その登場から50余年の間で二回目のモデルチェンジを迎えたセンチュリーは、数多くの台数を販売して利益を上げるために開発される量販車とは異なり、工業製品でありながら、工芸品の域に踏み込むようなものづくりが施されている。

TOYOTAの誇りとともに、最高の素材と技術の枠を集め、地道に手間暇を掛けてつくりあげられるセンチュリーの技術背景を紹介する。



図版解説●安藤 眞/編集部

将来的な体格の向上も見込んで設計された室内空間

ホイールベースが伸ばされ、前後座席の間隔が広げられたほか、頭上スペースも拡大され、よりくつろぎやすい空間となった後席。パッケージングの基本は日本人の体型に合わせたものだが、この余裕の空間は将来的な体格の向上への対応も考えられている。

パワートレーンはV8エンジン+ハイブリッド

パワートレーンはレクサスLS600hと同じ、V8ハイブリッドシステムを搭載する。エンジンは2UR-FSE型。排気量4968㏄のV型8気筒エンジンだ。燃料噴射は直噴とポート噴射を併用するD-4S。動弁系はローラーロッカーアームを介したDOHC4バルブで、吸排気両側のカムシャフトにタイミング可変機構を装備する(吸気側は電動)。ハイブリッドシステムは、遊星歯車でエンジンとモーターの分担率をシームレスに変えるTHS-Ⅱ。走行用バッテリーは、実績のあるニッケル水素式を採用する。

和装やロングドレスでもOK。



乗り降りのしやすさや所作の美しさまでもが考えられ、段差が消された後席サイドステップ部。しかしその実現は次頁で解説するように簡単なものではなかったが、仕入先も含めたオールトヨタの技術と熱意で達成された。

乗り降りを美しく見せるための工夫

上体の動きや足さばきの美しさのため、フラットな後席フロアに加えてドアの開口形状やヒップポイントの高さも検討が重ねられ、最適な数値が導き出された。

最上のリラックスを提供する

幅広い体格の乗員を想定した上、脚部各部位の角度や支持具合、重心の位置までが検討され、不快な圧迫などを回避。フットレストとオットマンという2つの使い方を実現し、理想的なくつろぎを提供する。

美しい空間のための緻密な調整

前後席を隔てる壁となる前席シートバックと大型のタワーコンソールは、ともに水平基調のため、わずかな傾きも目立ってしまう。対策としてコンソールの平行を調整できる機構が盛り込まれた。

各部の握り具合を統一し違和感を徹底排除

ドアアームレストやグリップなど、後席乗員が触れる部分の形状や触感を統一している。完成してしまうと、その違和感のなさから気づきにくい部分だが、「気にならない」ということが最高のもてなしということだろう。



ルーフアシストグリップ


分割された部位も木目の連続性を確保

後席センターアームレストの加飾にも本杢を使用。連続感が損なわれないよう、3ヵ所のパネルが1枚の板から取られている。突き板はヤマハが加工し、各サプライヤーに送られる。

手触りや操作感も譲れないポイント

アルミダイキャスト製のインサイドドアハンドルは、センチュリーの伝統のひとつ。触った瞬間のひんやり感や操作時のしっかり感は、プラスチックでは決して出すことができない。

乗り心地に妥協を許さない後席シート

後席クッションには、Sバネに加えてコイルバネも併用。ストロークを大きく取ることで、底突き感のないゆったりとした乗り心地を実現する。黄色いバネは乗降時の支持用で、外側に付いている。

”量産車”とは一線を画す品質管理

ボディは微妙な傷や歪みまで職人の手作業で修正される。パネル単体や組み立て公差も一般的なモデルより厳しいほか、各工程で寸法精度が測定され、ヒストリーブックに記録されて履歴を残すようになっている。

常識を覆す構造を実現し目的を達成

通常は直線的に通すサイドロッカーだが、センチュリーは後席の乗降性を良くするため、後席側を低くしている。中に入れる補強部材も、それに合わせてBピラー部で断面を徐変。屈曲部が絞り形状となるため、ここにシワや亀裂を生じさせないプレス技術の開発に努力を要した。

新型のアイデンティティを表現するための新たな後方



“几帳面”と呼ばれるキャラクターラインは、3Rの凹部と凸部に挟まれた幅6㎜の平面によって構成されている。これをきれいにプレスするのも難しかったが、ドア開口部のヘミング(折り返し)をきれいに仕上げるのに工夫を要した。凹部と凸部に囲まれた細い面を折り返すため、板が寄せられ、しわが寄ってしまうのだ。そこでドアを絞り成形する段階で、ヘミング部を軽く折っておき、ローラーを使って端から逐次曲げを行ない、解決を図った。

コストを惜しまずに効果優先で最大限に活用する

単にボディ剛性を高めるだけなら、レーザー溶接を導入する方法もあるが、センチュリーは内部損失による減衰効果も得られる構造用接着剤を優先的に使用。カウルやヘッダー、アンダーフロアなどは、減衰効果を重視した部位だ。

クルマとしての空力性能の大半は床下で

空力性能に関しては、主に床下で対応。アッパーボディはあくまで、デザインの品格を優先させた。床下にはほぼ全面にアンダーカバーを設定してCd値を低減。加えて、随所に整流用のフィンを設定。ここを基点に、進行方向に軸を持つ渦を発生させ、横風安定性を向上させている。

4チャンネルの最新ノイズコントロール

オーディオシステムを利用して車内騒音を打ち消すアクティブノイズコントロールを装備。ルーフに付けられた4つのマイクでエンジンのこもり音を検出し、スピーカーから逆位相の音を出して打ち消してしまうシステムだ。

振動とエンジン透過音の遮断

NVブレースによるガラスの振動、制振材によるカウルの振動を抑制したほか、シールスポンジや構造接着剤を採用。振動によるこもり音の抑制とエンジン透過音を低減した。

静粛性を高めるために徹底された吸遮音対策

天井の吸遮音も徹底しており、ゴム系制振材の上からスポンジを貼り、さらにシンサレート(極細ポリエステル綿)の吸音材を積層。骨格以外の平面部をすべて覆い、雨音がキャビンに伝わらないようにしている。

手彫りの金型を忠実に再現する鳳凰エンブレム

鳳凰のエンブレムは無垢の金属のように見えるが、金型を使用してポリカーボネート樹脂で成形し、鳳凰の部分を黄色に着色、ミリ波に影響を与えないインジウムを蒸着させてソリッドに見せている。金型は熟練の彫金師がたがねで手彫りしたもので、彫り上げるのに約1ヵ月半を要した。NC工作機械では刃物が回転式となるため、最小Rは0.3 ㎜程度が限界となり、羽毛の繊細さは表現できない。しかし、刃先で削いでいくたがねなら、10分の1の0.03Rぐらいまでの表現が可能になる。

圧倒的な存在感を発する漆黒の塗装

センチュリーを象徴するエターナルブラックは、他色に増してこだわりを持ってつくられている。輪島の漆塗りを参考に、新たな塗料の採用のみならず、他車では考えられない工数を掛けた塗装方法も採用。

熟練の匠の技で磨きが掛けられる



塗装面の研磨は従来と同じく、熟練工の手で3回、水研ぎが行なわれている。水研ぎに掛かる時間は、1回当たり約1.5時間。ひとりの職人がボディの半分を担当し、息の合ったペアで作業する。この工程を担当できるようになるまでに、3〜5年の修行を要するそうだ。

タイヤで発生する騒音を減衰するホイール

ホイールには、ノイズリダクション構造を採用。リム部に空洞を設けてタイヤ側に穴を開け、空洞部をレゾネーター(共振式消音器)として利用。ロードノイズがタイヤ内部で共鳴することによって発生する210Hz付近の音圧を低減している。空洞部は中子による鋳造ではなく、リムをスピニング成形する際に同時に延ばし、端部を溶接して形成する。

専用設計の静音タイヤを採用

タイヤはブリヂストンのレグノGR001だが、市販のものとは異なる専用設計品。トレッド面のゴムの厚さを大幅に増やすことで、バネ定数を低くすると同時に、接地面にディンプルホールを設け、ゴムが変形する際の“逃げしろ”を確保。クルマが動き出す際の微細な振動を吸収し、圧倒的に滑らかな走り出しを実現している。

特徴的な輝きの仕組み

リヤコンビネーションランプには、行燈をモチーフにしたデザインが取り入れられている。構造はアクリルレンズによる導光式で、LED 光源はレンズの端部に装着。半円筒形のレンズには、光を反射するためのスリットが切られており、これが行燈の桟のように光る。円筒の両端部には金属を蒸着して鏡面エクステンションが設定されており、スリットの光をここに反射させ、円筒が奥まで続いているように見せている。

ボディ下部を一周するメッキの輝き

こちらもセンチュリー伝統の意匠であるメッキパーツ。ABS製の大きな部品であるため均一な加工が難しく、工法の確立が工夫された。また、各部で輝きに差が出ぬようにグロス値とパーツ管理が行なわれる。

足まわりはLS600hをベースに各部を新設計

サスペンションはレクサスLS600hのものがベースとなっているが、図の赤で囲まれた部品は新設計。優れたジオメトリーを共用しながら、ブッシュ類のフリクション低減やアームの剛性バランス調整など、ほとんどの部品に改良の手が入っている。

フロントサスペンション

リヤサスペンション

フラットで上質な乗り心地をもたらすジオメトリー



フロントはインホイール型のダブルウイッシュボーンから、ハイマウントアッパーアーム方式に変更。支持スパンを広げることで、横剛性を大幅に高めた。また、ナックルアーム長を長く取ることで、旋回時のトー剛性も向上させている。

トヨタ初の新構造を採用



エアサスはエアボリュームを大きくするほど乗り心地が良くなるため、フロントにはサブチャンバーを追加し、リヤは全長を延ばして容量を拡大。「ピストンテーパ角」と書かれているのが、実効重圧面積を小さくした部分。

フラットな乗り心地に貢献する可変ダイバー

電子制御可変ダンパーのAVSを標準装備。一般的なダンパーは二重管で、ピストンバルブとベースバルブで減衰力を出すが、これを三重管として、真ん中を伸/圧両側の流路に使用。外側に付けたソレノイドバルブで伸/圧両側の減衰力を制御する。

細部の地道な対策も施し走りの完成度を高める



走り出しの微少域でのゴツゴツ感を低減するために、フリクションの低減対策を徹底。ボールジョイントはグリスを低抵抗タイプのものに変更。スタビライザーのクランプ部にはテフロンコートを施した。

不要な挙動を抑制するセッティング

バネ定数を下げれば、加減速時の姿勢変化が大きくなりやすい。そこでリヤサスにアンチリフト&スクワットジオメトリーを採用。瞬間中心を高くし、力の釣り合いを利用して姿勢変化を抑えた。



安定した運転を支援する操舵感

ステアリングのラックギヤは、マウントの方法を変更。ギヤボックスに開けた穴を使った3点止めとすることで支持剛性を高め、操舵時にギヤボックス全体が動いてしまうのを抑えた。

不快な振動を抑制する液封マウント

リヤサスサブフレームのマウントは、柔らかくしたほうがゴツゴツ感は低減できるが、減衰が遅れてブルブル感が残ってしまう。そこでオイルの抵抗で減衰力を発生する液封マウントを新たに採用している。

情報提供元:MotorFan
記事名:「 トヨタ・センチュリーのメカニズムを徹底解説!