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トヨタ・センチュリーをメルセデス・マイバッハSクラス、ロールスロイス・ファントムと徹底比較!「ライバル車比較インプレッション」


「長き歴史と発展した自動車文化を持つ三ヵ国、日独英が誇るショーファードリブンの世界観を探る。」すべての性能と機能が、後席に座るパッセンジャーが安全、快適に移動するために考え尽くされ、磨き抜かれるショーファーカーは、それぞれのお国柄やホスピタリティに対する考え方が如実に現れていた。




REPORT●渡辺敏史(WATANABE Satoshi)


PHOTO●藤井元輔(FUJI Motosuke)/神村 聖(KAMIMURA Satoshi)/宮門秀行(MIYAKADO Hiroyuki)

ビジネスシーンにも自然に対応できる秘匿性も併せ持つ

 先代50系の登場から数えて21年の2018年。満を持して、センチュリーは60系へと完全刷新された。その半世紀以上の歴史の中で、受け継ぎ守り続けてきた最も大切なことといえば、後席最優先のエンジニアリングを貫くことだ。所有者であれ賓客であれ、主が座るのは前ではなく後ろということがはっきりしている。開発の過程で迷うことがあれば後席本位で決定する。そんな前提で開発されるクルマは世界を見渡しても、今日、本当に数少ない。




 そのうちのひとつとして挙げられるのは、ダイムラーの中でも最もラグジュアリーなラインとなる、メルセデス―マイバッハだろう。


 


02年にその名が復活して以来、ごく一部の例外を除いては一貫してジョーファードリブンを手掛けるこのブランドは、現在Sクラスをベースにロングよりもさらに長い5465㎜の全長に3365㎜のホイールベースをもつモデルを展開。さらにボディを1m以上も長くしたストレッチモデルを、代々のリムジンに充てがわれてきたプルマンの名を携えて受注生産している。




 取材に駆り出したS560はメルセデス―マイバッハ(以下マイバッハ)の中でも言ってみればベーシックなモデルとなるわけだが、それでも6ライト化でスクエアな開口型となったリヤドアを開ければ待っているのは、並のSクラスとは異なるゆったりとした空間だ。




 後席を大型コンソールでセパレート化して格納テーブルを備えるファーストクラスパッケージは敢えてマイバッハを選ぼうというオーナーであれば迷わず載せるだろう70万円余のオプションだが、革の張り感やクッション材も並みのSクラスより緩やかに身体を包み込むように調律されていることもあり、特徴である可動域の大きいリクライニング機能も出番が多くなるに違いない。




 一方で、その後席を最も立てた状態に調整し、センターコンソール側方に収められたテーブルを引き出せば、そこは無理のない姿勢でデータと対峙するビジネススペースにも変貌する。テーブルのサイズは12インチくらいのモバイルラップトップなら載せられるほど大きいところも、そういう用途を考えてつくっている


と伺えるところだ。




 それが前席であれ後席であれ、車窓越しに歩行者の視線を感じることは少ない。もちろん見る人が見ればそのサイドシルエットは特別なものだろう。が、Sクラスが当たり前のように走る東京の特殊な地域性を差し引いても、マイバッハは対外的に敢えて目立たないように加飾などの要素を抑えているようにも見える。




 でも、恐らく多くのオーナーにとって、これは好都合なことなのだと思う。昼日中の一般的なビジネスの場所においては、一見普通のSクラスのように見えるという、ある種の秘匿性が望まれることは我々のような庶民でも理解しやすい。同じに見えて実は素材が違う時計とか、実は裏地が違うスーツとか、そういう礼式と嗜好を両立したニーズがクルマにもあるということがダイムラーに読めていたとするならば、それは先代マイバッハの経験からくるものかもしれない。




 マイバッハの乗り心地はあくまでSクラスの延長線にある。ファントムのように愕然とするほど静かでもないし、時折ランフラットタイヤ越しの細かな突き上げが伝わることもあるが、ビジネスサルーンとしては十二分に上等だ。




 むしろ驚くべきはこのロングホイールベースをして殆ど基準車のSクラスと変わらぬ感覚で走れてしまうドライバビリティの高さにあって、運転席に回ってステアリングを握っても、背後に長いものを背負う癖は無に等しい。ドライバーの身になれば普通のクルマを運転する感覚で接しても後席の主に不快なGを伝えることは少ないだろう。或いは週末、主が運転側に回るという場面でも煩わしさはないはずだ。

〈トヨタ・センチュリー〉

初代が30年、二代目が20余年と、半世紀に渡りつくり続けられている日本が誇るショーファーカーが三代目へ襷が渡された。御料車としても供されるゆえ、奇をてらわず、創業以来蓄積されてきたトヨタのクルマづくりの粋を集めてつくり上げられるセンチュリーは気品に満ちている。フラットな乗り心地と静粛性が追求されたその乗り味は、開発コンセプトが的確に具現化されたものだ。



V型8気筒DOHC+モーター/4968㏄ 


最高出力:381㎰/6200rpm[モーター:224㎰]


最大トルク:52.0㎏m/4000rpm[モーター:30.6㎏m]


JC08モード燃費:13.6㎞/ℓ 


車両本体価格:1960万円

折り目正しき英国の伝統と格式が現代的に昇華した新型

 一方で、そういう多様性や親和性を超越した存在にあるのがファントムということになるだろうか。




 その一世紀に迫りつつある歴史の中で、ドライバーズカーとして設えられたクーペなどの派生モデルはいくつか存在するも、基本的には生粋のショーファードリブンカーとして開発されてきたファントムは、今年日本に上陸した新型で八代目だ。七代目以降はBMW傘下のブランドとして英グッドウッドの本社敷地内にある工場ではタクトタイム150分という特別なラインで架装され、最終工程でタクトタイム49分のゴースト系のラインと合流するという複雑な生産動線が採られている。




 八代目で採用された新しいアルミスペースフレームは、先日デビューしたカリナンや今後登場するだろう新型ゴースト系とも共有されることが決まっており、この世代で工程はある程度合理化されるだろう。もちろんそれは生産性の向上のみならず、時間的猶予を緻密なつくり込みの側に振り分ける目的もあるはずだ。




 先代ファントムは長き歴史の中でも特に60年代以降、V型からのイメージをレトロフィーチャー的に解釈したもので、その卓越したセンスが21世紀のロールス・ロイスの成功において重要な役割を果たしたことは想像に難くない。恐らくは自動車のデザイン史に名を残すことになるだろう、その先代のイメージを新型は綺麗にトレースしている。




 サルーンにして全高1645㎜という規格外のプロポーションは、着帽で乗り込んでの後席の着座姿勢を折り目正しいものとするためだろう。表皮のしっとりとした触感とは裏腹に、着座感には一定の張りもある。フットレストは電動でポップアップするようになったが、リクライニングを倒しても、その広大な前後長をフルに使って寝そべるような姿勢をとらせてはくれない。最上にして、いかにもイギリスらしくマナーが重んじられた空間である。




 但し、その設えはオーナーの要望を如何様にでも受け止めるのはご存知のとおりだ。そこまでの主張は必要ないとあらば、メータークラスターと一体化したギャラリーと呼ばれるオーナメントなど新しい演出で遊んでみるのもいいだろう。デザイン的にはこちらも先代のイメージを踏襲しているが、端々にはコンテンポラリーなテイストも散りばめている。




 ファントムが先代と最も変わったところといえば、動的性能ではないだろうか。特にステアリングを握る側の立場でいえば、それまで8時20分の位置でステアリングに指を掛けて送りハンドル気味に乗るのが一番しっくり収まっていた先代に対して、新型は能動的な操舵に対して車体の応答ラグが歴然と少なくなった。足の裏というよりも足の指ひとつの力加減で滲むようにトルクを後輪に伝えるパワートレーンの柔軟性は従来どおりだが、先代に対すればクルマの側が賓客に相応しいGコントロールへと導いてくれる、平たく言えば運転しやすくなった感がある。




 特等席である後席は50㎞/h辺りから下の速度域で時折後輪側から微細な音振が入ってくるものの、速度が上がるにつれそれが霧散してからは最上に相応しい快適性をみせてくれる。マジックカーペットとはよく言ったものだが、新しいファントムは乗り心地だけでなく、100㎞/h付近から向こうの静粛性も他とはちょっとレベルが違う。それはもちろん価格も含めての話だが、新型でもファントムが圧倒的な自動車体験を約束してくれる存在であり続けていることは間違いない。

〈ロールスロイス・ファントム〉

シートやテーブルといった調度品は言うに及ばず、ルーフに輝く星空やシャンパングラス、ドアに仕込まれたアンブレラなど、世界最上級のショーファーカーとして、後席乗員に対して贅の限りが尽くされる。しかしその真髄は、外界の喧騒から隔絶する圧倒的な静粛性と、快適な乗り心地。現行型のファントムは新たなアーキテクチャーが採用され、乗り味は新世代のものとなっている。



エクステンデッド・ホイールベース


V型12気筒DOHCツインターボ/6750㏄ 


最高出力:571㎰/5000rpm 


最大トルク:900Nm/1700-4000rpm


JC08モード燃費:― 


車両本体価格:6540万円

最新技術の投入と調律で運転席も後席も心地良い

 これら2台の概要を認識した上でセンチュリーに接すると、まず圧倒されるのは塗装の品質だ。7コートの間に3回の水研ぎ、そしてポリッシュによる仕上げを手作業で行なうというそれは、大袈裟でなく鏡のような平滑さをみせる。オーナーは乗降の際にこの映り込みで身だしなみをササッと整える―と、そんなドラマのような話が本当にあるそうで、Cピラーの磨きはことのほか入念に施しているという。




 センチュリーのサイドシルは前席と後席とで高さが違う。これは後席側の乗降の所作を美しく見せるための工夫で、初代の後期型から続く伝統として新型でも踏襲されている。また、後席のウインドウサッシュは乗り込んだ賓客が額装された肖像にみえるように枠取ってあるというエピソードも初代から続くものだ。




 センチュリーの骨格レベルの徹底的な後席優先ぶりは着座感ひとつにも現れる。優しく沈み込むアンコの中に身体を支える張りをもたせつつ、乗降部位のヘタリを抑えるべく、座面には片席5つのコイルスプリングが仕込まれており、その着座感は確かに上質な硬さを備えたソファのそれに近い。レザーはレクサスでいうところのLアニリンと同等のオーガニックな鞣しのものが用いられるが、表面にベンチレーション用のパンチングが施されるぶん、ウールよりも若干柔らかいフィット感が出ているという。後日、ウール仕様に乗ることができたが、確かにざっくりとした毛足感もあってタッチはレザーよりも気持ち硬めの印象だった。




 後席から見る内装の仕立ては華美さを程よく抑えたいかにもセンチュリーらしいものだ。ウインドウスイッチがアームレスト付けとなり、シートや空調などのコントローラーはアームレストの液晶パネル内に集約されるなど、時流に沿ったアップデートも散見されるが、引き上げ式のドアインナーノブやBピラー部に画された靴べら差しなど、独自の世界観も大事に守られている。リクライニング機能はアーキテクチャーのベースとなった先代LS600hL譲りで調整しろが一気に大きくなった。




 前席に回ると目につくのは一枚板を切削して土台をつくり、そこに杢目を貼り付けることで複雑な曲げ表情をつくり出したウッドのコンビパネルに思わず目が奪われる。が、他の仕立てに高級車らしい加飾はない。レザーラップのステッチの仕立てやセンターコンソールにどさっと並んだスイッチ類をみるに、運転手はプロとして仕事に徹してくださいねと求められているようでもある。




 ところがそこにいて走り始めると驚くのが、ハイブリッドシステムの絶妙な調律だ。加速感も減速感も思い通りに引き出せるという点でいえば、ファントムにも劣らないだろう。さらに100㎞/h以下くらいまでの速度域では積極的にモーターを多用するマネジメントによって、自ずと静粛性も高まっている。特に微妙なGの加減を足裏でコントロールできる回生ブレーキとの減速協調ぶりはお見事の一言に尽きる。




 音・振動での雑味要素となる4WDから敢えてFR化されたことによる操舵フィールもさることながら、新型センチュリーは曲がりの味つけもしっかりしている。ショーファードリブンらしくロールを抑え気味にしながらも、荷重移動にはしっかり姿勢で応える足まわりのマナーはベースである先代LSを超えているかもしれない。ちなみにセンチュリーはスポーツモードなどの設定も用意されるが、それを必要としないほどデフォルトのドライバビリティが優れている。長時間に渡る慎重な運転を終えたショーファーも、これなら主を降ろした帰り道にストレスが溜まることはないだろう。




 と、運転席の意外なご馳走ぶりを知っても、センチュリーの本懐はやはり後席にあると思う。日本の常速域にピタリとチューニングが合わせられた足まわりは、ごく低速域から極めて滑らかな凹凸のいなし感をもって、乗員に不快な音・振動を伝えない。マンホールや目地などの鋭利な入力では専用設計されたレグノの減衰効果も効いているのだろう。ストッストッとその気配を極力丸めながら気持ち良さすら感じる乗り心地をみせてくれる。但し、80㎞/h付近を境に少しずつロードノイズが目立ち始めるのは惜しい。高速巡航ではさすがにファントムのような静かさというわけにはいかないが、下まわりからのノイズをもう少し封じ込めれば肉薄できるレベルにくると思う。




 先にも触れたように、センチュリーの後席は一流の工芸を多用しながら、他の2台のように華美にみせるための特別な設えは少ない。むしろ外からみての様式美的な存在感に比例して主の、偉大が故の慎ましさを表すものでなければならないと留意しているようだ。その慮りがセンチュリーを孤高のものとしていることは言うまでもない。なにせそれは、つくり手自ら、念頭に置く筆頭の顧客は皇室と仰せるほどの存在なわけである。

〈メルセデス・マイバッハSクラス S 560 4MATIC〉

1920年代のヨーロッパやアメリカで、美しいスタイルと高級感で当時の王侯貴族やセレブリティを魅了したと言われるマイバッハが、2002年に復活。12年にモデルチェンジが行なわれた現行型はメルセデスブランドの車種として仕立て直された。ボンネットマスコットはスリーポインテッドスターとなり、アピアランスもSクラスと同様のテイストで、メルセデスのフラッグシップを印象付ける。



V型8気筒DOHCツインターボ/3982㏄


最高出力:469㎰/5250-5500rpm 


最大トルク:71.4㎏m/2000-4000rpm


JC08モード燃費:8.4㎞/ℓ 


車両本体価格:2278万円
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