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SUBARU STI Type S:まもなく終焉を迎えるEJ20搭載の味わい深いハイスピードAWDスポーツ


400万円でこんな高性能なAWDスポーツカーが手に入るのは、もういまだけだろう。日本を代表する、いや世界を見回しても絶滅寸前となったハイパワー全天候ハイスピードAWDスポーツ、スバルWRX STIで500kmドライブ。500km一気に走って、感じたこと、マークした燃費は?

絶滅の危機に直面するEJ20+センターデフ付きAWD

WRX STIはEJ20型2.0ℓ水平対向4気筒ツインスクロールターボを載せる。EJ20型水平対向エンジンがデビューしたのは1989年。初代レガシィとともに登場し、永年スバルの主力エンジンとして第一線で活躍してきた

 個人的な想いを言わせていただければ、WRXといえば、WRCであり、インプレッサWRXであり、コリン・マクレーであり、カルロス・サインツであり、リチャード・バーンズである。


 1995年、初めて取材したWRCがRACラリーで、そこで優勝してチャンピオンに輝いたマクレー、そしてマニュファクチャラーズタイトルを初めて獲ったスバル。そのマシンこそがWRXだった。WRとはワールドラリーに他ならない。




 というようなことがあって、WRXは好きなクルマの一台だ。同時に、現在のインプレッサが付かない、WRCにも参戦しないWRXに対しても、ちょっと複雑なキモチがあるわけだが。

全長×全幅×全高:4595mm×1795mm×1475mm ホイールベース:2650mm

車重:1490kg(試乗車は1510kg)前軸軸重 900kg 後軸軸重610kg
最小回転半径は5.6m


 と、ちょっと長い前置きになってしまったが、久しぶりにWRXに試乗しようと思った理由が2つある。


 ひとつめは、長い歴史を誇る、「名機」EJ20型エンジンの最終版に乗ってみたかったということ。EJ20は1989年デビューだから30年選手なのだ。ビッグボア、ショートストロークをいう20世紀型高出力エンジンの代表選手であるEJ20も、そろそろ生産中止の声がちらほら聞こえてきた。




 WRXには、WRX S4とWRX STIの2つのシリーズがあるが、より正当な血統を受け継いでいるのはWRX STIだ。S4が新世代のFA型2.0ℓ水平対向4気筒直噴ターボを積むのに対して、STIはすでに伝統芸能の域に達しているEJ20型を積む。


 そのEJ20型を積むのは、いまや日本仕様のWRX STIのみ。北米仕様のWRX STIはもともと2.5ℓのEJ25ターボを積むし、欧州仕様も同じ。しかも欧州仕様は2018年に「the Final Edition 2.5i WRX STI」を限定販売して、現在はすでにラインアップにない。




 次期WRXにEJ20型が搭載されることはないから、EJ20型が欲しいとなれば、最後のチャンスが近づいている(と思う)。

形式:2.0ℓ水平対向4気筒ターボ 型式:EJ20 排気量:1994cc ボア×ストローク:92.0×75.0mm 圧縮比:8.0 最高出力:308ps(227kW)/6400pm 最大トルク:422Nm/4400rpm 燃料供給:PFI 燃料:プレミアム

 もうひとつは、これまた絶滅危惧種である「センターデフ付きフルタイムAWD」に乗ってみたかったということがある。


 かつてあれほどさまざまな技術的なトライがされてきたAWDシステム。両雄といえばクワトロのアウディと、このスバルだ。アウディは名前こそクワトロを名乗るが、センターデフを持つAWDモデルは上級モデルでないと設定がない。A4クワトロもいまや普通のオンデマンドAWDだ。




 厳しくなる燃費規制と進化したESC(電子制御スタビリティコントロール)のおかげで、AWDは肩身が狭くなっている。雪道用の生活AWDならセンターデフ式でなく、オンデマンドのカップリングを使ったAWDで事足りる。正確に言えば、かつて隆盛を誇った超ハイスピード対応スポーツAWDが絶滅危惧種ということなのだ。電動リヤアクスルの採用が進めば、センターデフ付きのAWD車は、本当に絶滅危機に瀕することになるだろう。

マルチモードDCCDは、センターデフをもつAWDシステム。前後輪の行動力配分をプラネタリーギヤで前41:後59に設定。また、スイッチ操作で前後輪の差動制限トルクを4つの制御モードから選択可能。試乗中は、AUTOモードにしていた

エンジンをかける

ステアリングのギヤ比は13:1

 ステアリングコラム右側のエンジン始動ボタンを押してエンジンを始動。ハイパフォーマンスカーらしく豪快な音とともにエンジンが目覚める。正直、最新のディーゼルエンジンなんて無音みたいなもんだ、と思うほど大きな音がする。深夜や早朝に住宅街でエンジンをかけるのはちょっと気がひけるほどだ。

クラッチペダル、シフトの手応えは絶妙。操作は軽くないが、重すぎることはない

 トランスミッションは6速MT。踏み応えのあるクラッチペダルだが、重すぎはしない。クラッチミートも難しくない。今回のドライブでは高速道路の渋滞にかなりはまったが、左足が音を上げるほどではなかった。むしろクラッチとシフトレバーを操作するのが楽しかった。


 これまでのカーライフで一度でもMTのクルマを所有したことがある人なら、まったく問題なくすぐに慣れる。自転車や水泳と同じで、一度体得したことは何年経っても身体が覚えている。

ギヤ比 第1速:3.636 第2速:2.375 第3速:1.761 第4速:1.346 第5速:1.062 第6速:0.842 後退:3.545 最終減速比:3.900
ABCペダルの位置も重さも文句なし


 WRX STIに乗って感じるのは、「濃密な手応え」だ。アクセルを踏む、シリンダー内で圧縮された混合気に火花が飛んで燃焼してピストンを押し下げる。8.0は、現在量産市販車でもっとも低い圧縮比だ。高過給の弊害であるターボラグは、ツインスクロールターボでカバーするが、それでも現代流ターボとは一味もふた味も違う。


 ステアリングを切る。がっちりしたボディとステアリングコラム周りの剛性の高さの手応えを感じる。ステアリングホイールから伝わって路面情報の「濃さ」は、これまた絶滅寸前の「油圧式パワーステアリング」によるものなのだろうか(日産GT-R、フェアレディZも油圧式)。




 路面の荒れた首都高速を走っても、ボディ剛性が非常に高いから、脚が固くても乗り心地は悪くない。これまたGT-Rと共通する乗り味だ。一度ポジションを決めれば、お尻の位置を動かすことなくしっかりとホールドしてくれるレカロ・シートの出来の良さ。




 WRX STIの性能をフルに引き出すには、高いドライビングスキルが必要だ。しかし、WRXの世界は、(MTが操作できれば)誰でも味わえる。しかもかなり濃い味を。日産GT-Rでも感じたが、いいスポーツカーは、速度域にかかわらず、クルマを操る楽しさを味わわせてくれる。高速道路を制限速度内で走っていても、都内の交差点をゆっくり曲がっても、正確にクルマを操作し、思い通りにクルマが動いてくれる快感にひたれる。




 そのかわり、「なんとなく移動する」「ながら運転」は許容してくれない。正確にステアリングを切り、アクセル/ブレーキ/クラッチペダルとシフトレバーを連動させてクルマを動かすには、きちんとWRXと向き合うことを要求される。




 それが気持ちいいと感じられる人のためのクルマなのだ。

まずは大渋滞に遭遇

 WRX STIを借り出した翌日、向かった先は「学生フォーミュラ大会」が開催されている「エコパ(小笠山総合運動公園)」である。


 朝7時半に東名高速道路に乗り入れると、大渋滞が待っていた。WRX STIには、当然ACCなどあろうはずもなく、ノロノロ運転、ときに止まるようなシチュエーションで、クラッチとシフトの操作を続けた。が、前述したように、全然嫌にならない。シートの出来も相まって、身体が無駄にブレないからだろうか。




 渋滞を抜けると、今度は前方がほとんど見えなくなるくらいの豪雨が待っていた。時に右輪だけは水たまりという路面状況で、WRX STIのマルチモードDCCD式AWDは圧倒的な性能の高さを見せてくれた。というより、前をしっかり見てステアリングホイールを握り、アクセルを踏んでさえいれば、思い通りに走り曲がってくれるのだ。




 東名高速の路面は(新東名と比べて)お世辞にもいいとは言えない。その上、悪天候だ。ひどい条件になればなるほど、WRX STIの走行性能は輝きを見せる。

インテリアの質感はけっして高いとは言えない。パーキングブレーキは、機械式。サイドブレーキバーがあるのも、いい意味で古臭い

今回は後席の乗り心地のチェックは行えなかった
試乗車はメーカーオプションのレカロシートを装着していた。いいシートである


持ち込んだCDは、イエスの『危機(Close To The Edge)』。1972年発表のプログレッシブロックの金字塔的アルバムだが、WRXの車内は、音楽を聴くのには適していないことが確認できた。

 WRX STIのドライブは、とても楽しい。ただし、その楽しさは、ドライバーのもの。車内は盛大なロードノイズとエンジン音に満たされている。とくにロードノイズは大きいから、高速道路で音楽を楽しむ、同乗者(とくに後席とはほぼ無理か)との楽しい会話、なんてものはなかなか成立しない。とにかく、「運転」に正面から向き合えば、WRX STIからは「濃密な手応え」が返ってくる。この関係性がいい。

全長×全幅×全高:4595mm×1795mm×1475mmというボディサイズも、いまや絶妙。このサイズがいい

 WRX STIで走れば1日500kmのドライブは苦痛ではなく楽しみだ。参考までに書いておくと


100km/h巡航時のエンジン回転数は2650rpm


110km/h巡航時のエンジン回転数は2900rpm


 ほどである。


 日産GT-Rの100km/h巡航時のエンジン回転数が2100rpmほどだったから、WRX STIのそれは、やはり現在の水準から考えると高めだ。高速走行で車内がやかましい原因のひとつはそこにあるが、MTのギヤ段数は6速が常識的な上限だから、ここは仕方ない。というより、電動デバイスなしのハイパワーエンジンをMTで操れるクルマが、まだあってくれることを感謝した方がいいかもしれない。

ブレンボ製フロント18インチベンチレーテッドディスクブレーキ フロントは対向6ポット、リヤは対向2ポット
トランクは460ℓ(VDA法で)。後席は分割可倒式


 東京からエコパまで往復500.3km走って給油した。もちろん、ハイオクである。給油量は53.93ℓ(タンク容量は60ℓ)。満タン法でいくと9.63km/ℓだった。車載の燃費計では9.5km/ℓとなっていた。


 JC08モード燃費が9.4km/ℓだから、ほぼモード燃費通りと言える。が、高速道路の走行が多かったことを考えると、もう少し伸びてほしかった。ちなみに、1月前に試乗したGT-Rは、9.2km/ℓだったから、GT-RとWRXの燃費はほぼ同じ。




 けっして燃費は良くない。が、燃費を求めるなら選べるクルマはいくらでもある。ただし、「濃密な手応え」が楽しめる(楽しいと思う人には、だが)クルマは、いまやこのWRX STIと日産GT-Rくらいしかない。車両価格400万円程度で、この手応えを手に入れられるとなれば、もう世界的に見てもWRX STIしかない。

欧州では英国で2018年に150台限定でthe Final Edition 2.5i WRX STIが販売されて、現在ではラインアップにない。

 このWRX STIもおそらく次期型はEJ20ターボではなく、FA20ターボを搭載するだろうし、もちろん多くの面で「近代化」するだろう。燃費も良くなるだろうし、ドライバー支援技術もさまざま載ってくるだろう。パワーステアリングは電動化されるだろうし、コネクティビティも大きく向上するだろう。




 自動車の進化とはそういうものだ。だが、2019年初秋の時期に、まだ新車でスバルWRX STIを注文できるのは、ある種の幸運と言えるかもしれない。


 こんなクルマ、もう作れないし、もう売ることができなくなる。もし、WRX STIにご興味があれば、最後の買い時は、いま、である。

WRXは2014年発売。プラットフォームはレヴォーグと共通

スバルWRX STI Type S


全長×全幅×全高:4595mm×1795mm×1475mm


ホイールベース:2650mm


車重:1490kg(試乗車は1510kg)


サスペンション:Fストラット式 Rダブルウィッシュボーン式


駆動方式:フルタイムAWD


エンジン


形式:2.0ℓ水平対向4気筒ターボ


型式:EJ20


排気量:1994cc


ボア×ストローク:92.0×75.0mm


圧縮比:8.0


最高出力:308ps(227kW)/6400pm


最大トルク:422Nm/4400rpm


燃料供給:PFI


燃料:プレミアム


燃料タンク:60ℓ


燃費:JC08モード 9.4km/ℓ


トランスミッション:6速MT


車両本体価格:406万800円


試乗車はオプション込みで443万8800円

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