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【牧野茂雄の自動車業界鳥瞰図】 失われた「ゼロ次の焦点」


自動車強国を目指す中国は電動化車両に将来を託した。欧州勢は電動化を横目で見ながらコネクテッドと自動運転に開発を集中させつつあり、この分野での主導権を取ろうとしている。米国はガソリン安から燃費より「豪華で快適」が売れ、各社がその恩恵に預かっている。そんななか、日本の素材産業が次々と不正の自白を始めた。事態は深刻である。


(TEXT@牧野茂雄)

神戸製鋼だけで終わるはずがないと危惧していたことが現実になった。三菱マテリアルと東レでも製品データの改ざんが発覚した。幸い製品事故は起きていないようだが、私自身が過去に何度も取材をしてきた企業であり、日本の素材産業のなかの優等生であるだけになおさら驚いた。「優等生が校舎の裏でタバコを吸っていた」のなら笑って済ませるが、本件は「優等生が先生を買収していた」ようなものだ。答案用紙の回答を先生が書き直して「マル」にしていたのに等しい。まったく笑えない。




三菱マテリアルと東レは、グループ内子会社での不正だった。顧客との間で「この規格で納入してほしい」と合意していた契約を無視し、規格に満たない製品を「合格品」として出荷していた。素材メーカーと製造業の間には、わずかな規格外であれば「値引きして採用する」という特別採用=トクサイが慣例として存在するはずだが、値引きを要求されるトクサイにはしなかったのだろう。製品データを改ざんして契約内製品として出荷していた。さらに東レの場合は、ネットへの書き込みから公表に至ったという記者会見での正直コメントが「じゃあ書き込みがなかったら公表しなかったのか」と逆に攻撃に遭った。




内部告発者に冷たいのは世界中どこでも同じだ。「日本はとくに冷たい」と言う方もいるが、私は五十歩百歩だと思う。告発には人生を賭ける勇気が要る。だから企業は口封じができていた。外部から指摘される、あるいはフタをしておいた部分をこじ開けられでもしないかぎり不正は表沙汰にはならなかった。しかし時代は変わった。世の中のだれもがインターネットへの書き込みという手段を得たことで匿名告発はしやすくなった。




この環境変化に会社組織が追いついていないのが日本の現状だ。ネット対応の危機管理は米国企業が進んでいる。当然そのコストも膨らんでいるが、うまく価格転嫁されている。株主がそのコストを必要と認めているし、危機管理体制の優劣が株主人気を左右するからだ。日本企業が「いままでにない株主圧力を受けている」というのはまったくの戯言であり、単に説明責任を果たしていないか、説明して納得してもらうという基本、透明性への認識が欠如しているに過ぎないと私は思う。最終的に自分の利益になるのであれば株主は納得する。長期安定株主はそうやって獲得するものだ。




危機に陥らないようにする。危機から遠ざかっている。これが企業の「0次安全性」だ。そのためには社内体制を点検し、必要な部署に必要な人員を配置し、偽りのないデータを全社内が共有する体制を作ることが必須である。内部告発されるような後ろめたいことは誰もしない。フェイク告発やいやがらせを受けにくい企業になる。これが予防安全の基礎だ。

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