人生100年時代と叫ばれる中、将来に備えて貯蓄や資産運用が求められている。けれども、「いま、この瞬間しか楽しめない」ことがあるのも忘れてはならない。「BMW・M2コンペティション」に乗って、その大切さを噛み締めた。



TEXT●今 総一郎(KON Soichiro)

 金融庁の報告書によると、人生100年時代を迎えるにあたって、夫(65歳以上)/妻(60歳)以上の無職世帯で30年間生き続けるには2000万円が必要であり、支出の見直しや資産運用を行なう必要があるそうだ。



 もはや生まれた瞬間から老後に備えなければならない。お年玉も、お小遣いも、働いて得た賃金さえも、すべて貯蓄に回さないとジリ貧になるのだろう。



 暮らしは質素になるばかりだ。朝起きたら一杯の白湯を飲み、食事は三食とも塩を少々振りかけたサラダを食べ、暇さえあればジョギングするような日々が迫っていても不思議ではない。にも関わらず「BMW・M2コンペティション」に乗ろうものなら、質素倹約で良識と正義感に満ちた善良な一般市民から一斉に糾弾されそうだ。

「反逆者であれ」

 ホームページに踊るそんなフレーズの通り、「M2コンペティション」は情熱とユーモアそして狂気の産物だ。



 厳ついフロントマスクや張り出したフェンダーは相変わらずだが、ハイグロス・ブラック仕上げのキドニーグリルや冷却性能を高めたエアインテーク、専用デザインの19インチホイールとその奥に輝くMスポーツ・ブレーキなどで、さりげなく凄みを利かせている。ド派手なウイングやカラフルなストライプなどの装飾はなく、かえって不気味だ。

 エンジンを掛けた瞬間、やはり只者ではなかった。「M4」と同じ3.0L直列6気筒ターボは最高出力が410psと「M4(431ps)」よりもわずかに下回るが、響かせるサウンドは空気を震わせる振動がはっきりと感じ取れるほど圧が強く、平穏や節度とは無縁の獰猛さに溢れている。



 車両重量は6速MTで1610kgと「M4」と同じだが、「M2コンペティション」は全長:4475mm×全幅:1855mm×全高:1410mmと、全長と全幅がひと回り小さい。「M4」は速さに加えて、ゆったりと寛げるような居心地の良さもあったが、「M2」はボディサイズのわずかな差が「機敏さ」として「速さ」を際立てる。「M4」が足し算なら、「M2」は掛け算だ。

 それにしても乗り心地が悪い。専用に強化されたサスペンションもだが、シートが硬すぎて、衝撃が骨の髄まで響く。速度が上がれば多少マシになると思って、アクセルを踏んだところ……2000rpmを境に突如牙を剥いてきた。飼い犬に手を噛まれたとか、そんな可愛いレベルではなく、添い寝していたペットの虎が喰い殺しにきたような感じだ。目の前の状況に着いていくのがやっとと思えるほど、強烈に加速していく。乗り心地など考える余裕はない。

 彼方に見えていたコーナーに吸い込まれるようにストレートを貫き、コーナー入り口でなんとかブレーキッ! すると、今度は後ろから引っ張られたように強烈に減速する。ハンドルを切れば、荷重が掛かった前輪を軸にクルッと向きを変える。タイトコーナーでもアウト側は粘り強く踏ん張り、コーナーの出口が見えれば怒涛のトルクを後輪に叩き込んで、再びストレートへ突入していく。

 力の入れ具合さえ掴めてしまえば、加減速から操舵に至るまで自由自在にコントロールできる。過激なエンジンだけが目立っているのではなく、一連の動きのまとまりが良いのだ。メインボーカルのエンジンだけでなく、ブレーキやサスペンションもギタリストやベーシストとしてバンドを支えており、身体の芯にズンと響くような厚みと表現力に浸れる。



老後の蓄えの半分に相当するが……

 価格は6速MTが876万円、7速DCTが901万円と、老後の蓄えの約半分に相当する。



 しかし、結局のところ、人生100年の後半はエコランを強いられるのだろう。どんなに長く生きるとしても、いずれはスポーティなシートに収まるのがキツくなるほど下っ腹が出て、アナログメーターが示す数値が分からなくほど老眼が進み、6速MTのクラッチを踏めないほど足腰は弱まり、運転に必要な判断力と運動能力を失う。

 だから「M2コンペティション」に乗れる時間は短いのだ。そんな時間を好き放題に駆け抜けたいなら、このクルマを選ぶのは早いに越したことはない。



 ところで、ある国会議員が「子供を3人以上は育てるように」とお願いしていたけれど、それは難しい相談だ。「M2コンペティション」には4人しか乗れない。

情報提供元:MotorFan
記事名:「 人生100年時代に叫ぶ!老後の備えよりも「BMW M2コンペティション」!〈試乗記〉