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ベントレー・ミュルザンヌ・スピードはまさに疾走する威風堂々だ!


3代目コンチネンタルGTやベンテイガの登場でまさに新時代を切り拓いているベントレーだが、スポーティとラグジュアリーの同居は昨日今日の話ではない。最高峰を飾るミュルザンヌのハイパフォーマンス版で真髄を知る。


REPORT◎高平高輝(TAKAHIRA Koki)


PHOTO◎市健治(ICHI Kenji)

 クルージング状態からほんのわずかスロットルペダルを踏み込むと、遠くで風が梢を揺らすような、どこかで水が流れているような微かなどよめきが伝わってくる。以前よりもずっと静かになっているようだが、それでもV8ツインターボエンジンの重厚な脈動を確かに感じることができるのだ。この点が、同じV8ツインターボとはいえ、俊敏で洗練されたコンチネンタルGTやベンテイガのエンジンとはまったく別種のものだ。


 


 今やミュルザンヌだけに積まれている6.75ℓ(本当は6 3/4ℓと言ったほうが雰囲気だが)のV8ツインターボが、ユーロ6をクリアしてここまで生き延びているなんて、それだけで凄いことである。何しろ遡れば1950年代からの長い歴史を持つエンジンである。そのいかにも頑健屈強な反応が、単にパワフルなどという印象を超えて、色々なことを思い出させる。

2.8tを自在にコントロールする妙技を見せるのが、いまだ現役の6.75ℓV8ツインターボである。上部にはハンドメイドされた証としてプレートが備わる。

 1990年代末に一時アルナージ(ミュルザンヌの先代モデルに当たる)の新しいパワーユニットとして積まれていたBMW製4.4ℓV8ツインターボを評して、カーグラフィック初代編集長の小林彰太郎さんが「ベントレーには線が細すぎますね」とにべもなく言い切っていたことを思い出す。


 


 事実、間もなくV8ツインターボOHVが復活することになったが、その変更はフェルディナンド・ピエヒその人の鶴の一声で決まったと言われていたものだ。ベントレーの心臓として必要なのは滑らかで洗練されたマナーではなく、剛毅果断なレスポンスだということを誰よりも理解していたのである。もちろん、このV8も十分にスムーズで洗練されており、今では気筒休止システムも備わり、燃費も昔に比べれば別物のように向上している。だがそれでも、重々しい大きな機械の精密な運動を感じさせるのである。

ミュルザンヌ1台を仕上げるのにかかるマンアワーは……

 意外なことに車両本体価格は3855万円だという。久しぶりにベントレーのコーチビルドモデルに接したこともあって、現在のベントレーのフラッグシップモデルたるミュルザンヌ・スピードがそんなものか、と思った。無論、皮肉で言っているわけでもなければ、アパレル通販で成功してお金の使い道に困っているわけでもない。以前のベントレーのコーチビルドモデル、すなわち本拠地の英国クルーでハンドメイドされるモデルならば、4000万を楽に超えても当然だったからだ。


 


 ベンテイガやコンチネンタルGTで稼いだ分で出血サービスをしているはずもないから、今やベントレーの旗艦もずいぶんと効率的に生産されるようになったということなのだろう。といっても、ミュルザンヌを1台仕上げるのに要するマンアワーはおよそ400時間(うち150時間はレザーインテリアの製作に費やされる)、これは一般的な小型量産車の20倍ほどに当たるはずだ。効率的とはいえ、世間一般の意味とベントレーのそれは違うのである。ただし、2009年にミュルザンヌがデビューする直前まで生産されていた2ドアクーペのブルックランズの製造時間は確か660時間と言われていた。

試乗車にはさらにウッド&ハイド4本スポークステアリングがオプションで装備されていた。ウッドパネルはバーウォールナットである。

 そもそもベントレーともなれば、“吊るし”のままで乗る人は少数派だろう。あらゆるビスポークに応えてくれるということは、カスタマーも相応の知識と経験、そして“良い趣味”を持たなければならない。以前、マリナー部門の責任者に「とんでもない突飛な色の組み合わせや、非常識な注文を受けたらどうするのか?」と訊ねたことがあるが、彼は「粘り強く説得します。ほぼすべてのお客様が我々のお薦めに納得してくださいます」と自信たっぷりに語ったものである。


 


 ちなみにオプションとなるアダプティブクルーズコントロールだけで約54万円、ウッドとレザーの4本スポークステアリングホイールもおよそ36万円、シートパイピングも34万円という具合だから、実際に注文する場合にはたちまち数百万円が上乗せされる可能性があることは言うまでもない。

スピードにはダイヤモンドキルトシートなどが含まれるマリナー・ドライビング・スペシフィケーションズが標準で装備される。
5名乗車が可能だが後席には基本は2人で乗るべきであろう。センターアームレストにはシートポジションやエアコンのコントローラーが収まる。


 ミュルザンヌ・スピードは14年に追加された高性能バージョンである。スタンダードのミュルザンヌが377kW(512ps)と1020Nmを発生するのに対して、スピードは395kW(537ps)と1100Nmの最高出力と最大トルクを生み出す。パワーアップしているといっても、もともと1000Nm以上の超弩級トルクじゃないかと口を挟みたくなるが、実際0→100km/h加速は4.9秒で、標準モデルよりも0.3秒短縮されているという。


 


 わずか4000rpmでピークパワーに達するからフルスケールが5000rpmという古風な回転計でも何の不都合もないが、なぜかゼロが右上に位置するレイアウトはやはり見にくい。最高速度は305km/hということでスピードメーターは330km/hまで刻まれている。


 


 ミュルザンヌのボディ外寸は5575×1925×1530mm、ホイールベースは3270mmという文字通りの堂々たるサイズだが、やせ我慢ではなく意外に持て余す感覚はない。もちろん、それなりの注意は必要だが、実は今やポルシェ・マカンでもこのぐらいの全幅はある。ちなみにロールス・ロイス・ファントムの全長×全幅×全高は5840×1990×1655mmでホイールベース3570mm、ひと回り大きくなった新型センチュリーは5335×1930×1505mm、ホイールベースは3090mmである。全幅2mを楽に越えるファントムに比べれば10cmほど狭く、大きいことは大きいが心配するほどではない。

自動車界に必要な技術の継承

 可変制御ダンパー付きエアサスペンションもよりスポーティに締め上げられているというが、ドライブモードのダイアルをスポーツに回しても、悠揚迫らぬ重厚でフラットな乗り心地は基本的に変わりない。何しろ2.8tもあるヘビー級(しかも前1410、後ろ1390kgの前後重量配分)である。普通の車2台分の質量を破綻なく制御し、快適と納得させるだけで見事な技術と言わざるを得ない。


 


 庶民にはまったく縁のない車ではあるが、だからといって自分には無関係の無駄と切り捨ててしまっては世界が極端に狭くなる。スポーツでも冒険でも究極を追い求める人がいなければずいぶんと世の中は味気ないものになるのではないだろうか。技術の継承という意義だけでも失ってはいけないのがベントレーだ。自動車の世界に必要な存在なのである。




※本記事は『GENROQ』2018年12月号の記事を再編集・再構成したものです。

SPECIFICATIONS


ベントレー・ミュルザンヌ・スピード


■ボディサイズ:全長5575×全幅1925×全高1530mm ホイールベース:3270mm ■車両重量:2800kg* ■エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ 総排気量:6747cc 最高出力:395kW(537ps)/4000rpm 最大トルク:1100Nm(112.2kgm)/1750〜3250rpm ■トランスミッション:8速AT ■駆動方式:RWD ■サスペンション形式:Fダブルウイッシュボーン Rマルチリンク ■ブレーキ:F&Rベンチレーテッドディスク ■タイヤサイズ:F&R265/40ZR21 ■パフォーマンス 最高速度:305km/h 0→100km/h加速:4.9秒 ■環境性能 CO2排出量:342g 燃料消費率(NEDC):15.0ℓ/100km ■車両本体価格:3855万円


*サンルーフ付き

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