペンションにあるともいえ、205から始まるトレーリングアーム式はバネをコイルではないトーションバーを横置きとし、ダンパーは限りなく水平に近く寝かせることで、広くスクエアな荷室を実現に貢献。




 併せて406ではトレーリングリンクを持つマルチリンク式を採用した。




 さらに407からは新たなフェーズへ。一歩進めてマルチリンク式を採用した。しかも注目はその構造で、サブフレームは左右にわたる、チューブ状の筒となっている。この内側にアームを組み込み、さらにコイルバネとダンパーもセットする。もうお判りだろう。フラットでスクエアな荷室を構成し、なおかつこれまでにない高剛性をも手に入れるサスペンションなのだ。




 当初のトレーリングアーム時代からのアイデアが活かされ、さらにその時代からの悩み=横剛性の確保が見事に実現されたのである。このサスペンションは先代の508そして新型でも採用され、ハイエンド・プジョーの定番の足となった。




 そしてさらに注目なのが、ボディ骨格。すぐにわかるところはフロントドアとリヤドアの仕切りとなっている、Bピラーだ。このサイズがかなり太い。そうして見るとフロント側のAピラー、リヤ側のCピラーもかなり太い。これらがボディ剛性のアップに貢献しているのはいうまでもない。それでいてこのボディを構築するEMP2というプラットフォームは、従来よりも70㎏も軽量化されているという。

プジョー必須の高いハードウェア性能も実現

 こうしたキャビンと併せながら、用意されたのはファストバックとステーションワゴンという2種類のハッチゲートを持つボディ形態だ。プジョーにとって5ドアのファストバックというスタイルは、極めて例が少ない。現代から時代を振り返ってみても30年以上前の1985年に登場した309にまで遡る。異端ともいえたこのモデルだが、後席を畳んだ時のその収納力は驚異的。前述のトレーリングアーム時代から深くスクエアな荷室は、高い収納能力を誇示した。さらに406以降では、現代に到るまでセダンにも6対4分割式のトランクスルー構造を持たせている。それどころか、406クーペや607クーペにまでその構造は継承され、想像以上の高い荷搬性能はプジョーの大きな特徴となっている。




 この考え方が、最新の508に単なるセダンにとどまらずリヤゲートを持つファストバックを採用させた。5ドアハッチバックというスタイル自体は30年ぶりということになるのだが、ここにきてプジョー開発陣がまったく自然に登場させてきたのには、こんな経緯があったからだと思う。




 そしてさらに前述した太いBピラーの謎。ここ一連のプジョーを見るとピラーの太さはトレンドとなっている。その中で剛性アップはわかるが、なぜそこまでに508で意識されたのか。その答えが、セダンとしての王道の考え方にあると思う。先代の508は普通に4ドアセダンだったが、ファストバックとなってもそのセダンとしての"質"は確保したい。それが静謐さである。一般的にハッチゲートがあり居住空間と荷室が分離されていないクルマでは、暗騒音が抑えがたく車の質を下げてしまうことになる。しかし508では圧倒的にボディ剛性を高めて、元から荷室の暗騒音を抑え込むことで、セダンとしての質をさらに高めている。




 また、日本仕様のエンジンは1.6ℓ直列4気筒ガソリンターボと2.0ℓ直列4気筒ディーゼル・ターボの2種類。大排気量ガソリンエンジンに対して、振動・騒音面で不利になるものの、徹底した騒音対策が施される。




 アクティブ・サスペンションも、基本的にスポーツ、標準、コンフォートと切り替え式だが、単にサスペンションだけでなく、ステアリングの重さ、アクセル特性、変速特性までをも制御する。




 このモードは508をある時はスポーツカーに、そしてある時は快適なセダン、そしてかつてのふんわりとしたフレンチ・リムジンという3つの顔を1台の車で持ち併せさせた。




 世界的な大きな進化の中で、クルマはより実用性一辺倒という画一的な方向に進まざるを得なくなっている。その中にあってサルーンとして、静かで豊かな空間や、安定した走り心地を実現。ダイニングの椅子は何かの目的のために座る、効率の良いツールだ。対するリビングのソファは、体を休めたり空間を楽しんだりというように目的はまったく異なる。




 プジョーというジャケットを選ぶ意味とは、"移動する"という目的に縛られない安堵感を常に提供してくれる点、そして新しさに恐れずトライし、次の価値へと誘うアバンギャルドな魅力。そして決して主張しない、隠された実用性の高さ。伝統的な技術、考え方に裏打ちされながらも、まったくトラッドではない着崩し自在なジャケット、それが新型508なのである。

i-Cockpitを具現化したインテリア

インテリアに関しても、まずDセグメントの中で最も個性的と言えるのがプジョー。i-Cockpitなど、他にない考え方を貫き、独自のフィロソフィに溢れる。

荷室容量の拡大

期待以上の使い勝手も魅力のひとつ。後席を倒した荷室拡大術は、クーペでも備わっていたのがプジョー。508の格納はシートバックを倒すワンアクションとなり、ファストバックであっても自在に使い倒せる。

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